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第67話 15歳のイングリス・カイラル王立騎士アカデミー17

 天上領(ハイランド)に対する物資献上の日がやって来た。

 アカデミーの生徒達は、今日は手薄な騎士団の応援という事で現場の周辺警護を手伝うらしい。


 が、イングリス達は特別課外学習の許可を得ている。

 ランバー商会のファルスの依頼通り、取引に臨む彼等を直接護衛する事になった。

 朝一番に、イングリスはラフィニアとレオーネと共に、ファルスの元を訪ねた。

 集合場所はボルト湖に面する港だった。


 そこには機甲親鳥(フライギアポート)が用意されており、商会の用意した物資はそこに積み込まれて行った。

 積み込みが終わると機甲親鳥(フライギアポート)は空に飛び立った。

 商会のリーダーであるファルス他数人の幹部たち、そして彼等の護衛役のイングリス達も同乗している。


「随分昇って来たわねー。すっごく高いわ!」


 機甲親鳥(フライギアポート)の縁から下を見下ろすラフィニアが、声を弾ませる。

 ボルト湖の青く澄んだ湖面が水たまりくらいの大きさにしか見えず、隣接する王都の街並みも豆粒のようである。


「うん。雲に届きそうだね。すごい――」


 ここまで空高く昇ったのは初めてで、この何とも言えない感覚が新鮮である。

 前世でもこんな体験はしたことがない。


「ちょっと怖いけどね……」


 と、レオーネは少々足が竦んでいる様子だ。


「だったら早く慣れないとね。ほらほらっ! グッと身を乗り出して外見て!」

「きゃー!? ちょっと止めてラフィニア! 怖いからっ!」

「まあいずれは慣れないとだね。この高さで戦う事もあり得るんだし」


 そんなイングリス達を見て、ファルスは目を細めていた。


「ははは。今日は待ち時間も華やかでいいわなー」


 そのファルスにイングリスは尋ねる。


「ファルスさん、先程から動きが無いようですが?」


 周辺にも物資が積まれた機甲親鳥(フライギアポート)が展開しているが、そのどれにも動きが無く、この高度で滞空していた。

 他の機甲親鳥(フライギアポート)には、王国が用意した物資が山積みのようである。

 今回の受け渡しの王国側の責任者は、リーゼロッテの父のアールシア宰相だと聞いた。

 どこかの機甲親鳥(フライギアポート)に搭乗しているのだろう。

 基本は王国と天上領(ハイランド)との受け渡しに、特別に民間からランバー商会も参加している、という状況らしい。


「ま、お偉い方々は下々の者を待たせるのが常ってもんだからな。待ってりゃそのうち来るよ、天上領(ハイランド)の空飛ぶ船がな」


 ファルスは額に巻いたバンダナをごしごしと擦りながら言う。

 果たして彼の言う通り――暫く待つと、雲をかき分け巨大な空飛ぶ船が姿を現した。

 船首に衝角、船体の至る所に砲門を備えた戦艦である。


「すごい……!」


 海上ですら、あんなに巨大な船は見た事が無かった。

 一体いくつの機甲鳥(フライギア)機甲親鳥(フライギアポート)を搭載できるのだろうか。


「うん、本当ね――中はどうなってるのかしら」

「貴重な見学の機会よね。しっかり見ておかなきゃ」


 ラフィニアとレオーネも気を引き締めていた。


 そして天上領(ハイランド)の空飛ぶ船が接近して来て滞空すると、地上からの物資を搭載した機甲親鳥(フライギアポート)が次々とその甲板に降りて行く。

 無論、イングリス達の機甲親鳥(フライギアポート)も例外ではない。


「積み荷を改めさせて貰う。お前達は中に入って待て」


 天上人(ハイランダー)の役人らしき男が近寄ってきて、そう指示をした。

 その男の左右には、生気を感じない全身鎧の人影がついている。

 護衛という事だろうか。

 天上人(ハイランダー)は他にも数人甲板上に出て来ていて、やはり護衛らしき者が付いている。


「さ、行こうぜ」


 ファルスは、皆を先導して船室に下りて行こうとする。


「ファルスさん。あの護衛の鎧の兵士は、元は地上の――?」


 階段を降りつつ、イングリスは小声で尋ねる。


「ああ。地上の人間だな。地上から奴隷を買ったり攫ったりして、ああやって手駒にしてんだな。進んで前線で戦いたがる天上人(ハイランダー)なんて少ないだろうからな」

「……ラーアルが連れていたのと似たようなものね」

「酷い話ね――天上人(ハイランダー)がやりたくない事は、地上から人を連れて来てやらせるのね」


 ラフィニアとレオーネが眉をしかめている。

 確かに、嫌な話である。


天上人(ハイランダー)がわざわざ俺達みたいな商人とも取引を持つのは、国王様にゃ要求しにくいモンを調達させるためなんだぜ。つまり奴隷や何かの類だ。ウチも先代の頃はそういう取引をしてた。だから先代やラーアルさんは功績大ってなことで天上人(ハイランダー)になれたんだな。俺の代になってからは、そいつはやってねえがな」


 と、ひょいと肩をすくめて語るファルスは少々興奮していたらしく、道を間違えてしまったようだ。

 曲がり角を曲がったところで、ドンと何かにぶつかってしまった。

 それは、ずんぐりとした人型をした黒鉄の塊――天上領(ハイランド)製のゴーレムだった。


「……! いけねっ――!?」


 ぶつかって来たファルスを侵入者と見做したか、大きな拳を振りかぶる。

 それが唸りを上げてファルスに迫り――途中でぴたりと止まる。

 イングリスの白魚のような手の前で、全く動けず硬直していた。


「離れて下さい。ファルスさん」

「あ、ああ……! 済まない!」


 離れるファルスを見てから、イングリスも黒鉄のゴーレムから離れる――

 が、追いかけて攻撃を続けてくる。

 一度攻撃を始めると止まらないのだろうか?


「勝手に壊しては問題になるかも知れません。許可を取って貰えますか?」

「分かった、少し待っててくれ!」

「クリス、大丈夫!?」

「うん。いい気晴らしになるよ? むしゃくしゃしたら体を動かすのがいいから」


 イングリスはゴーレムの攻撃を受け流しながら応じる。

 そしてファルスが天上人(ハイランダー)を呼びに行き、許可を得ると――


「では――!」


 ガアァァァン!


 イングリスの拳がゴーレムを撃ち轟音を立てた。

 ビシビシと黒鉄にヒビが入り、やがてガラガラと崩れ落ちる。


「すげえ……! なんて力だ――」

「ま、魔石獣じゃない相手だと――」

「こうなるのね……」

「うん。すっきりしました。では行きましょう」


 イングリスはにこりと笑みを見せた。

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