オオカミと建設業界

作者: 内藤騎之介


 俺はオオカミ、『三匹の子ブタ』に登場するオオカミだ。


「兄貴、まだっすか?」


 こいつは俺の部下のアーロン。


 パワーはないが、目的達成のためなら女装すらする根性の持ち主だ。


 ただ、食べ物を咀嚼そしゃくせず、丸吞まるのみする欠点がある。


 健康のためにも、よくんで食べろと言っているのだがな。


 おっと、そろそろ目的地だ。


 一匹目の子ブタの家。


 ……


 ……………………


「兄貴、ひょっとしてあの家っすか?」


 そうみたいだな。


 長男チャールズって表札が出てるし。


「見事な家っすね」


 そうだな。


 豪邸と言っても大丈夫そうな家だ。


「あ、これ〇〇〇〇が建ててますよ」


 なに、〇〇〇〇だと。


(注:〇〇〇〇には自分の考える大手建設会社の名前を当てはめてください)


 TVでCMもバンバン流してる業界の大手じゃないか。


 なんてこった。


 〇〇〇〇は施工がたしかだから、俺の鼻息程度ではびくともしない。


「でも兄貴の鼻息は台風並じゃないですか」


 台風並であって、台風じゃないんだ。


 〇〇〇〇が建てた家を吹き飛ばすことなど、できん。


「そんな……それじゃあ、どうするんですか?」


 ふっ。


 鼻息で吹き飛ばすのは無理でも、侵入は可能だ。


 行くぞ!


「ま、待ってください兄貴!

 これを見てください!」


 なんだ?


 なにをびびって……これは◎◎◎のマーク!


 この家、◎◎◎に入ってやがる!


(注:◎◎◎には自分の考える大手警備会社の名前を当てはめてください)


「ど、どうするんですか、兄貴」


 ◎◎◎は警備業界の最大手。


 ホームセキュリティにおいては常にナンバーワンを誇っている。


 よく見れば、防犯カメラもあちらこちらに……


 不審があれば、警察と連携して最速五分でやってくるか。


 いや、すでに俺たちの姿を確認してこっちに向かっているかもしれない。


 くそっ。


 撤退だ。




 長男チャールズは大手志向だったか。


 不覚。


 もっと調べておけばよかった。


「調べておくと、なにか手はあったんですか?」


 いや、手はない。


 無駄足を踏まなくてすんだなぁっと。


 まあ、済んだことを言ってもしかたがない。


 予定より早いが、次男の家に向かう。


 あの三兄弟は性格が違うから、次男は長男とは違う家を建てているだろう。


 そこに期待だ。


「兄貴、家がありましたよ!」


 あるな。


 次男アンドリューの表札が出ている。


 長男の豪邸に比べれば、普通の家だ。


 しかし、この家……


「この家、△△△△が建ててます」


 △△△△?


 聞き覚えはあるが……


「地域密着型の建設会社です。

 決して大手ではありませんが、施工主の希望を細かく聞いて、かゆいところに手が届く建設会社です!」


(注:△△△△には自分の地元のそこそこ大手の建設会社の名前を当てはめてください)


 そ、そうか。


 あそこか。


 地鎮祭じちんさいとかしっかり手配してくれるんだよな。


 大手にはない、身近な安心感がある建設会社の建てた家か。


 くっ。


 ここも俺の鼻息程度では壊れてはくれないだろう。


 だが、ここは◎◎◎のマークがない。


 ◎◎◎に入っていないのだ!


 防犯カメラも見当たらない。


 ふふふ。


 そういったところが抜けているな次男アンドリュー。


 そう思った瞬間、俺は視線を感じた。


 誰だ?


 この視線は……


「あ、兄貴……これって、まさか……」


 ああ、わかっている。


 これは、地域防犯だ。


 近所の人たちとのコミュニケーションによる防犯体制。


 近所の目が、俺たちの侵入を防ぐ。


「兄貴、ど、どうするんです?」


 ふっ。


 目があったやつらに、にこやかに挨拶しながら撤退だ。


 引き上げるぞ。




 くそっ。


 次男は地域重視か。


 子育てにはよさそうな環境だ。


「兄貴、酷い目にあいましたね」


 酷い目?


 ああ、挨拶からの世間話に三時間もつき合わされた件か。


 たしかに酷い目だった。


「それで、これからどうします?

 三男のところに向かいますか?」


 悪い予感しかしないが、三男のところに行くしかないだろう。


 だが、きっと要塞かなにかが立ちはだかるんだ。


 わかってる。


 さすがにそこまでじゃなくても、電気柵でんきさくとかあって俺たちの侵入をはばむに違いない。


 だが、行かねば物語は終わらない。


 偵察を兼ねて、様子を見に行くか。




「兄貴、たしかこのあたりですよね?

 家は見当たりませんが?」


 たしかに家らしきものは見当たらない。


 あるのは家の土台らしき場所と、小さなかまだけだ。


 まさか、この窯が三男の家ってことはないだろう。


 ん?


 いた、あのシルエット、三男のエドワードだ。


「あれ?

 オオカミさん?

 来るのは二か月後のはずですよね?」


 そうなんだが……ちょっと予定が狂ってな。


 お前の家はどこだ?


「えへへ。

 まだ建ててる最中なんですよ。

 ほら、あの窯でレンガを焼いているんです」


 ……


 そうか、お前は自力(DIY)派か。


「オオカミさんが来るまでには形にしますから」


 力強いが……


 さすがにいま、レンガを焼いている状態だと行程的に無理だろう。


 一人ならな。


 手伝ってやるから、二か月後までに家を建てるぞ。


「オオカミさん」


 いいか、長男や次男の家に負けるなよ。


 アーロン、暇してる連中を集めろ。


「うっす、兄貴。

 しかし、いいんですか?」


 なにがだ?


「いや、その、家を建てる手伝いをしちゃって……」


 いいんだよ。


 こいつは真面目にレンガで家を建てようとしている。


 そこを認めてやれ。


「う、うっす」


 アットホームな家を建てるぞ!


「うっす!」




 二か月後。


 三男エドワードの表札のかかったレンガ造りの家が建った。


 そして、レンガで家を建てる仕事を始めた三男エドワード。


 そこの従業員として、なぜか俺と俺の部下たちが働いているが……


 給料の払いがいいので、誰も文句を言わなかった。




思いついたネタをどうしても発表したかった。