<< 前へ次へ >>  更新
93/227

第93話 15歳のイングリス・天恵武姫護衛指令

 天恵武姫(ハイラル・メナス)であるリップルが、暫くの間騎士アカデミーに身を寄せる事になった。

 とは言えそれで、通常の訓練が休みになる筈が無く――

 今日はイングリス達の第一回生はボルト湖畔の機甲鳥(フライギア)ドックに向かい、騎士科と従騎士科合同の訓練を行った。

 そしてその帰りは――いつものように、アカデミーまでの長距離走である。


「フハハハハハ! さぁ走れ走れぇぇぇぇいいっ! ほぅら従騎士科の諸君! 諸君らを無印者だからと、内心小馬鹿にしおる騎士科の奴等に吠え面かかせる好機だぞ! 騎士科の諸君は、格下の従騎士科に負けるなど騎士失格だぞ! 意地を見せろおぉぉぉっ!」


 従騎士科担当のマーグース教官が、機甲鳥(フライギア)で生徒達を先導して行く。


「はぁ、はぁ……! い、いやな言い方するわね……あの教官性格悪いわ……! あたし達、従騎士科を小馬鹿になんてしないし……!」


 息を弾ませながら、ラフィニアが文句を言う。


「で、出来るわけないわよ……! だ、だってあれ……!」


 レオーネの視線の先は、マーグース教官の乗る機甲鳥(フライギア)に向いていた。

 彼の乗る機甲鳥(フライギア)は、飛んではいなかった。

 イングリスが背負い上げて、運んでいたのだ。

 せっかくの訓練なので、より強度を上げようとしているうちにそうなっていた。

 従騎士科の面々の間では、お馴染みの光景である。


「と、とんでもないですわね……で、ですがせめてスピードくらいは!」


 リーゼロッテが意を決し、一段とスピードを上げた。

 ぜえぜえと息を切らせつつ、イングリスと機甲鳥(フライギア)に追いついた。


「あ、リーゼロッテ。速いね?」

「す、涼しい顔ですわね……!?」


 イングリスは多少汗ばんではいるものの、まるで息は上がっていないのだ。


「うん。大分、慣れて来たから」

「な……慣れれば――どうにかなるものですの……!?」

「うん。そういえばバンとレイはどうしたの? いないみたいだけど――?」


 従騎士科に通う、リーゼロッテの従者の二人だ。

 彼等は魔印(ルーン)を持っているが、リーゼロッテに仕えるためにわざわざ従騎士科に入っていた程だった。


「アカデミーを退学して、実家にお帰りになりましたわ」

「え、そうなんだ……? あ、アールシア宰相が辞めたから?」


 あの二人は、貴族の子弟でリーゼロッテの従者だった。

 何故かというと、リーゼロッテが宰相の娘だから。

 それが、宰相の娘ではなくなったのだから――こういう事になる。


「ええ。察しがよろしいですわね。お父様は職を辞して領地に戻られましたから――ですが、仕方のない事ですわ。家があっての我々ですからね」

「ちょっと寂しいね?」

「そうでもありませんわ。実は、彼等のご実家の指示は騎士科への転属でしたの。わたくしの従者は外れて――ね。彼等はそんな掌を返すような真似はできない、とアカデミーをお辞めになったのですわ。ですから、騎士の志を持つ限り、わたくし達は友人です。いずれまた、共に戦う時もあるでしょう」

「そう……じゃあ、リーゼロッテもわたしの機甲鳥(フライギア)を使ってね? 乗せてあげるから」

「ええ、ありがとう――」


 と、追いついてきたラフィニアがリーゼロッテの背を叩いた。


「よぉし! 帰って食堂で甘いものでも食べましょ! あたしがおごるわよ、そういう時は甘いものを一杯食べて、気分転換が一番! ね、レオーネ?」


 レオーネも追いついて来ていた。


「ええ! 太るのは気になるけど、今日はとことん付き合うわよ」

「あ、そうだクリス。せっかくだからリップルさんも誘ってみない?」

「今、セオドア特使と校長先生が色々調べてるんだよね。それが終わってたら、誘ってみてもいいかもね?」

「あまり詳しく事情は存じ上げませんが――わたくし達が天恵武姫(ハイラル・メナス)様をお護りできるなんて、光栄なことですわ!」

「じゃあ、リーゼロッテも賛成ね?」

「はい! 天恵武姫(ハイラル・メナス)様といえば、やっぱり女の子の憧れですからね! 実は昔、魔石獣からお助け頂いたこともありますの。出来るなら是非、お近づきになってみたいですわ!」


 どうやらリーゼロッテは天恵武姫(ハイラル・メナス)に憧れがあるらしい。


「よーし、じゃあ早く帰りましょ! スピードアップよ!」

「いや、ラフィニア。私けっこう限界……!」

「ちょっとこれ以上はきついですわ……!」

「うん。分かった」


 イングリスがギュンと加速した。


「ちょ……! クリス」

「! ええぇぇぇっ!? まだそんなに速くなるの!?」

「し、信じられませんわ……!」


 ラフィニア達も驚いていたが、機甲鳥(フライギア)に乗っているマーグース教官にも予想外の速度だったようだ。


「ぬおおおおぉぉぉぉぉっ!?」


 速過ぎたらしく、振り落としてしまった。


「あ、済みません教官」

「か、構わんぞ素晴らしい走り――うぐおおぉぉぉぉっ!?」


 そして、走って来る後続に踏まれていた。


「ヘヘへッ! ちょっといい気味だな、いつも人をシゴキまくってくれてるお礼だぜ!」


 プラムの手を引いて後方にいたラティも、教官を踏んづけていた。


 そしてアカデミーに戻ると、イングリス達は甘いものを食べに行く暇も無く呼び出しを受けた。

 天恵武姫(ハイラル・メナス)リップルを護るための、作戦指示があるそうだ。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


『面白かったor面白そう』

『応援してやろう』

『イングリスちゃん!』


などと思われた方は、ぜひ積極的にブックマークや下の評価欄(☆が並んでいる所)からの評価をお願い致します。


皆さんに少しずつ取って頂いた手間が、作者にとって、とても大きな励みになります!


ぜひよろしくお願いします!

<< 前へ次へ >>目次  更新