第45話 15歳のイングリス・氷漬けの虹の王《プリズマー》
アールメンの街の中心部には、そこらの城に引けを取らないような大きさの大聖堂がある。
氷漬けの
というよりも、魔石獣の最強種たる
当然大聖堂は厳重に警戒されているが、特別な許可があれば中に入る事が出来る。
ラフィニアはビルフォード侯爵の令嬢であるし、それ以上に王都で活躍中の聖騎士ラファエルの妹でもある。
その特別な許可を得られる立場だった。イングリスは同行者として、一緒に中に入れて貰っている。
「うわあ……あれが
魔石獣化したラーアルやセイリーンも大きかったが、その更に数倍、いや十倍近くありそうな雄大な姿だ。
キラキラと美しい虹色の翼をした巨鳥である。
大聖堂自体かなり大きいが、中に入って見ると広大な縦穴が掘られており、その中に
地上部分の大きさは、全体のからすれば一部に過ぎなかった。
翼や足や、体の所々が破損しているが――
それでもなお、氷の中で渦を巻くような、異様な力の波動を感じる。
もしかしたら、完全に死んでいるわけではないのかもしれない。
元気な時の
「もうクリス。そんなキラキラした目で見ないの。へんな子だと思われるわよ?」
基本的に中に入る事が出来るのは、上級の騎士であるとか、身分の高い貴族であるとか、行政官であるとか、要は人の上に立つような立場の人間だ。
そういった者に
だからこれを見た者は、恐怖や脅威を感じつつもギュッと引き締まった顔をするのが普通だ。そのはずなのだ。
それをイングリスは、綺麗なドレスやアクセサリーに憧れるかのような、夢見る瞳で
反応としては明らかに異様で、警戒に当たっている騎士達から目を付けられかねない。
「いいなあ……戦ってみたいな――リンちゃんみたいに、氷を溶かしたら動いたりしないかな」
そのリンちゃんは本能的なものなのか
「ダメだってクリス……! ここは最重要区画なんだから、変な事言ってたらそれだけで捕まるわよ……!」
「でもねでもね。あれ凍り付いてるけど、まだ何か力がどくどくってしてるのを感じるんだよ? 死んでないかも知れない。だから中から出して完全に処理した方がいいと思う。わたしにやらせてくれないかなあ」
「だからもう、クリスってば……!」
「おい君達っ!」
と、聖堂内の警備についていた騎士に声を掛けられた。
「ひいっ!? あははは……何でもないんです。この子ちょっとヘンな所があって――ほら、すっごく可愛いでしょ? その分ちょーっと性格が変わっちゃってて……! でも大丈夫です、あたしがちゃんと見てますから!」
と愛想笑いと口先で誤魔化そうとするラフィニアに、騎士の男は首を振る。
「いや、何を言っているのか分からんが――そうじゃない! 今、街中に魔石獣が出現したらしい! 危険だから、騒ぎが落ち着くまで聖堂から出ない方がいい。ここは警備も厳重で、安全だから……」
「魔石獣が? よーし腕が鳴る!」
イングリスはにやりと笑うと、聖堂の出口に向かって駆け出した。
格落ちだが、それを魔石獣で解消させて貰おう。
「お、おい君っ!」
知らせてくれた騎士が止めるが、無論イングリスは聞いていない。
「あーもうクリスってば! 珍しく落ち着きないなぁ……でも、行くのは賛成!」
自分達が行くことで、助かる人もいるだろう。
ここで安全な場所で黙っている事はラフィニアの正義感にも反するのだ。
「ごめんなさい、行きます! 知らせてくれてありがとう!」
ラフィニアは礼を述べてイングリスの後を追った。
イングリスが外に出て様子を見ると、街中の広範囲に渡って結構な数の魔石獣が出没している様子だった。
鳥を基にしたようなものが多く、空やあちこちの屋根の上にそれがいるのが見える。
だが、迎撃に出ている騎士達の数もかなり多い。
元々ここは
配置されている戦力の数も多いのだ。
さて、どこから手をつけようか――とイングリスは走りながら物色する。
――右奥に通りを行った突き当りの広場!
十体程の走鳥型の魔石獣がたむろしていた。
そこが一番、手近にそこそこの数が集まっているか。
騎士達の一隊が列を作って通りを塞ぎ、じりじりとそちらに近づこうとしている。
「……させるか!」
イングリスは騎士達の後ろから走って瞬時に追いつき、その頭上を軽々飛び越えた。
そして一人、魔石獣の群れに突っ込んでいく。
「うわっ!? な、何だ……!?」
「お、おい君何をしている! 危ないぞ! おいっ!」
「無茶をするな! 止まれ! 戻るんだ……!」
背中からイングリスの身を案じる騎士達の、悲鳴に近い声が上がる。
「ありがとう。大丈夫です」
心遣いだけ受け取っておく。
という趣旨で、イングリスは振り向いて笑顔を向ける。
――とその瞬間、通りの脇から飛び出して来た人影があった。
「馬鹿ッ! 何をしているの!?」
「うわっ……!?」
その人影はイングリスに飛びつき、見事その場に押し倒したのだった。
一体何者だ? なかなかやる。
イングリスはそう思いながら、その人物に注目する。
それはイングリスとそう年の変わらない、藍色がかった髪色をした少女だった。
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