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第80話 15歳のイングリス・天恵武姫の病

「はい、ミートソースとグラタンとパエリアを三人前ずつね! お待ちどうさま!」

「「ありがとうございます!」」


 イングリスとラフィニアは、にっこりと満面の笑みで料理を受け取った。

 ここは騎士アカデミーの食堂。

 既に第一陣の料理を平らげたイングリス達は、食堂のおばさんに料理の追加をお願いしに来たのだった。


「ほんと、いい食べっぷりだねえ。まだまだ作れるから、どんどん食べてどんどん強くなるんだよ!」

「「はい!」」


 また声を揃えて返事をすると、自分達の席に戻った。


「あ、相変わらずとんでもなく食べるわね……こんな朝から」


 一緒の席に座っていたレオーネは呆れ半分にそう言った。


「よ、よくそんなに入りますわね――信じられませんわ」


 リーゼロッテは目を丸くしている。余程驚いたようだ。


「そんなに食ってよく太らねえな、二人とも」

「ある意味羨ましいですね……」


 ラティやプラムも目を丸くしている。


「本当にね、私なんてちょっと食べ過ぎたらすぐにお肉になるのに――」


 どうにもレオーネは太りやすい体質らしいので、羨ましそうだ。


「そう? あたしはむしろお肉が欲しいわよ? ここに――」


 と、ラフィニアは自分の胸をぽんぽんと撫でる。


「ねえどうやったら大きくなるの、レオーネ?」

「わ、私も知りたいです……!」


 ラフィニアに似た体形のプラムも食いついていた。

 リーゼロッテは双方の中間くらいなので、単に様子を眺めている。


「わ、分からないわよ。気が付いたらこうなっていただけだし……」


 と、恥ずかしそうにするレオーネの服の胸元には、リンちゃんが埋まって寛いでいる。


「いいなあ――一回替わってほしいわよ」

「私の体でそんなに食べたら、あっという間に凄く太るわよ?」

「つまり、太らない上にこっちも立派なクリスが最強ってことよねー?」

「ひゃっ!? あ、当たり前みたいに胸を触らないで……!」

「いいじゃない、羨ましいんだから!」

「もう、せめてお風呂の中だけにしてってば――」

「お! つまりこれからお風呂なら、クリスの胸を揉み放題ってことでよろしいと?」

「よろしくない!」

「あはは……でもそんなに食べて大丈夫? これからラファエル様にお会いするんでしょう?」


 レオーネの言う通り、今日は騎士アカデミーの休講日であり、これから街に出てラファエルに会いに行く約束をしていた。

 先日の天上領(ハイランド)への物資献上を行う際の事件からは暫くが経ち、既にラファエルも王都に帰還していた。

 隣国との国境に虹の王(プリズマー)の死骸を輸送する任務は、大きな問題なく成功したそうだ。

 彼と会うならば、ほぼ確実に何か食べさせてくれるという話にはなるだろう。


「「うん。だから腹三分目くらいにしてるよ?」」


 二人は当然、と言いたげに口をそろえる。


「そ、それで三分目なのね――」

「そんなに食うんだと、メシ代も大変だろうなぁ」

「そうなのよねえ。田舎から王都に出て来る時、食べ過ぎて途中で路銀が無くなっちゃったりもしたわ」


 ラティの指摘にラフィニアは頷く。


「ああ。そんなこともあったね」

「今は校長先生のおかげで食堂は食べ放題だけど――ずっとじゃないし、食べ放題が終わったら、ラファ兄様に言って食費をもらう事にする?」

「それも悪い気がするけど、ね」

「あーあ。この間の事で、どかーんとご褒美とかもらえればよかったのにね」

「仕方ないわ。表向きには何も無かったって事になったんでしょう?」

「うん。そうらしいね」


 レオーネの言葉にイングリスは頷く。

 ラファエルや正規の騎士団の留守中に起きた例の事件に関しては、公式には「何もなかった」という扱いになるのだそうだ。

 アールシア宰相の部下は暴走して天上人(ハイランダー)の特使ミュンテーを討とうとしたし、ミュンテーはミュンテーで自分の研究成果の魔印喰い(ルーンイーター)を強くするために、夜の王都に放って罪もない騎士たちを狩らせていた。

 そのどちらもが、それを理由に関係が悪化、あるいは武力衝突が始まっても不自然ではないような問題である。


 天上領(ハイランド)側も王国側も、それを望まなかったという事だ。

 以前のラーアルの時のように、全てを血鉄鎖旅団の仕業と認定する事も今回は少々難しい。むざむざ特使を血鉄鎖旅団に討ち取られたとなると、責任者であるアールシア宰相や現場の騎士達の責任を問わねばならなくなるからだ。


 結局のところ、何も無かったという扱いにする方が一番丸く収まるのだ。

 ただ、それゆえにイングリス達の活躍も公式には無かった事にならざるを得ないのだった。

 しかし、それえでも何も音沙汰無しというわけには行かないという事で、イングリス達は近々王城で催されるパーティに招待されることになっていた。


 今日はそこに着ていくドレスを見立てに行く予定だったのだ。

 イングリス達にそんなお金は無いので、ラファエルが買ってくれることになっていた。


「よし、じゃあそろそろ行きましょクリス、レオーネ。王都のお店だから、きっとユミルより品揃えとか凄いわよ、楽しみよね?」

「うん。そうだね楽しみ」


 相変わらず、イングリスは着飾るのは好きだった。


「ちょっと意外よね。恋愛とか興味ないのにお洒落は好きなのね? イングリスって」

「そこは、自分で見て満足して楽しむものだから。自己満足が大事なんだよ」

「な、なるほど……」

「クリスは何を着せても似合うから、着せ替えさせると楽しいわよ! さぁ行きましょ」


 イングリス達は騎士アカデミーの敷地を出て、門の前でラファエルの迎えを待った。

 しかし、暫く待って現れたのは――


「あっ! おーいみんなー!」

「久しぶりね」


 姿を見せたのは、天恵武姫(ハイラル・メナス)のリップルとエリスの二人だった。

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