第38話 15歳のイングリス・天上人が支配する街9
そして翌日――捕縛された前領主時代の騎士たちが、街の広場に引き出された。
街の人達が出てきて、その様子を見守っている。
何が行われるかというと――処刑である。
現領主に楯突いて命を奪う企てまでして見せたのだから、当然と言えば当然だ。
「……あたしたちが捕まえた奴等だもんね。顛末くらいは見ておかないと」
と、ラフィニアは自分に言い聞かせるように言っていた。
本音では、あまり見たくはないのだろうが。
そんな中皆の前にセイリーンが立つ。
捕らえられた全領主時代の騎士達が口汚く彼女を罵るが、無表情に受け流す。
そして告げる――
「あなた方を追放したのは私です――だから、私を恨むのは仕方のない事……ですが私は、あなた方に分かって欲しかったです。今までのようではいけないと。力を持つからと言って、誰一人蔑ろにしてはいけません。人を人として尊重し、対等に接するべきです。あなた達にはそう変わって欲しかった……」
旧領主時代の彼等の無法に苦しめられていた住民たちからは、拍手が起こる。
全領主時代の騎士達は下を向くもの、セイリーンを罵るのを止めないもの、様々だ。
セイリーンはそれを暫く無言で眺めていた。
そして眦を決し――配下の騎士達に命じる。
「――この方達の縄を解いて下さい」
「……え? セイリーン様、彼等を処刑するのでは……!?」
ナッシュ隊長の問いかけに、セイリーンはいいえ、と首を振る。
そして首領の、元騎士団長ホーカーの前に跪いて見せるのだった。
「どうか心を入れ替え、力を貸して下さい……! 魔石獣の現れる地上で生きて行くには、人が人を牛耳るのではなく、人と人とが手を取り合うことが絶対に必要なんです! どうかあなた方の力を、自分のためではなく力ない人々を護るために使って下さい……!」
セイリーンは
噂に聞く、傲慢で地上の人間を人間とも思わないような
住民たちはその思いを新たにし、そして元騎士達の仲にも、その思いが芽生え始めているように、イングリスには見えた。
「我々を許すというのか……」
「許して頂くのは私です……あなた方には辛く当たりました。もしも私を許せないのならば、どうぞこの場から立ち去って下って結構です。ですがどうか、同じ過ちは繰り返さないでください――」
元騎士団長のホーカーは、もう参ったと言わんばかりに、彼女の前に跪いた。
「御意に……! この命、ご自由にお使い下され……! コラァ! 貴様らも頭が高いぞっ!」
その一喝で、元騎士達も次々とセイリーンの前に跪いて見せるのだった。
その光景に、住民達からもわっと歓声が上がる。
今日からが、この街の新しいスタートだろう。
「すごおおおぉぉぉいっ! セイリーン様、かっこいいわね! ね、クリス!?」
ここにも目を輝かせて喜んでいる少女がいた。
「ははは。そうだね――」
処刑どころか、一斉に元騎士達の恭順を取り付け、結果的に街の防衛戦力を大幅に向上させて見せるとは――実際なかなかのやり手かも知れない。
少々大胆過ぎるきらいもあるが、それも若さと熱意ゆえといった所か。
もし前世で部下にいたら、将来有望な若手政務官として注目していただろうか。
「ありがとうございます。皆さん――!」
セイリーンは心から嬉しそうに、周囲に笑顔を振りまいていた。
その日の夜は、城で祝宴が催された。
イングリスとラフィニアも用意されたごちそうを思う存分堪能した。
周囲からはドン引きされていたが、食欲には勝てないのだ。
ひとしきり満足したところにセイリーンがやって来て、一緒に話がしたいと言った。
三人は会場を早めに切り上げて、領主の私室で食後のお茶を楽しむことにした。
「ホントかっこ良かったですよ、セイリーン様! 憧れちゃいます!」
「ふふふ。でも怖かったですよ? 膝は震えていましたし。それに緊張したからか、ちょっと疲れてしまって――」
と、ちょっと欠伸が出そうになるのを口で抑え、すいませんと微笑んで見せる。
なかなか可愛らしい仕草である。
「いけませんねえ。今日のお茶は疲れによく効くっていうハーブを入れてますから、これを飲んでゆっくり休んでくださいな」
と、セイリーンや子供達の身の回りの世話を行っている女性――ミモザが、にこにことしながらお茶を淹れてくれた。
「ありがとう、ミモザ。ん――ちょっと変わった味ね、でも悪くないわ。体がすっとするみたいよ。本当に疲れが取れそうね」
「うん、結構おいしいわ」
「そうだね」
そして暫く歓談をすると、セイリーンがこう申し出る。
「あの――お二人にお話ししたい事があります……ついて来て頂けますか?」
先程までの温和な表情とは打って変わった、真剣な顔つきだった。
「? どうしたんですか?」
「何のお話ですか?」
「イングリスさんが仰っていたことで……」
この街の
「お願いします」
自分で調べようか、だがもう十分な路銀を稼いだので先を急いでもいい、と悩んでいた所だ。せっかくなので聞かせて貰うとしよう。
セイリーンは部屋を出て、イングリスとラフィニアを秘密の地下通路に案内した。
この城の主たるセイリーンしか知らないものらしく、途中には
それをセイリーンが一時的に解除してくれ、イングリス達を地下へ地下へと導いていった。
やがて、城の地下通路の底にたどり着く。
そこは巨大な石畳の空間で、その広大なスペースを一杯に埋めるように、複雑怪奇な文様がびっしりと詰まった魔法陣が描かれていた。
朧げに光るそれに、地上から降りてきた
「何これ――? この魔方陣、
これが、街全体の
こんなものが地下にあって、人々から
「セイリーン様、こ、これって何なんですか……?」
ラフィニアは得体の知れないものを不気味がっている様子だ。
「これは
セイリーンは上を指差しながら、そう言った。
「!? なるほど……」
あの
奴等は地上を奪おうとしている――と。
それは権力的な事や、精神的な事だったりするのかと思ったが――
まさか物理的に、人々の住む街を高空に持ち去ると言うのか。
まさしく文字通り地上を奪う――という事になる。
「えぇっ!? それってこの街が空に飛んでっちゃうって事ですよね!? みんなどうなるんですか!?」
このラフィニアの問いに、セイリーンは何と答えるのだろうか。
イングリスは注意深く、彼女の返答を待った。
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