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第24話 12歳のイングリス12

「イングリスちゃん――ちょこっと見てたが、君は強い。こんな可愛らしい女の子が、信じ難いくらいにな……だから大人気ないが全力で当たらせてもらうぜ。はああぁぁっ!」


 レオンは力を込めて、上級魔印武具(アーティファクト)の棘付の鉄手甲を叩き合わせて打ち鳴らす。

 聖騎士が天恵武姫(ハイラル・メナス)を手に取るのは、最強の魔石獣から国と人々を護る場合のみ。

 普段はこの、鉄手甲の魔印武具(アーティファクト)を愛用していた。


 上級の魔印武具(アーティファクト)にもなると、単に斬る、突く、殴るだけでなく天の与えた奇蹟とも言うべきような特殊な現象を発揮する。

 その現象、奇蹟(ギフト)は各武器によって決まっているが、このレオンの持つ魔印武具(アーティファクト)は、雷の獣を生み出し使役するのがその効能だ。


 ――その数、その強さは扱う者の能力次第。

 特級印を持つ聖騎士たるレオンが全力で使えば――!


 打ち鳴らされた魔印武具(アーティファクト)から小さな光球が散り、地面に落ちると先程の雷の獣と化して唸り声を上げる。その数は二十――いや三十以上か。

 それが一斉にイングリスを取り囲んでくる。

 なかなか目に眩しく、賑やかな光景だ。


「二体だけ俺について来い! 残りはイングリスちゃんにかかれ!」


 レオンは言って、エリスの方へと突進する。

 その後を二体の雷の獣が追従していく。

 エリスは双剣を構え、それを迎え撃つ姿勢を取っていた。


 エリスとレオンが本来互角だとしても、数の上、それに現時点の状態でもエリスが不利だ。一度大きなダメージを負っている。

 レオンにエリスを殺すつもりはない――というよりも、天恵武姫(ハイラル・メナス)が普通の人間と同じように死ぬのかも分からない。

 が、少なくとも攻撃を加えて無力化し、連れ去る事は出来るのだろう。

 今レオンが行おうとしているのはそういう事だ。


 ――止めさせて貰う!

 そう考えるイングリスには残りの雷の獣が全て、向かって来ている。


 グルウゥゥ! ガアアアァッ! グオオォォォッ! 


 まず第一に、これを突破する事が必要だ。

 ――中々面白い! 流石は聖騎士の放つ奇蹟(ギフト)である。


「はあっ!」


 イングリスは手近な一体に自ら突っ込み、拳打を見舞おうとする。

 雷の獣はイングリスの踏み込みに反応し切れず、イングリスの拳が直撃する――

 はずだった。

 が、その前に不意に虚空から現れた剣が、雷の獣を切り裂いた。

 この剣は――エリスの構えていた二刀のうちの片方だ。


「ギャオォッ!?」


 切り裂かれた獣は悲鳴のようなものと共に、眩しく輝いて弾け飛んだ!

 先程エリスが喰らっていたのと同じものだろうか。

 こちらが攻撃する手前だったので、間一髪飛び退く事が出来た。

 雷の爆発は少し浴びたが、体が少々痺れる程度で済んだ。

 まともに浴びていれば、もっとダメージを受けたはずだ。


「気を付けて! あれは、こっちから強い攻撃を加えても爆発するわ! 迂闊に攻撃しちゃダメなのよ!」


 遠くのエリスが、イングリスに呼びかけた。

 知っている事を教えて、警告してくれたのだ。


「はい! 分かりました!」


 しかしあの距離から雷の獣を斬るとは、あれは何だ?

 人の姿の天恵武姫(ハイラル・メナス)も、奇蹟(ギフト)のようなものを操るという事か? 先程の手合わせでは見せてくれなかった技だ。ずるい。


「今度、その技を使って手合わせをお願いします!」

「嫌よ! 私はあなたと違って好戦的じゃないの!」


 あっさり拒否をされてしまった。

 ともかく、エリスが対処の方針を示してくれた。

 あれを近接攻撃で撃破してしまうと、反撃の自爆を避けらず大きなダメージを受ける、という事だ。

 つまり、爆発に巻き込まれないような距離を取って撃破せよ、と言うのだ。


「――とにかく。エリスさん、情報をありがとうございます。参考にさせて頂きます!」

「フフッ。あれはそう何度も打てねえはずが、イングリスちゃんに教えてやるためだけに使うとは、やっぱ何だかんだ言いながら面倒見がいいね、お前は。ツンデレってやつだ」

「うるさい!」

「そうだったんですね。待っていて、すぐに助けます!」


 イングリスは両の拳を握り締め、意識を集中して気合を入れた。


「はああぁぁぁっ!」


 イングリスの身体を青白い光が覆う。

 霊素(エーテル)を凝縮した波動を身に纏ったのだ。


 しかしそれに何の意味があるのかは、エリスやレオンには分からない。

 霊素(エーテル)を感じられない彼等には、単に光っただけにしか見えないのだ。

 だから特に驚きの声は上がらない。

 しかしすぐに分かるはずだ――


 光を纏ったイングリスは、手近な雷の獣に真っ向踏み込む。

 その速度は、先程と比較にならない程早かった。

 そしてその勢いを乗せ、足を鞭のようにしならせ、回し蹴りを放つ。


「ギャオォォォッ!」


 雷の獣の悲鳴が上がる。相当な衝撃があった証拠だ。


「な――馬鹿ッ! せっかく人が……!」


 エリスの言葉の最後をかき消す爆発音。

 イングリスは雷の獣の自爆にモロに巻き込まれていた――

 が、傷一つつかない。揺るがない。たじろがない。

 全く何事も無かったかのように、立っている。


「ええっ……!? な、何が――!?」

「ありゃどういうことだ……!?」


 エリスもレオンも、思わず戦いの手を止めていた。

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