第23話 12歳のイングリス11
それはバチバチと弾ける稲光を凝縮して形成された、獣のような姿だった。
イングリスに背を向けて去ろうとするエリスの脇から飛び出し、体当たりをした。
それだけでバチンと弾ける音が鳴り響き、雷が弾ける。
「くっ!?」
どうやらあれは、触れただけで雷撃のダメージを受けるようだ。
だがそれだけでは無く、雷の獣はエリスの身を捉えたまま屋敷の塀に突っ込んだ。
そしてそこで、獣全体の体が大きく弾け飛んだ!
「きゃあああぁぁぁっ!?」
エリスの悲鳴。轟く轟音。
獣が弾け飛んだ稲妻の衝撃は、塀を大きく破壊していた。
「エリスさんっ!?」
完全に不意打ちを喰らった格好だ。大丈夫だろうか?
「う……うう――」
よろめきながらも、エリスは身を起こしていた。
「大丈夫ですか!?」
「え、ええ……何とかね」
致命傷ではないようだ――が、決してダメージも小さくなさそうである。
ともあれイングリスは、彼女に駆け寄ろうとした。
が、その前にも先程の雷の獣が姿を現し行く手を阻んだ。
こちらを足止めするように、威嚇をしてくる。
「これは……!?」
魔術や、それに近いもので生み出された疑似生命か。
エリスは何か心当たりがあるらしく、激しい怒りの表情を見せた。
「こ、こんな事……! 何を考えているの!? 出て来なさい! レオンッ!」
「ええっ!? レオンさんがこれを……!?」
「よっ。まあそりゃ分かるわな」
と、軽い調子で言いながら、建物の陰からレオンが姿を見せる。
夜会の時に見た騎士衣装に、青紫に輝く棘付の鉄手甲を装備している。
あれは
「イングリスちゃんがエリスの気を引いてくれて助かったよ。お陰で不意打ちでカタが付きそうだぜ。まともにやったら死闘だからなぁ」
「見損なったわ――どう言うつもりなの……!? 私達を裏切るって言うの!? 仮にも聖騎士のあなたが!?」
「ま、そう言う事にならざるを得んかな?」
「レオンさん……必要とあらば
レオンの意図は、
「馬鹿言え、冗談に決まってるだろう。ちょっと傷つくぜ、そりゃあ。仮にも聖騎士だぞ俺は。この国や人々を護るために命捨てる覚悟は出来てるよ」
「じゃあ何故こんなことを……? エリスさんは大事なお仲間でしょう?」
「……今回の事で愛想が尽きたから、かな。お前達も見たろ? 今のままでは、地上は
「……己の力に大義を求める――という事ですか。意外に純情な方ですね」
「こんな幼い女の子が、何ちゅう物言いだ。どんな人生送って来たんだよ、君は」
レオンは呆れ顔でイングリスを見る。
「だけど
「それじゃあ今回のような事は泣き寝入りか? 俺は許せんね。魔石獣も
「……そんな道があるという事ですか?」
聞いていると、エリスの言い分が現実的ではあると感じるが……?
「……イングリスちゃん、血鉄鎖旅団って知ってるかい?」
「……いいえ?」
ユミルは田舎であるし、イングリス自身も基本的に修業を積む事しか考えていない。
世事には疎い方ではあるだろう。
「反
「
「
「おっ! いいね賢いね! そういうこった。魔石獣から身を護りつつ、偉そうな
「
「だからこそ、血鉄鎖旅団に強い力を集めんとな。そのためにエリスを手土産にと思ってさ。究極の
「嫌よ! 多くの人が死ぬような事には手を貸したくないわ!」
エリスは少々よろめきながらも、双剣を構えて抵抗の意思を見せる。
「イングリスちゃん? 君はどうする? 何なら一緒に行くかい?」
「……お断りします」
「どうしてだい? エリスと同じ現状維持派かい?」
「いいえ? ここでエリスさんを助ける側に立てば、あなたと手合わせさせて頂けそうなので……」
「はぁ!? おいおい、君は強いんだ。ちゃんと自分の力の意味は考えないとダメだぜ!」
「……こ、この子ってどれだけ――」
レオンは素っ頓狂な声を上げ、エリスは呆れている様子だ。
「レオンさんの仰る事は理解できます――ですが、わたしは力と大義を結び付ける事はやめました」
それはもう、前世で通り過ぎた道だ。
大義に力を注げば、いずれ前線から引き離されて人々を導く立場に追いやられる。
イングリス・ユークスにそのつもりはないのだ――!
「では、エリスさんを奪いたければ腕ずくで来てください。さあどうぞ」
イングリスはそうレオンに要求した。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
『面白かったor面白そう』
『応援してやろう』
『イングリスちゃん!』
などと思われた方は、ぜひ積極的にブックマークや下の評価欄(☆が並んでいる所)からの評価をお願い致します。
皆さんに少しずつ取って頂いた手間が、作者にとって、とても大きな励みになります!
ぜひよろしくお願いします!