第13話 12歳のイングリス
洗礼の日から六年。
イングリスは12歳になっていた。
上級印の光の弓の
父リュークにはラフィニアと共に騎士団の訓練や魔石獣討伐に参加することを許され、わりと充実した日々である。腕を磨く環境としては悪くない。
ただ、国をも滅ぼすと言われる最強クラスの魔石獣には、未だに遭遇したことがない。
特級印専用の究極の
国内にそれが現れたと言うのは、近年では殆どないようで、少なくとも二、三十年前に遡るらしい。隣国ではここ最近も出現報告があるらしいので、一度遠征に行ってみたいものだ。
それを言うと流石にラフィニアは怖いと嫌がっていたが。
もっともっと。誰よりも何よりも、強くなるのだ。
武に生きることがイングリス・ユークスとしての道なのだ――!
そう思うイングリスの目の前に――
月の輝きのような長い銀髪と、宝石のように煌めく紅の瞳の美少女がいた。
その笑顔は、花がほころぶかのようである。
12歳に成長した自分の姿だ。姿見に自分が映っているのである。
年齢のわりに発育が良く、身長も高めのため、同年代の少女より多少大人っぽい。
外見の年齢は14、5歳くらいだろうか。
赤いドレスを身に纏い、くるりと一度回ってみる。
ドレスの裾がふわりふわりと、嬉しそうに揺れている。
(うーむ――見た目の方も順調に成長しているな)
自分自身を見て、改めてそう思うイングリスだった。
順調に絶世の美女になる道を歩んでいるのだ。
「クリスー? 着終わった?」
「ああ着終わったよ、ラニ」
「じゃあ入るわよ~! おおぉぉ~! すごい大人っぽーい! やっぱキレイよね、クリスは! はー……見とれちゃう♪」
試着室に入って来たラフィニアが、イングリスの姿を見てそう言った。
ラフィニアは黒髪黒目、艶のある髪は肩くらいまでで揃えた、活発な印象の少女に育っていた。性格的にも天真爛漫で明るく利発だ。
「いやー。本当にお綺麗ですねえ。このドレスも喜んでますよ、イングリス様みたいな娘さんに着て貰ってるんですからねぇ」
ラフィニアと一緒に見ていた、中年の女性もため息を吐いていた。
この人はこの城下の仕立て屋の女将だ。
ラフィニアの侯爵家とも付き合いのある、御用業者でもある。
「ありがとうございます。これもいいドレスですね」
時々この店に遊びに来て、色々な服を着させてもらうのが二人の楽しみだった。
主に着るのはイングリスだけだが。
ラフィニアがイングリスを色々着せ替えさせるのが好きなのだ。
そしてイングリスも、色々な服で着飾ってみるのは嫌いではなかった。
女性の身ならではの楽しみなので、せっかくなので楽しんでみようかと思っている。
武を極める修行の日々の中の、いい息抜きだ。
始めは少々恥ずかしかったりもしたのだが、ラフィニアに色々着させられて行くうちに慣れて楽しめるようになって来た。
確かに、自分でも思うがイングリスは美しい。何を着ても似合う。
色々な服によって違う映え方をする自分が、自分でも楽しみになってしまうのだ。
「ねね、クリス、このリボンで髪を結んでみて? また印象が変わって可愛いわよ?」
「いいよ。じゃあ結んでくれる?」
「はいはい。じゃあ私がお手伝いしますね♪」
「ありがとう、女将さん」
「いいんですよ、やっぱりあたしも女ですからねぇ。美しいものは見てみたいんですよ」
そして髪を結い上げると、また印象が変わり更に大人っぽい感じになった。
悪くない。綺麗だ。イングリスは鏡の前で笑顔を見せる。
「わ~! それもいい! いいわね~!」
「ですねえ♪ あ、次はこの服はどうですか? イングリス様に似合うと思って、置いておいたんですよ!」
「じゃあそれも着てみましょうよ、クリス!」
「ははは。うん分かった。いいよ」
そんな風にして、夕方になるまで着せ替えをして楽しませて貰った。
屋敷に帰るための帰路につくと、遠くの空に大きな影が通って行くのが見えた。
それは――空に浮かぶ浮島である。
イングリス達の住む城塞都市ユミルが丸ごと一つ二つ入ってしまいそうな巨大さだ。
その大きさの空飛ぶ島の上に、人の住む都市が存在していた。
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