<< 前へ次へ >>  更新
48/227

第48話 15歳のイングリス・氷漬けの|虹の王《プリズマー》4

「何なのよ、あれ! ひっどいわよね!」

「そうだね……とりあえず、落ち着けるところで話そうか?」

「……だったらうちの屋敷に来る? 綺麗じゃないけど、外にいるとこんなは事いっぱいあるから――」


 と、レオーネが俯き加減に言う。


「ありがと。じゃあお邪魔しよっか」

「うん。じゃあ馬車を取りに行こう」


 三人は馬車を取りに行き、レオーネも一緒に乗り込み彼女の屋敷へと向かった。

 御者台に座ったイングリスは、レオーネに問う。


「……この街の人、いつもああなの?」

「そうね。三年前、レオンお兄様が聖騎士を捨てて血鉄鎖旅団に走ってからはね……」

「なのに、街の人のために戦ってたんだ?」


 ラフィニアがそう尋ねた。


「魔石獣を前にして、そんな事言ってられないわよ」

「えらい! そうよね、それでいいわよね! 尊敬するわ!」


 ラフィニアは目を輝かせ、レオーネの手をぎゅっと握る。


「あはは。そこまで偉そうなものじゃないわよ。そうしていれば、少しでも許して貰えるかなっていうのもあるし……」

「すっごい頑張って街を守ったんだから、あんな言い方しなくてもいいのにね? 心が狭いわよねー」

「でも街の人達をあまり悪く思わないであげてね? 期待と尊敬の裏返しなのよ。この街は虹の王(プリズマー)の死骸を見張る街だから、騎士の数も多くて、王家への忠誠心も高いわ。だから、初めてこの街から出た聖騎士だったレオンお兄様は皆の誇りだったのよ――それが、王都からの監察官や天上人(ハイランダー)の使者まで殺して脱走したんですもの……みんなガッカリするわよ。可愛さ余って憎さ百倍ってやつね」

「え? ちょっと待って、監察官のシオニー卿は――」

「きっと世間的には――全部レオンさんがやった事にしたんだね。天上人(ハイランダー)のラーアル殿がシオニー卿を殺した事が公になると、反天上人(ハイランダー)の機運や、天上人(ハイランダー)に対して弱腰の王家への反発も高まるから……その方が都合が良かったんだよ」

「でもそれじゃあ、レオンさんが極悪人になっちゃうじゃない。ラーアルが横暴だから、レオンさんは怒って、いてもたってもいられずに行動したのに……」

「あなた達、レオンお兄様に会ったの?」

「うん……気さくで、楽しい人だったよ? 決して悪い人じゃ――」

「そうだね。わたしもラニと同じ」

「そう――ありがとう、そう言ってくれて。でもいいのよ。そのあたりの事は、ウェイン殿下やラファエル様がいらして、丁寧に説明と謝罪までして下さったわ」


 ウェイン殿下とは、確かこの国の王子様の名だったはずだ。

 ラファエルの上司――という事になるだろうか。


「さすが兄様ね。そうよね。そのままじゃいけないと思う。せめてレオーネ達には謝らないと……!」

「何かと気を使って、その後も時々様子を見に来て下さるの。だから怨むとか納得行かないとか、そういう気持ちは無いわ。それに――経緯はどうあれ、レオンお兄様が聖騎士の位と国を捨てた事は確かだもの。それだけで、みんなの期待を裏切ったって思われるには十分なのよ。だからオルファーの家の汚名は私が返上する。私が正式な騎士になって名を上げて、血鉄鎖に下ったレオンお兄様を捕まえればいいのよ」


 決意に満ちた眼差しで、レオーネがそう言った。


「強いわね、レオーネは。あたしも見習わなきゃ」


 ラフィニアが感心している。イングリスはうん、と相槌をうちレオーネに尋ねる。


「レオーネは、まだ正式な騎士じゃないの?」

「ええ。近々街を出て、王都の騎士学校に入る予定なの。昨年父が亡くなって――もう誰に気兼ねする事も無いから」

「えええぇっ!? それ本当!? あたし達もよ! 騎士学校に通うために王都に向かう途中だったの!」

「えっ!? そうだったの!? それは心強いわ、あなた達と一緒なら――」

「すごい偶然だね――これからもよろしく」

「よろしく!」

「ええ、こちらこそ!」


 三人はきゅっとお互いの手を握り合う。


「あっリンちゃん!」


 ラフィニアの陰からリンちゃんが顔を出し、レオーネの鼻先に飛んで行った。


「あら? 可愛い子ね? こんな動物見た事ないけど――」

「リンちゃんよ。今はあたし達のペットってとこかな」


 リンちゃんはよろしくとばかりにレオーネの目の前をくるくるとし――

 その後、レオーネの胸元にするっと滑り込んだ。


「きゃあっ!? ちょ、ちょっとこの子ヘンな所に……やっ――ダ、ダメ……! ちょ、ちょっと何とかして……!?」

「り、リンちゃん……! ごめんね、胸の大きい子が好きみたいなのよね」

「やった。わたしひとりじゃなくなるよね、これで」


 そういう意味でもレオーネの存在は大きい――とイングリスは思うのだった。

 暫くしてリンちゃんも落ち着くと、ラフィニアが笑顔で言う。


「何にせよ、ますます騎士学校が楽しみになったわよね」

「最近の、いきなり街中に現れる魔石獣の問題だけは気になるけれどね。街を出る前にそれが何とか片付けばいいんだけど――」


 レオーネは少々表情を引き締めていた。


「何か分かっていることは無いの?」

「噂では、あの氷漬けの虹の王(プリズマー)の死骸が悪影響している――とか、血鉄鎖旅団の仕業だ――とか、色々言われているわ。私は血鉄鎖旅団の仕業かも知れないって思うけど……虹の王(プリズマー)の死骸がそういう現象を起こすなら、前から起きている気もするから、ね」

「……うーん。クリスはどう思う?」

「わたしは、血鉄鎖旅団じゃないと思う――かな。あの人達、天上人(ハイランダー)を倒す事しか頭にないみたいだし。ここには天上人(ハイランダー)の執政官はいないよね? だから狙わないんじゃないかな」

「あたしもそんな気がするなあ……じゃあ虹の王(プリズマー)の死体の影響……って事なのかなあ」

「でも今までこの街では何もなかったのよ?」

「今までは分からないけど――あの虹の王(プリズマー)は完全に死んでないと思う。

だから魔石獣を召喚しても、不思議じゃないと思うな」

「ええっ!? イングリス、そんな事が分かるの……!?」

「たぶん、だけどね――」

「だけどそれじゃあ、どうにもならないわよね――」

虹の王(プリズマー)を氷の中から出して、完全に倒せばいいよ。わたしにやらせてくれたらなあ……はぁ」


 まるで恋煩いでもするかのように、イングリスはふうとため息をつくのだった。


「……どうしよう、ラフィニア。この子の発想が大胆過ぎて怖いわ――」

「でしょ? でもいつもの事だから――おかしくなったって思わないで? 元々だから」


 ラフィニアとレオーネが、ひそひそと囁き合った。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


『面白かったor面白そう』

『応援してやろう』

『イングリスちゃん!』


などと思われた方は、ぜひ積極的にブックマークや下の評価欄(☆が並んでいる所)からの評価をお願い致します。


皆さんに少しずつ取って頂いた手間が、作者にとって、とても大きな励みになります!


ぜひよろしくお願いします!

<< 前へ次へ >>目次  更新