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第101話 15歳のイングリス・天恵武姫護衛指令9

「くっ……!? このっ!」


 リップルは向かってくる銃弾を銃弾で迎撃する。

 二発までは撃ち落とせたが――一発はこのままでは当たる!


「っと――!」


 飛び退いて避けざるを得ない。その間銃撃は一瞬止まってしまう。

 イングリスからも目を離すつもりは無かったが、それでも――


「!? いない……!」


 姿が消えた――!?

 と思った瞬間、視界の端にふわりと美しい銀糸が舞った。

 それは、イングリスの長い銀髪が揺れ動く光景だった。


 つまり――もう間近。懐に潜り込まれている!


「!」

「はああぁぁっ!」


 ドゴオォォッ!


 イングリスは突進の勢いそのまま、肩と背中をぶつける体当たりをリップルに見舞う。


「うわあああぁぁぁっ!?」


 体重の軽いリップルの体は、その勢いと衝撃に押されて大きく吹き飛んだ。

 結界を張るミリエラ校長の方向に飛んで行き――

 バァン! と弾き返されるかと思いきや、意外にふんわりと受け止められるように着地した。

 ミリエラ校長がそういう風に結界を操ったのかも知れない。


「あいたたたぁぁ……すっごい体当たり。パワー凄いね。それにボクの銃弾を弾いて撃ち返すとか、変態じみてるよイングリスちゃん。あんなの初めてだよ」

「わたしも一応、格闘ではなく剣が一番得意なので――」


 とはいえ、本当は二丁拳銃で弾幕を張られようとも正面突破をしたかった。

 飛び道具に頼ってしまったのは少々不満だ。

 さすが天恵武姫(ハイラル・メナス)は強くて、思い通りにはなってくれない。


 それにまだ、リップルには出していない力があるはず。

 エリスやシスティアのような、空間を飛び越えるような特殊能力があるはずだ。

 だからまだ完全に、リップルの全力を見られたわけではない。


 それに更に言えば、天恵武姫(ハイラル・メナス)の本領は人の姿で戦う事ではなく、武器化して聖騎士に使って貰う事だ。

 武器化した天恵武姫(ハイラル・メナス)を振るう聖騎士だけが、最強の魔石獣である虹の王(プリズマー)に対抗できるという。


 虹の王(プリズマー)ではなくイングリスに対抗して欲しいものだ。

 勿論虹の王(プリズマー)もイングリスが倒す。

 そうすれば、二度楽しめるというわけだ。


 ――とりあえず、手合わせの続きだ。まだ終わっていない。終わりたくない。


「さぁリップルさん、続きを――」


 その時、リップルは後ろのミリエラを振り返っていた。


「ミリエラありがとねー、結界で受け止めてくれて。痛いのが一回で済んだよ」

「いえ……私何もやってないんですけどねえ? バチーンと激突すると思ったんですが、何だかリップルさんが触れると、結界が吸われたみたいに消えちゃいましたよお?」


 と、ミリエラ校長は首を捻りながら身に着けている指輪を見ていた。

 これが結界を張る魔印武具(アーティファクト)なのだろうか。

 流石校長先生だけあって、色々持っている。

 自身が特級印の持ち主であり、特級印とはつまり、属性等に関わり無く全ての魔印武具(アーティファクト)を扱える力の持ち主だ。


「それは、どういう――魔素(マナ)が吸い取られたと? ミリエラ、君が意図的にやったのではないんですね?」

「ええ――そうですよお」


 セオドア特使には何かひっかかったらしく、念押しをしていた。

 何だか雲行きが怪しい感じがする。


「あの、続き……」


 しかし、誰も聞いてくれなかった。

 自然と手合わせが終わった流れになっている。

 誰も終わったつもりはないのだが……?


「……誰か、他の方の魔印武具(アーティファクト)でも試してみて下さい。危険ですから、攻撃ではない能力のもので――」

「では、わたくしが」


 と、手を上げたのはリーゼロッテだった。

 彼女の魔印武具(アーティファクト)は純白の翼を生み出し飛行能力を得るものであり、単純な攻撃用ではない。


「ではお願いします」

「はい――これで如何ですか?」

「ありがとうございます。ではリップル殿、あの翼に触れて見て下さい」

「うん、分った」


 と、リップルはリーゼロッテの背に現れた翼にペタペタと触れる。


「あの……! 手合わせはまだ終わってな……んぐっ!?」

「はいはい、クリスは黙ってなさい。真面目な話なんだから」


 ラフィニアに口を塞がれた。

 そうしている間に真面目な話が進行する。


「二人とも、何か違和感はありませんか?」

「何もございませんわ?」

「うん。普通だねえ」

「ではミリエラ。あなたが彼女の魔印武具(アーティファクト)を借りて使ってみて下さい」

「て、天使の羽ですかあ。年齢的にちょっと似合いませんよねえ――」

「ま、あの羽が許されるのは、若くて可愛いうちだけだよね。二十代前半までだねー?」

「ううう……」

「ふふふ。はい、どうぞお使いになって下さい。校長先生」

「リーゼロッテさん! 笑っていられるのも今のうちだけですからねえ? すぐにあなたにもその時は来ちゃうんですから!」

「は、はあ……?」

「ミリエラ、生徒さんを困らせている場合ではありませんよ」

「はぁい。じゃあ――えいっ!」


 ミリエラ校長の背にも純白の翼が現れた。


「さっきと同じで、これを触るんだよね?」


 とリップルが翼に手を触れると――


 シュウゥンッ! 何かに吸い込まれるように、翼は消失して姿を消した。


「やはり魔素(マナ)を吸っている――それも、ミリエラのものだけを……!」

「……天恵武姫(ハイラル・メナス)は特級印を持つ聖騎士の力のみを受け付けるから――ですかねえ?」

「ええ。本来ならリップル殿の意思と特級印の力により発動する武器化の機能が、おかしな具合に歪められているんですね。特級印を持つミリエラの魔素(マナ)を勝手に吸い取ろうとしている。そうして、一定の魔素(マナ)が貯まると――」

「あ……っ!?」


 ヴヴヴゥゥンッ!


 リップルの体を黒い球体が覆った。

 魔石獣が現れる前触れだ。


「やはり、魔石獣を呼び寄せる……という事ですね――!」


 セオドア特使が表情を鋭くする。


「ご、ごめんイングリスちゃん――あとお願い……!」


 リップルはそう言い残して、気を失って倒れてしまう。

 地面に倒れ込む前に、イングリスはその体を受け止めた。


「任せて下さい。手合わせを中断されて、物足りなかったところです」


 イングリスは大きく頷き、魔石獣が姿を現すのを待ち構える。

 と、ここで――


「ご、ごめんなさいもう限界ですっ!」


 じっと集中して空間を維持していたレオーネが、そう宣言をした。

 かなりの負荷がかかっていたようで、かなり汗をかいている。


 目の前の光景が切り替わり、元の校長室へと戻って来た。

 そこに、魔石獣が頭上から降って来た。


 がしゃあああぁぁぁんっ!


 校長室の机が粉々に破壊された!


「あぁぁぁぁぁ! 私の机がっ!?」


 ミリエラ校長が悲鳴を上げた。

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