第62話 15歳のイングリス・カイラル王立騎士アカデミー12
「えええっ!? イングリス、お兄様を見たの!?」
アカデミーの女子寮の部屋に戻ると、イングリスはレオーネにレオンと遭遇したことを告げた。
ラフィニアとも相談して決めた事だが、隠すよりも教えた方がいいと結論した。
少なくとも、塞ぎ込んでいるレオーネの背中を押す事にはなる。
押した結果が吉と出るか凶と出るかは、彼女の近くにいる自分達次第でもある。
「ど、どこで……!? 教えて! すぐ探しに行かなきゃ!」
「待ってレオーネ。場所はちゃんと教えるけど、もうレオンさんはどこかに行ったよ」
「でも急いで探せば見つかるかもしれないじゃない! こうしてはいられないわ!」
「とにかく落ち着いてレオーネ! まだ色々話の続きがあるんだから。リンちゃんちょっとお願いっ、大人しくさせてあげて」
と、ラフィニアが肩にいたリンちゃんをレオーネに放った。
ラフィニアのところにいる場合は、胸のサイズ不足なのか肩や頭に乗っている事が多い。
「きゃっ!? あ……っ! ひゃんっ!? だ、ダメダメそんなところ……! こらリンちゃんってば――!」
レオーネの胸元から滑り込んだリンちゃんが、レオーネを大人しくさせてくれた。
イングリスも被害者になる時があるのであまり喜べないが、今は助かった。
「そのままでいいから聞いてね」
「いやこのままじゃよくないから! いったんリンちゃんを大人しくさせてよ……!」
と、聞く姿勢になってくれたレオーネに経緯を説明する。
レオンだけでなく、通り魔にも遭遇し撃破してきた事。
それにランバー商会のファルスからの依頼の事。
次の
血鉄鎖旅団に走ったレオンが王都にいた以上、その信憑性は増したと言っていい。
妨害工作の準備のために王都にいたと考えられる。
ならばレオンが、
「じゃあそのランバー商会からの依頼に乗れば――」
「うんレオーネ。ちゃんと三人で行くって言ってあるから。レオンさんが現れたらそこで捕まえればいいよ」
「……確かに話を聞く限り、それは可能性がありそうだわ」
「で、今から校長先生の許可を貰いに行くのよ、レオーネも一緒に行きましょ?」
「分かった。ありがとう二人とも、おかげでお兄様に近づけそうだわ!」
三人は早速ミリエラ校長を訪ね、事情を説明した。
「――なるほど。お話は理解しました。それに、そんな凶悪犯まで倒してくるなんて、素晴らしいですね! すごいです! とはいえ私は反省ですよねえ、外出許可出しちゃいましたから……お二人とも、すみませんでした」
ミリエラ校長が頭を下げる。
「いえ、戦いは楽しめました。むしろお礼を言います」
「ははは……クリスはいつでもクリスよね――校長先生、卒業したら捕まえる側に回るんだし遅かれ早かれです。気にしないでください」
「そう言って下さると助かります……」
「では校長先生、ランバー商会のファルスさんからの依頼を受けても?」
「いいですよね? 校長先生っ!」
「お願いします、私の手でレオンお兄様を……!」
「ちょ、ちょっと待って下さい――! それとこれとは別というか……通り魔の件は不可抗力ですから仕方ありませんけど」
「ええっ!? じゃあダメなんですか?」
「そんな! 血鉄鎖旅団が現れるかもしれないんですよ!」
ラフィニアが声を上げレオーネが食ってかかろうとする。
「ま、まあまあ待って下さい。
「それって遠くで見てるだけって事ですか?」
「まあ、何もなければそうなりますが……」
「それじゃ、何かあってもすぐに動けないわ! 中心に近い所にいないと!」
「その方が強い敵と戦えそうだね」
「うーん――特別課外学習って事で生徒を外に派遣する事もなくはないですが……当然危険も伴いますから、こちらとしては許可するかどうかテストはさせて貰っていますよ?」
「それは戦いも?」
「ありますね」
「ありがとうございます、嬉しいです」
「あははは――イングリスさんは見た目も態度もお淑やかなのに、とんでもない戦闘狂ですね……」
「はい、戦いは大好きです。血が騒ぎます」
ともあれ三人で、特別課外学習の許可を得るためのテストに臨むことになった。
――実施は二日後の放課後。
イングリス達は騎士科と従騎士科に分かれた授業の後、校庭の石のリングの所でミリエラ校長を待っていた。
噂を聞き付けた他の生徒達も、見物しようとリングの周りに集まっている。
その中には従騎士科のラティ達の姿もあった。
「あ、ラティ」
「よ……よーイングリス。調子はどうだ? 特別課外学習の許可テストだって?」
「うん。
「ああ。なんか面白そうだから見物しに来たぜ」
「何をするか分からないから、面白いか分からないよ?」
「いやー……既に十分面白いぞ?」
「そう?」
イングリスの頭上からは、ラフィニアの
それを避けながら、イングリスはラティと会話をしているのだった。
テストの前の準備運動である。
「ははは……人ってメチャクチャ早く動くと分身したみたいに見えるんだなぁ」
「そう見えてるんだ?」
「ああ、五、六人には見えるなぁ。まあお前みたいな美人が増えるのは世界にとっていい事――って、うわぁ! 何だよプラム!?」
いつの間にか騎士科のプラムという少女が、ラティの真後ろに立っていたのだ。
――物凄くふて腐れた顔をして。
「……私というものがありながら、何を言ってるんですかラティ? 私には美人だなんて一言も言ってくれないのに、おかしくないですか?」
「う、うるさいな別にいいだろ……!」
「大丈夫だよ。騎士科と従騎士科で別れてる間、プラムの事が心配だってラティも言ってたから」
「こ、こらイングリス余計な事言うな……!」
「わ! ほんとうですかラティ!? ねえねえ本当ですか……!?」
なかなか微笑ましい光景ではある。
あちらはあちらで好きにさせておこう。
「ラニ、もっと光を撃って」
「いいわよ。それそれそれっ! どんどん行くわよクリスっ!」
降り注ぐ光の雨がさらに増量。
他の生徒達からも歓声が上がっていた。
「おおおお! すげえ……!」
「あれでも当たらないのか――!」
「ほとんど足の踏み場ねえだろ、どうなってんだ……!?」
そんな中ミリエラ校長が姿を現した。
「お待たせしちゃって済みません――ってうわぁ!? 何をやってるんですか……! そんな全力で暴れていたら、テストでばてちゃいますよ!?」
「大丈夫です。ただの準備運動ですから」
「そ、そうですか……? ではとりあえず、テストを始めましょう。イングリスさん、ラフィニアさん、レオーネさん、準備はいいですか?」
「「「はい」」」
イングリス達はミリエラ校長の前に整列し、そう答えた。
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