鬼の女小隊長は部下の童顔騎士に夢中です
王都を護る王都騎士大隊。その部隊の一つ第三小隊。
第三小隊隊長カレン。小隊長を拝命するほどに強いベテラン騎士。
第三小隊隊員アーノルド。幼い顔に似合わず他の隊員を寄せ付けない強さを示す若手騎士。
二人の年の差は10.少しばかり離れているが今の二人には関係ない。
そんな二人が新婚旅行で訪れた観光地ロック湖で侯爵令嬢エリザベスを助けたことで王位継承権をめぐる陰謀に巻き込まれる。
「アーノルドとのラブラブの時間を邪魔した奴は許さない!」
「いや、小隊長なら王国の危機を憂いなよ」
観光地として名高い湖畔のカフェ。テラス席から見える湖は太陽の光を反射してキラキラ光っている。風はあるが弱く心地よく頬を撫でていく。
テラス席でスイーツを楽しんでいるカップルがいた。一人は赤い髪を短く切り揃え男性に負けない体格の女性。目は濃い茶色で人を射抜くように鋭い。頬には薄く刀傷が残っている。白いワンピースを着ているが女ざかりの彼女にはすこし着慣れない感じが見える。もう一人は同じくらいの体格の小麦色の髪の男性。くりっとした茶色い瞳の童顔で子供に間違えられるが立派な成人だ。
女性は、騎士団王都大隊第三小隊隊長カレン。小隊長を拝命するほどに強いベテラン騎士。
男性は、騎士団王都大隊第三小隊隊員アーノルド。幼い顔に似合わず他の隊員を寄せ付けない強さを示す若手騎士。
二人の年の差は10.少しばかり離れているが今の二人には関係ない。
そんな二人が今、おしゃれな観光地のカフェでイチャイチャしながらスイーツを食べさせあっている。なんでって? そりゃ二人が新婚ほやほやだからだ。
「はい、あーん」
「ア、アーノルド、それは……」
「はい、あーん!」
「だから……(はずかしい)」
アーノルドが差し出すケーキをカレンは恥ずかしがって口に入れようとしない。それにもめげずにケーキを差し出すアーノルド。
「はい、あーん!!」
「ぱくっ、おいしい」
恥ずかしがっていたカレンも意を決してケーキを口に入れる。そのおいしさに目を見開く。
「でしょ、このケーキ、見た目以上に甘さを抑えていてカレンの好みだと思ったんだ」
「だっ、だけど、30歳にもなってこんな」
少女のように恥じらいを見せるカレンに目を細めるアーノルド。
「カレンはかわいいからいいの」
「そっ、そうか、ぱくっ」
顔を赤らめながらも恥ずかしさを隠すように差し出されたケーキを食べるカレン。
「あー、このカレン、誰にも見せたくない。昨夜のカレンも今のカレンも誰にも見せたくない」
「おっ、おおい、それは……はずかしいから言うな」
はにかむカレンの可愛い顔を他の男に見せたくない、アーノルドは真剣にそう思った。
『うん、このままカレンを屋敷に閉じ込めて、いやそれは難しいかそれなら……』
「おい、アーノルド、心の声が漏れているぞ」
「しまった、気にしないでくださいねカレン」
そんなとんでもないことを言われているのに赤くなったまま目を伏せるカレン。完全にアーノルドに惚れている。ここまで来たのは裏でも表でもアーノルドが努力した成果だ。
隊長カレンは自覚ないがモテた。いや、今でもモテる。隊員はもとより貴族令息、更には第三王子殿下まで。アーノルドもその一人だった。
彼は新人として入った小隊でカレンに出会った。すでに鬼の小隊長として名をはせていたカレンのしごきはきつかった。そんなカレンの実力をなめていたアーノルドは初めての稽古でコテンパンにのされた。それから何度も反発して突っかかっていったけど、彼女の魅力に次第に惹かれていった。
本当はかわいいものが好きだけど、自分には似合わないと遠ざけていること。普段女性扱いされないだろうからと、下心満載で近づく男性をかぎ分ける嗅覚は鋭いこと。でもアーノルドのように直球で好意をぶつけてくる男性には弱いこと。知れば知るほどカレンがかわいく見える。
