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第75話 15歳のイングリス・カイラル王立騎士アカデミー25

「……やっぱりちょっと気持ち悪いかな?」


 見ていると、ちょっと背中がぞくりとしてしまった。


「当り前じゃない。早く倒してクリス!」

「あまり長い間見ていたくないわ、あれは」

「うん――」


 イングリスは一人、ミュンテーの合成獣(キメラ)の前に出る。


「わたしを倒せたら、好きにすればいいでしょう。さぁかかって来なさい」

「ほひょひょひょひょおぉぉぉぉぉーーーー!」


 無数に生えた蜘蛛の脚先が氷の刃と化し、イングリスを襲う。

 巨体ではあるが、その動きは決して鈍重ではない。


「!?」


 むしろとても速く鋭い。

 脚一本一本の攻撃が、元の魔印喰い(ルーンイーター)のものを上回っている。

 加えてその攻撃の物量は魔印喰い(ルーンイーター)の比ではない。

 氷の刃の弾幕――そう形容するのが相応しい。

 さすがにこれでは、正面切って攻撃をかい潜りつつ突破するのは難しいか。

 攻撃の密度が高過ぎるのだ。身一つすら、すり抜けさせる隙間が無い。


「大きくて気持ち悪いのに早いわ、あいつ!」

「でもイングリスは当たってないわ! 大丈夫!」


 後ろに下がる事を許容すれば、被弾せずにやり過ごす事は不可能ではない。


「何という動きだ――彼女が何人にも見える……!」


 アールシア宰相はイングリスの動きに圧倒されているようだった。

 単に早いだけでなく身ごなしが余りに綺麗で、その輝きに思わず見惚れてしまうのだ。


「き、君達は一人に見えているのか?」

「はい、一応」

「見えているだけですけど」

「……今の騎士アカデミーには有能な人材が育っているようだな」


 その間も、イングリスはミュンテーの合成獣(キメラ)の周囲を時計周りに回るように攻撃を避け続けていた。

 ただ避けながら下がるだけでは芸が無い。反撃に転じる布石は打つべきだろう。


「ほひょおおおお! よいではないか、よいではないかあぁぁぁぁっ!」


 イングリスは首元を突き刺すような軌道の刃を避けつつ、合成獣(キメラ)の斜め後方に回り込んだ。

 それに反応し、合成獣(キメラ)がぐるりと向きを変えようとした瞬間――


「今っ!」


 全力で逆方向にもう一度跳躍。

 それにより、完全に向こうの視界から外れた。

 巨体ゆえに、方向転換には時間がかからざるを得ない。それを利用して虚を突いた。


「ほひょ?」


 イングリスの姿を見失い、間の抜けた声を上げた瞬間――


「はあああぁぁぁっ!」


 ドゴオオオォォォン!


「ぎょえええぇぇぇっ!?」


 イングリスの蹴りがミュンテーの顔面に突き刺さり、醜く歪ませていた。

 ――が、それだけだった。

 顔は歪み上半身は仰け反るが、無数の蜘蛛の脚が踏ん張り、その場に留まっていた。


「やはり、重い――」


 並みの魔石獣ならば、蹴り一発で吹っ飛ぶ所なのだが。

 やはり並みの化物ではない。


「ほひょお!」


 打たれ強く、そして反応も早い。

 蹴りで歪んだミュンテーの顔からすかさず舌が伸びて、イングリスに巻き付いて来た。

 膝元から太腿、腰、胸のあたりまで、ぐるぐると長くまとわりつく。


「ほひょひょひょひょ! 甘い、柔らかあぁぁぁい!」

「やめて下さい。下品です」


 イングリスは霊素殻(エーテルシェル)を発動。

 青白い光に覆われながら、ミュンテーの舌を引き千切って脱出した。


「あぎゃあああぁぁっ!?」

「ですが、やりますね――」


 いきなり霊素殻(エーテルシェル)を使わされた。

 魔素(マナ)を使えないこの空間では、これを使わざるを得なかったのだ。

 霊素(エーテル)の戦技は消耗が激しい。

 長期戦は避け、早く決着をつける必要があるだろう。

 この後、この空間からの脱出とファルスへの対処も必要になる。


「はあっ!」


 一旦間合いを取って着地したイングリスは、今度は真正面から突進した。


「ほひょほひょほひょお!」


 それに反応し、氷の刃の弾幕が降り注ぐ。


「反応するだけでも大したものです――」


 賞賛に値する。霊素殻(エーテルシェル)を使ったイングリスの動きの前には、一歩も動けない者も多いのだ。


「しかし!」


 イングリスは降り注ぐ刃の全てに、拳を叩きこんで迎撃をした。


「あんぎょおあああぁぁっ!?」


 結果――弾幕のような勢いで、氷の刃と化した魔石獣の脚が砕けて行く!


「い、いきなり脚が吹き飛んだぞ……! 何が――!?」

「あ、あたし達にもよく分かりませんっ!」

「ええ、青い光に触れたら吹き飛んで……!」


 ラフィニア達には、イングリスが拳を振るう姿は見えなかった。

 あっという間に、無数の脚が根こそぎ吹き飛んだようにしか見えないのだ。

 そして気が付けば――脚を失ったミュンテーの巨体がその場に転がっていた。


「さあ、もう一度お別れです」


 イングリスは霊素殻(エーテルシェル)を解き、もがくミュンテーに向けて右の掌を突き出す。

 その手の先に、渦を巻くように光が現れ収束して行く。

 鮮やかな青白い光が、見る見るうちに巨大な一つの塊と化す。


霊素弾(エーテルストライク)!」


 スゴゴゴオオオォォォォォーーーーッ!


「ほひょおおおおおおぉぉぉっ!?」


 巨大な光弾が、ミュンテーの巨体を飲み込んで行った。

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