第70話 15歳のイングリス・カイラル王立騎士アカデミー20
「ほひょ! 喰え喰えぇい! そいつらが新しい餌じゃぞい!」
ミュンテーが
「「「舐めるなッ!」」」
騎士達が突っ込んで行く。
「いけない! 危険です!」
イングリスは騎士達を制止した。しかし時すでに遅く――
両者が肉薄すると、怪人が生み出した氷の剣が騎士達の喉笛を掻き斬って屠っていた。
「な……一瞬で……!?」
「お前達……!」
鎧兵士達を抑えに回っていた騎士達が驚愕している。
「そいつらもじゃっ! 喰ってしまうがええ!」
「寄コセエェェ!」
一瞬で斬り込んだ怪人が、そちらの騎士達も蹂躙した。
「うめえぇェェッ!」
そして彼等の亡骸の
怪人が喰いついた部分は黒い炭のようになって、その体の中に吸い込まれて行った。
そして、怪人の身体に浮き上がる
文字通り
「な、何あれ、
「喰っているの……!?」
ラフィニアとレオーネが戦慄している。
「ほひょひょひょ! ようやったようやった! こんな事もあろうかと、おぬしを生み出しておいて正解じゃったわ! 我ながら自分自身の頭脳が恐ろしいわ!」
ミュンテーが喜んで手を叩いている。
今ならばミュンテーを倒せると踏んだ騎士達の思惑は、完全に外れた事になる。
王国側の騎士は全て倒され、アールシア宰相が一人だけになってしまっていた。
「一つ。よろしいですか?」
イングリスは隣の部屋に踏み込みながら、ミュンテーに問う。
「ほひょ? わしを見直してわしのものになってくれるかの? わしは心が広いでの、今からでも全然大歓迎じゃぞぉ?」
「いえ、それは遠慮します。それより、そちらは王都を騒がせていた通り魔です。あなたが
「な、何だと……!? 通り魔の話は私も聞いている! これがその正体だというのは本当なのか!?」
イングリスの質問にアールシア宰相が反応した。
「間違いありません。わたしが倒しましたので。まだ生きているのは驚きですが」
「……確かに少し前から通り魔が出なくなったとは聞いたが――」
「ほひょ。なあるほどイングリスちゃんがやったのか、さっきの力なら頷けるのぉ。確かにわしがやらせておったぞい。こいつらを強くさせるためにの」
「こいつら?」
「わしゃ用心深いでのお。ちゃんとスペアは準備しておったわい」
「なるほど。あれが生きていたわけではないのですね」
元々二体いたという事か。
「……大問題だ! 曲がりなりにも我が国と友好関係にある
「ほひょ? 何がじゃ? 黙っておれば分かりはせんじゃろ? 魔石獣にやられでも思っておけ。どうせ日々やられておるんじゃからの」
「魔石獣からも、その他の脅威からも、国を守るのが我々の務めだ! 脅威の種類は問題ではありません!」
「ほひょ。宰相よ、おぬしも頭の固いやつじゃの。ならばおぬしの部下共も今わしを殺そうとしたじゃろう? それは問題ではないのか?」
「言われるまでも無い。問題でしょうな」
「ならおあいこじゃ。お互い水に流せばよかろう? どうもお主の部下共が暴走したように見えたからの?」
「ならば私は罰を受け、あなたは罪を償う。そうあるべきでしょう」
どうやらアールシア宰相は、非常に杓子行儀で生真面目な人間らしい。
そう言う人間だからこそ、信用できるというもの。
宰相という地位を預かるだけの、一廉の人物だという印象をイングリスは受けた。
「ほひょ。御免じゃの。地上の人間の命など、どうしようが文句を言われる筋合いなど無いわ。わしらが
「……あなたたが罷免された次の特使殿が、違う考えを持っていることを祈りましょう」
「ほひょひょ! 鬱陶しいわ! よぉしこいつも喰って構わんぞ!」
「ひゃハハハ……!」
「――君達! アカデミーの生徒だな!? アカデミーの生徒は騎士団の予備役! 緊急に君達に要人警護を命じる! 警護対象は――わ……」
「了解しました」
宰相が皆まで言う前に、イングリスは
そして、背中に上段蹴りを叩き込んだ。
「ごあああああアァァッ!?」
ドガアァァァンッ!
物凄い勢いで吹き飛んだ怪人の身体は外側に面した窓のある壁に激突。
その衝撃で壁を突き破り、空中に放り出されて飛んで行った。
「……わたし、だ――?」
「ほ、ほひょほひょほひょ――」
要人警護に油断は禁物。
念には念を入れて
ここまで読んで下さりありがとうございます!
『面白かったor面白そう』
『応援してやろう』
『イングリスちゃん!』
などと思われた方は、ぜひ積極的にブックマークや下の評価欄(☆が並んでいる所)からの評価をお願い致します。
皆さんに少しずつ取って頂いた手間が、作者にとって、とても大きな励みになります!
ぜひよろしくお願いします!