そこからは頑張った。まず自身が強くなった。カレンに稽古をつけてもらったらただでは負けないくらいに努力した。強い先輩は全力でぶつかった。騎士としては有利ではない体格を逆に使って相手を翻弄する技も覚えた。そして隊の中でも一目置かれる存在になった。そこから隊内外のライバルたちを片端から排除した。更に彼女の外堀を埋めるためにもあちらこちらに味方を作る。その中に第一王子がいたのはどうやってつてを作ったのか。
最大の難敵は第三王子殿下だった。これは第一王子殿下の提案で殿下立ち会いのもと第三王子殿下と果たし合いをした。一つも手を出さず第三王子殿下に根負けさせたときは思わず雄たけびをあげた。流石の第三王子殿下もカレンを諦めてくれた。
なお、先日第三王子殿下はようやく婚約された。失意の第三王子殿下を慰めた年上の婚約者候補、侯爵令嬢シャーロットにころりと参っている。まぁ、その筋書きを描いたのは正妃陛下と第一王子殿下なのだが。
最後の難関はカレン自身。彼女は自分の年齢、そしてアーノルドとの年齢差を気にしていた。自分の容姿が女性としては欠陥があることを理由に断り続けた。
そんなカレンも最後は彼女をかばい大けがをしたアーノルドの姿に陥落した。もちろん、大けがをさせた相手達は地獄を見るより怖い目にあった。その姿を見た隊員はのちに、カレンはまさに鬼神のようだったと語っている。
「はい、あーん」
今度はカレンがアーノルドにフォークに刺したケーキを差し出す。アーノルドは恥じらいもせずにケーキを食べる。
「えへへ、カレンにあーんしてもらった」
「あー、悔しい、私ばっかり恥ずかしい思いを」
悔しそうなカレンを見てそれもかわいいと思うアーノルド。
傍から見ていると単なるバカップルである。しかし周りで見ている人はいない。第三王子殿下と婚約者様からの結婚祝いとしてこのカフェは貸し切りとなっているからだ。給仕する者たちも少しも顔に出さない。裏に回って二人の様子をキャッキャ言ってるかもしれないが。
一日楽しみ夕暮れ時になり一度宿に向かうことにした。二人の服装は白いワンピースのカレンと紺色の上下のアーノルドで少し裕福な平民のように見える。ただ誰も襲ってこないのは二人の腰に剣がぶら下がっているからだ。この格好をすると二人が言った時に周囲の誰もが反対できなかった。と言うか諦めてたようだ。
周りに人が少なくなったころ合い、二人が異変に気が付いた。アーノルドの腕つかまりながら歩くカレンがアーノルドに囁く。
「後ろから三人、前から二人いや三人あと屋根の上に一人……もう一人二人いそうだね」
小声で相手の場所を確認しあう。
「狙いは前の令嬢だろうな、護衛がいるがこの人数だと厳しそうだ」
周りの人が減りチャンスと見たのか前の三人が令嬢達の行く手を遮り、後ろの三人がカレンとアーノルドを追い越そうとする。そのうち二人はカレンとアーノルドに簡単に転ばされる。転んだ二人をみてもう一人も振り返る。
「てめぇ、何しやがる、このおかま野郎、俺たちは騎士団第二小隊だぞ。邪魔するならお前らも……」
あーあ、こいつ目が節穴か。こんなに可憐なカレンをおかま野郎なんて。それより第二小隊だって? 服装が全然違うのだが。 カレンは気にせず倒れた男から武器を取り上げている。もう一人の転んだ男が立ち上がりアーノルドに切りかかってくる。あまり強くないな。それでも油断できない。屋根の上から矢が射られてきたのはカレン達も護衛と判断したからか。アーノルドは体を入れ替え切りかかってきた男を盾代わりにする。
「ぐぇぇっ」
男の背中に矢が刺さっている。
「てめえ……」
残ったひとりが聞きかかってくるが簡単にいなす。たたらを踏んだところをカレンが後頭部を叩く。
後ろから来た三人はカレンとアーノルドに倒された。さらに前から来た三人は護衛達が対応している間にアーノルド達が追いつき助太刀して切り伏せた。屋根の上の男はアーノルドが威嚇したら消え失せた。
「どなたか存じませんが、ありがとう……なんであんたが」
言葉が途切れた令嬢の顔を見たカレンとアーノルドは声が出なかった。
ここにいないはずの令嬢、彼女は第三王子殿下の婚約者シャーロット様の妹君、侯爵令嬢エリザベス様だった。