第47話 15歳のイングリス・氷漬けの|虹の王《プリズマー》3
イングリスとレオーネは、協力して街に現れた魔石獣達を撃退して行った。
レオーネが主に地上に陣取り、走鳥型の魔石獣を巨大化させた大剣の
イングリスは建物の上に位置取って、飛鳥型の魔石獣を地上に叩き落として行った。
レオーネの側に叩き落とすと、彼女が一緒に斬り捨ててくれるのだ。
ラフィニアの
こういう場所だとレオーネの
レオーネの活躍ぶりを横目で見ながら、イングリスは飛鳥型が三体たむろしている商店の屋根の上に飛び上がった。
「一つ!」
着地がてら、空中で身を捻りつつ回し蹴りを手近な一体の首元に叩き込む。
背後から嘴を突き刺そうとして来る別の魔石獣の攻撃を見切り、あごを拳で掬い上げた。
仰け反った首を掴んで抱え込み、そのまま振り回して、もう一体いる飛鳥型に叩きつけた。
「二つ!」
猛烈な勢いで仲間を叩きつけられた飛鳥型は、為す術もなく地上の、レオーネの方に落下して行く。
「三つ!」
そして最後は間髪入れず、抱えていた魔石獣をそのまま投げ捨てる。
しかし――タイミングがちょっと早すぎたようだ。
二体目を斬り捨てていたレオーネが再び構える前に着弾してしまいそうになる。
「あっ! ごめん……!」
「わわわっ!? イングリス、ちょっと早いわ――!」
慌てるレオーネの後方から、光の矢が通り過ぎた。
それが地面に飛んで行く三体目を打ち貫き、その場に叩き落とした。
軌道が変わり、レオーネに当たらずに済んだ。
「よっし命中! も~クリスったら、一人で先に走って行っちゃうんだもん。遅れちゃったわよ」
「ラニ! 良く分かったね? 結構動き回ったけど」
「そりゃあ、クリス達が一番派手に暴れまわってるんだから、目立つわよ」
と言いながら、ラフィニアはレオーネの方を見る。
「レオーネだよ。居合わせたから協力してる」
「よろしく。さっきは助かったわ」
「どういたしまして! ラフィニア・ビルフォードよ。よろしく」
ラフィニアがニコッと笑顔で名前を名乗ると、レオーネは表情に驚きを浮かべた。
「ビルフォード……? ラフィニア――じゃああなた、ラファエル様の妹さん!?」
「わ! ラファ兄様のお知り合い!?」
「え、ええ――ラファエル様にはお世話になったわ」
「よかったら後で話を聞かせて? さぁ気合入れて行こう!」
ラフィニアも合流し、イングリス達はますます勢いを増して、魔石獣達を撃退して行った。
小一時間ほど街中を走り回って魔石獣退治を続けた結果――ほぼ掃討が終わり、周囲は平静を取り戻していた。
「ふ~。もうこれで大丈夫かな? クリスもレオーネもお疲れさまっ」
「ええ。二人のおかげで凄く捗ったわ。ありがとう」
「だけど――いきなり街中に入られてるのもおかしいね。ここは警備がしっかりしてる街なのに……直接
「そうよね……何でだろ?」
「最近多いの。
「……退屈しなさそうでいいね」
「え? えーと……?」
イングリスの感想にレオーネは面食らった様子だった。
「ま、まあまあ気にしないで? 天使の体に武将の魂が宿ってるから、この子は」
「あははっ。でも何か分かるわ、戦いが終わったら急に雰囲気がお淑やかだもの」
「そうかな?」
「うんうん。戦いの時だけ急に猛獣みたいになるのよ、クリスは」
「確かに――最初見た時も、一人で魔石獣の群れに突進してたもの。驚いたわ」
「ああそうだったんだ。確かに初見だと吃驚するわよね、あれ。
「思わずタックルして止めちゃったわ! 必要なかったけど」
盛り上がるラフィニアとレオーネを見て、イングリスは目を細めた。
こうして笑い合えるなら、あの遭遇も悪くは無かっただろう。
「おい君達――! そこの黒髪の子と銀髪の子な!」
と、中年くらいの騎士の男性が声をかけて来た。
「街の防衛によく協力してくれた! ありがとう! ささやかだが恩賞を支給させて頂きたいのだが、一緒に来て貰えるか?」
「え? レオーネは? あたし達二人だけじゃなくて、この子が一番頑張ってましたけど?」
ラフィニアがきょとんとして尋ねる。その疑問はイングリスも同じだった。
「バカな事を言わんでくれ、裏切り者の一族にくれてやるものなどない!」
さも当然、といった口ぶりである。
「ちょっと待って下さい! でもレオーネが一番頑張ってたんですよ!」
「い、いいのよラフィニア。私はいいから二人は行って?」
「だめよ! おかしいもの!」
「我々はその者を信用していないからな。君達は知らないようだから教えてやろう。その者はレオーネ・オルファー。この街出身の元聖騎士で、国を裏切って脱走した逆賊レオン・オルファーの妹だ! この街の全てを貶めた者の一族など認められはせんだろう?」
「ええぇぇぇっ!?」
「そうだ……オルファーって、レオンさんの――」
中年騎士の発言で、イングリスの記憶の糸も繋がった。
オルファーという姓に聞き覚えがあった。
そうだ、あの血鉄鎖旅団に行くと言って消えた聖騎士レオンの姓だった。
「分かったら、そんな者と一緒にいるのは止めるんだ。君達までおかしな目で見られるぞ。さぁ行こう」
「結構です! 恩賞なんていりません!」
ラフィニアがべーっと舌を出して怒っていた。
貴族の令嬢としては、ちょっとはしたない気もする。
「もう行こう?」
イングリスはレオーネの手を取って、通りの奥へ誘った。
「そうよそうよ!」
レオーネの逆の手を、すかさずラフィニアが取っていた。
「……ありがとう」
二人に手を引かれるレオーネの瞳の端が、うっすらと潤んでいた。
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