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第52話 15歳のイングリス・カイラル王立騎士アカデミー2

「きゃあああぁぁっ! 何これ重いぃぃっ!?」


 ラフィニアは立っているのがやっとという感じである。


魔印武具(アーティファクト)なしでこれはきついわね……! いい訓練だけど!」


 レオーネはもう少しだけ余裕がありそうだった。


「うんいいよね、これ。こういう訓練方法もあるんだね」

「けどずっとこれやってたら、今よりもっと足が太くなっちゃいそうよね……!」


 レオーネは下半身の肉付きがしっかりしている事を気にしているらしい。

 沢山剣を振ったらそうなってしまったとは本人の弁である。


「さぁ行きますよぉ――! そぉれっ!」


 ミリエラ校長がパチンと指を弾くと、その周りのリングにボコッと人型の穴が開き、それがまるで生きているかのように立ち上がった。


「ロックゴーレムか――」


 ――あれもあの杖の魔印武具(アーティファクト)の力?

 それとも何か別の魔印武具(アーティファクト)を持っているのか。


 分からないが、人の倍ほどある巨体を生み出すのは、かなりの力だろう。

 二つの魔印武具(アーティファクト)奇蹟(ギフト)を同時に使いこなしているとは、流石は特級印の持ち主である。

 是非一度、手合わせしてみたいものだ。あわよくば今、させて貰えるだろうか?


「はーい。この三体のロックゴーレムが鬼ですよ。制限時間は今から十分間、それまでリングから落とされずに生き残れた人には――学生食堂の利用を一ヶ月無料にする優待券をプレゼントしちゃいますっ♪ 頑張って生き残って下さいね!」


 校長からの素晴らしい申し出である。


「おおやった……! それは助かるね」

「絶対生き残らなきゃ……! でも重いいぃぃぃっ!」


 人の何倍も食べるイングリスとラフィニアには、人の何倍も嬉しい賞品である。


「大丈夫だよ、ラニ。三体しかいないんだから――」


 ――倒してしまえば、それで終わりだ。


「それではいきますよっ! よーい――ど……」

「はああぁぁっ!」


 開始と同時、イングリスはロックゴーレムに突っ込み上段蹴りを叩きこんでいた。

 その一撃で吹っ飛んだロックゴーレムは、場外に落ちて割れて動かなくなる。


「んんんーーっ!?」


 と校長が驚く間に――


「でぇい! それえぇぇっ!」


 さらに拳で一体、投げで一体を場外に放り出した。

 体は重いが、だからと言ってこの位出来ないわけではない。

 丁度いい負荷がかかって、訓練としては程よい感じだ。


「よし――」


 これで一ヶ月はお金を気にせず、好きなだけ食べる事が出来そうだ。


「やった! これで一ヶ月食べ放題っ♪」

「凄いわ、イングリス……! さすがね!」


 ラフィニアやレオーネは喜んでいるが、他の者は状況が良く分からなかったようで、ポカンとしていた。


「え、えーと……?」

「鬼が場外って事は――?」

「全員セーフって事よね? やったわ!」

「一ヶ月好きなだけ食べられるわっ!」


 全員一ヶ月食べ放題はマズいと思ったのか、校長はタラッと冷や汗をかき――


「……という具合に、鬼が場外になってもセーフですからね~。今のはデモンストレーションですからね~」


 と、誤魔化した。


「校長先生。それはずるいのでは……」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ! 手違いなんですっ! もう一回お願いします……!」

「……」


 そんなに拝み倒されては仕方がない。

 まあ、また倒せばいいのだ。こちらの訓練にもなる。


「あっれぇ……? おかしいなあ、何かミスったんですかね――いやいやそんなはずは」


 ミリエラ校長は首を捻って――ひとしきりぶつぶつと呟いた後、再びロックゴーレムを立ち上がらせた。そして――


「はいそれでは改めまして――よーいどんっ!」

「はああぁぁっ!」


 ドゴォ! ドゴォッ! ドゴオォォンッ!


 掌打三連発で、場外に吹っ飛ばされるゴーレム達。


「……」


 校長が再び笑顔のまま固まった。


「……うふふふっ! 今のもデモンストレーションですからね~。大事な事なので二回言いましたってやつですよ~?」

「校長先生! さすがにそれは……!」

「しーっ!」


 と、ミリエラ校長が側に駆け寄ってきて声を潜める。


「こ、交渉しましょう……? 三ヶ月分出しますから、最後までゴーレムを場外にするのは止めてくれませんか? 途中でわざと場外になって頂いても構いませんし――」

「……それを三人分用意して下さるのなら、構いませんが」

「分かりました、それで手を打ちましょう」

「あと、わたしへの負荷をもっと重くできませんか?」


 本当に動くのが困難なくらいに負荷を上げて貰えると、いい訓練になるのだが。


「えぇ……? うーん――全体に一律にかけていますから、一人だけ重くというのは無理ですね。どうしてもというなら、授業外の居残り訓練という事になりますが――」

「是非お願いします」

「――なら二ヶ月を三人分にしちゃいますが?」

「了解です」


 というわけで交渉が成立した。

 たっぷりとこの高重力を生む魔素(マナ)の作用を研究し、自分で使えるようになろう。それがこの学校での初めの目標となりそうだ。


「それでは再度改めて本番スタート!」


 新たに生まれた三体のロックゴーレムが、生徒達を追いかけ回し始める。

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