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第71話 15歳のイングリス・カイラル王立騎士アカデミー21

「宰相閣下」

「……」

「宰相閣下。よろしいですか?」

「……あ、ああ済まない。ええと、君は――」

「イングリス・ユークス。従騎士科の一回生です」

「従騎士科だと? その力でか……?」

「それより、こちらはどうしますか? 捕縛ですか? それとも緊急の処罰を?」

「捕縛だ。国王陛下にご裁定頂かねば」

「――それで、この方は確実に処罰されるのですか?」

「ああ勿論だ。私の名において誓おう」

「了解しました」


 イングリスはミュンテーの前に進み出る。


「……ほひょひょひょひょ! そうは行かんぞい、イングリスちゃん!」


 ブゥゥン!


 ミュンテーの手前の空間が歪んだように見える。

 その歪みの中から、先程の魔印喰い(ルーンイーター)が姿を現した。


「……帰って来た?」


 そこに強い魔素(マナ)の動きを感じる。


「ははっ! 転移の術じゃわ、こう見えて忠実な奴じゃて!」

「ならば別の方法で倒しましょう」


 イングリスは一度霊素(エーテル)魔素(マナ)に変換。

 そして魔素(マナ)を操り氷の剣を生み出す。


 活性化した霊素(エーテル)で身を包むと、並の武器は耐えられずに壊れる。

 この氷の剣も例外ではなく、前回も一太刀で粉々になってしまった。


 だが逆に言うと、霊素殻(エーテルシェル)を使っても一太刀は持つ。

 普通の武器とは違い元手はかからないので、懐は痛まず実用範囲だ。


「ラニ、宰相閣下をお願い。レオーネはそのままファルスさんに。」

「分かったわ、イングリス!」

「うん! 前もやれたし、大丈夫よね?」

「うん。大丈夫だよ」


 イングリスは氷の剣を構えて魔印喰い(ルーンイーター)に向き合う。


「ほひょ! 前のヤツがやられて、暫く大人しくしておったワケが分かるか? ちゃあんと改善と強化を施してあるんじゃよ! それぇい!」


 パチン、とミュンテーが指を弾く。


「ごあああァァァァッ!」


 魔印喰い(ルーンイーター)の全身の魔印(ルーン)が血のように赤く輝き出す。

 苦しむように頭を抱えているが、その魔素(マナ)はより活性化している。


「ほひょひょひょ! こやつは食物から栄養を摂取するという生命活動を、他者から魔素(マナ)を奪うという行為に置き換えた怪物じゃ! 魔素(マナ)の基礎代謝を上げる事により、飢えは早くなるが力は増す! 早く喰わんと飢えておぬしが死ぬぞ! イングリスちゃんのほかのヤツから喰ってやれい! そうして力を増せば勝てる!」

「おああぁぁっ!? 魔素(マナ)寄越せええェェッ!」


 魔印喰い(ルーンイーター)は地を蹴り、イングリスを迂回してラフィニア達に迫ろうとする。


「――こっちに来る!?」

「まかせて」


 しかしイングリスは敵の進路上に回り込み、腕を捕らえるとそのまま壁に向かって投げつけた。

 また壁を突き破り、魔印喰い(ルーンイーター)は空中に飛び出して落下して行く。


「ほひょ!? まだ通用せんか……!」


 ブゥン! とミュンテーの手前の空間が歪む。


「おあァァッ!?」


 また魔印喰い(ルーンイーター)が帰って来た。


「ほひょ! まだじゃあ! 限界まで代謝を上げぇいっ!」


 また更に魔印(ルーン)の赤い輝きが増す。


「あびゃあアァァ!?」


 魔印喰い(ルーンイーター)は地を蹴ると天井や壁を反射しながら高速で飛び回る。

 一段と動きの切れを増している。なかなか見事なものだ。

 ――が、見切れないわけではない。


「……まだまだですね。これではラニ達には指一本触れられませんよ」


 ドガアァァァンッ!


 今度はレオーネに迫ろうとしていた敵を、再び船外に蹴り出した。


「もう限界ですか? ならば次は倒します」


 ラフィニアを狙った以上、慈悲は無い。

 ミュンテーも同罪だが、捕縛して裁きをするとの事なので、それには従うが。


「くっ……! ほひょひょひょ……! えぇぇいっ! 限界の向こう側へ行けぇぇい!」


 またまた戻って来た魔印喰い(ルーンイーター)に、ミュンテーが叫ぶ。


「ごあああああああァァァァァァァァァッ!」


 魔印喰い(ルーンイーター)は半狂乱の叫び声を上げ――

 目の前のミュンテーの背中から胸板を手刀で貫いていた。


「ほひょ……!? ち、違う――わしを喰うてどうする……!?」


 ミュンテーの身体が黒い炭のようになって、魔印喰い(ルーンイーター)に吸い込まれて行った。


「うめエェェェェ!」

「限界を超え、敵味方の見境まで失ってしまいましたか。哀れなものですね。同情はしませんが――」


 まだ大人しくしていた方が、ミュンテーも生き永らえたのではないだろうか。


「もっと寄越せえぇぇェェッ!」


 さらに力をつけた魔印喰い(ルーンイーター)がイングリスに突進してくる。


「どちらにせよ、無駄なのですし――ね」


 しかし完全に動きを見切ったイングリスは、氷の剣を一閃する。

 今度は横一文字に切り裂かれた魔印喰い(ルーンイーター)が、地面に転がった。

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