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第46話 15歳のイングリス・氷漬けの|虹の王《プリズマー》2

「あなた、魔印(ルーン)魔印武具(アーティファクト)も無いのに魔石獣の群れに向かって行くなんて、自殺行為よ! せっかくそんなに綺麗なんだから、命を粗末にしちゃダメ!」


 必死に説得してくるあちらも、かなり美しい少女である。

 整ったきりっとした顔つきなのだが、両サイドの髪にリボンを結んだりして、可愛らしくお洒落をしている。

 肉付きのいいスタイルをしており、イングリスと同じか、それ以上に胸が大きいかも知れない。

 リンちゃんが喜んで飛び込みたがりそうだ。


 そしてこちらを止めて来るだけあって、右手の甲には黒い大剣を象った魔印(ルーン)が輝きを放っており、背には両手持ちの大剣を背負っていた。

 これは上級印の魔印(ルーン)だ。格で言えばラフィニアと互角。

 そうそうはお目にかかれない、上級の騎士である。


「ど、どうも……でも大丈夫――」

「来るわ、下がって!」


 大剣の少女がイングリスを庇おうと前に立つ。

 広場への侵入者を認識した走鳥型の魔石獣たちが、一斉に群がって来ていたのだ。

 走力と巨体の重量を活かして、こちらを跳ね飛ばし、踏み潰すつもりか。


 大剣の少女は全く怯まず、むしろしめた、とばかりににやりとする。


「その方がこっちもやりやすいのよね!」


 素早く大剣の魔印武具(アーティファクト)を抜いて構える。

 まだ剣の間合いにはかなり遠いのだが、構わず水平に剣を薙ぎ払おうとする。


「……?」


 どうするのか興味をひかれたので、一先ず大人しくそのまま見る事にする。


「まとめてえぇぇ――」


 その時――大剣の魔印武具(アーティファクト)が輝きを放ち、その刀身がグングンと伸び始める。

 それは敵集団を巻き込むのに十分な長さにまで、一瞬で成長していた。


「斬るッ!」


 長く長く伸びた刀身が、そのまま魔石獣たちに突っ込んだ。

 ブゥンと唸る音を立てて、一斉に敵の首を叩き落とし、体を両断して見せた。


「へぇぇ――面白いな」


 とイングリスは感心する。

 この変形する現象が、この魔印武具(アーティファクト)奇蹟(ギフト)というわけだ。

 色々使い勝手があって面白そうである。

 最近自分にも使う事の出来る武器が欲しくなって来た事もあり、こういう機能を持つ魔印武具(アーティファクト)は少々羨ましい。


 走鳥型の魔石獣を一掃した少女が、こちらを振り向いた。


「怪我は無かった? 早くどこかに避難しないと――」


 と、少女の肩越しに、広場に隣接する建物の屋根に飛鳥型の魔石獣が複数体舞い降りるのが見えた。

 それは一斉に大きく息を吸うと、刃のように鋭い氷のかけらの混じった吹雪を吐き出して来た。魔石獣の中には、このように吹雪や炎を吐くような類もいる。

 リンちゃんも魔石獣になって、手から白い熱線を出す能力を身につけていた。


「後ろっ! 吹雪が!」

「!」


 イングリスの警告に素早く反応した少女は振り向き、剣の刀身を地面に突き立てるようにして構える。


「無駄よ!」


 剣の長さが倍ほどに。そして幅が数倍以上に広がる。

 それにより、少女とその後ろにいるイングリスは完全に身を隠す形となる。

 剣の刀身を吹雪が叩く音がして――完全に無傷でやり過ごせた。

 攻撃にも防御にも、上手に魔印武具(アーティファクト)を操っている印象だ。


 吹雪をやり過ごすと、今度は少女の反撃だ。

 屋根の上の魔石獣に向けて、剣の切っ先を突き出す。


「お返しっ!」


 グンと長く伸びた切っ先が、魔石獣へと突き進む。

 だが流石に距離が長すぎたのか相手が俊敏なのか、ふわりと飛び上がって回避されてしまう。


「むっ――生意気ね……!」

「お手伝いします。少しそのままで」


 イングリスは少女にそう囁くと、屋根へと伸びた彼女の魔印武具(アーティファクト)の刀身へと飛び乗った。

 そして、一気に屋根へと駆け上がる!


「ええぇっ!? は、速いっ……!?」


 少女が唖然とする中、魔石獣に肉薄したイングリスは屋根を更に蹴り高く跳躍。

 浮いて少女の剣を避けた魔石獣の頭上を取り――

 ぐるんと空中で前転しつつ、踵をその頭部に叩きつけた。


 ギュオォォ!?


 真っ逆さまに広場に墜落していく魔石獣。

 イングリスは、下にいる少女に声をかけた。


「今です! 斬って!」

「わ、分かったわ!」


 少女は見事に墜落してくる魔石獣を捉え、両断していた。


「続いて行きます!」


 二体、三体と続けて彼女の方に叩き落すが、しっかり反応して斬り捨ててくれた。


「やりますね――!」


 イングリスは眼下の広場にいる少女に声をかける。

 向こうはイングリスに笑顔を向けてくる。


「あなたこそ……! 魔印(ルーン)魔印武具(アーティファクト)も見えなかったから心配したけれど、余計なお世話だったみたい。ごめんなさいね」

「いいえお気遣い感謝します」

「ねえあなた、名前は?」

「イングリス・ユークスと申します」

「私はレオーネ。レオーネ・オルファーよ! ここは協力しましょう?」


 オルファーという姓には、どこかで聞き覚えがあった気がした。

 しかし今は、魔石獣を倒していくべきだろう。


「ええ、レオーネさん。よろしくお願いします」

「レオーネでいいわ。年齢もそんなに変わらないでしょう?」

「うん。わかったよろしく、レオーネ」

「こちらこそ!」


 二人は笑顔を交わし、魔石獣退治を続行した。

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