第93話 15歳のイングリス・天恵武姫護衛指令
とは言えそれで、通常の訓練が休みになる筈が無く――
今日はイングリス達の第一回生はボルト湖畔の
そしてその帰りは――いつものように、アカデミーまでの長距離走である。
「フハハハハハ! さぁ走れ走れぇぇぇぇいいっ! ほぅら従騎士科の諸君! 諸君らを無印者だからと、内心小馬鹿にしおる騎士科の奴等に吠え面かかせる好機だぞ! 騎士科の諸君は、格下の従騎士科に負けるなど騎士失格だぞ! 意地を見せろおぉぉぉっ!」
従騎士科担当のマーグース教官が、
「はぁ、はぁ……! い、いやな言い方するわね……あの教官性格悪いわ……! あたし達、従騎士科を小馬鹿になんてしないし……!」
息を弾ませながら、ラフィニアが文句を言う。
「で、出来るわけないわよ……! だ、だってあれ……!」
レオーネの視線の先は、マーグース教官の乗る
彼の乗る
イングリスが背負い上げて、運んでいたのだ。
せっかくの訓練なので、より強度を上げようとしているうちにそうなっていた。
従騎士科の面々の間では、お馴染みの光景である。
「と、とんでもないですわね……で、ですがせめてスピードくらいは!」
リーゼロッテが意を決し、一段とスピードを上げた。
ぜえぜえと息を切らせつつ、イングリスと
「あ、リーゼロッテ。速いね?」
「す、涼しい顔ですわね……!?」
イングリスは多少汗ばんではいるものの、まるで息は上がっていないのだ。
「うん。大分、慣れて来たから」
「な……慣れれば――どうにかなるものですの……!?」
「うん。そういえばバンとレイはどうしたの? いないみたいだけど――?」
従騎士科に通う、リーゼロッテの従者の二人だ。
彼等は
「アカデミーを退学して、実家にお帰りになりましたわ」
「え、そうなんだ……? あ、アールシア宰相が辞めたから?」
あの二人は、貴族の子弟でリーゼロッテの従者だった。
何故かというと、リーゼロッテが宰相の娘だから。
それが、宰相の娘ではなくなったのだから――こういう事になる。
「ええ。察しがよろしいですわね。お父様は職を辞して領地に戻られましたから――ですが、仕方のない事ですわ。家があっての我々ですからね」
「ちょっと寂しいね?」
「そうでもありませんわ。実は、彼等のご実家の指示は騎士科への転属でしたの。わたくしの従者は外れて――ね。彼等はそんな掌を返すような真似はできない、とアカデミーをお辞めになったのですわ。ですから、騎士の志を持つ限り、わたくし達は友人です。いずれまた、共に戦う時もあるでしょう」
「そう……じゃあ、リーゼロッテもわたしの
「ええ、ありがとう――」
と、追いついてきたラフィニアがリーゼロッテの背を叩いた。
「よぉし! 帰って食堂で甘いものでも食べましょ! あたしがおごるわよ、そういう時は甘いものを一杯食べて、気分転換が一番! ね、レオーネ?」
レオーネも追いついて来ていた。
「ええ! 太るのは気になるけど、今日はとことん付き合うわよ」
「あ、そうだクリス。せっかくだからリップルさんも誘ってみない?」
「今、セオドア特使と校長先生が色々調べてるんだよね。それが終わってたら、誘ってみてもいいかもね?」
「あまり詳しく事情は存じ上げませんが――わたくし達が
「じゃあ、リーゼロッテも賛成ね?」
「はい!
どうやらリーゼロッテは
「よーし、じゃあ早く帰りましょ! スピードアップよ!」
「いや、ラフィニア。私けっこう限界……!」
「ちょっとこれ以上はきついですわ……!」
「うん。分かった」
イングリスがギュンと加速した。
「ちょ……! クリス」
「! ええぇぇぇっ!? まだそんなに速くなるの!?」
「し、信じられませんわ……!」
ラフィニア達も驚いていたが、
「ぬおおおおぉぉぉぉぉっ!?」
速過ぎたらしく、振り落としてしまった。
「あ、済みません教官」
「か、構わんぞ素晴らしい走り――うぐおおぉぉぉぉっ!?」
そして、走って来る後続に踏まれていた。
「ヘヘへッ! ちょっといい気味だな、いつも人をシゴキまくってくれてるお礼だぜ!」
プラムの手を引いて後方にいたラティも、教官を踏んづけていた。
そしてアカデミーに戻ると、イングリス達は甘いものを食べに行く暇も無く呼び出しを受けた。
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