Intro ならず者達の挽歌
これよりMISSION02です。
今回ダーティ・スーは容赦なく虐殺していきますが、ゲーム内なので実際の殺害ではありません。
『Sound of FAITH』……サウンド・オブ・フェイス。
それは、ニューロフリート社が運営する、国内最大級のプレイヤー数を誇るオンラインゲームだ。
VRシステムを最大限に活用したリアルなマッピング、豊富な職業、そして社員主導によるツアー形式のクエストが特色である。
ユーザー密着型サービスが好評を博し、十年以上もの間、ユーザー数は不動の一位である。
しかし、そんなSoFの電子の箱庭に、異物が舞い降りた。
初心者向けのフィールド“古戦場の小さな砦跡”にて。
「こっちは順調だ。そっちはどうだよ? アンドレイ」
ユーザー名“地下通路のアンドレイ”は、ギルドメンバーの“ベリー・ザ・キッド”の声に振り向く。
「やっぱり初心者はすぐくたばってくれるから、楽でいいぜ。とりま、15はカタい」
「ひゅー! やるじゃん。こっちはまだ10行くか行かねぇかって所なのによ」
彼ら“ジェントル・ジェイルマン”は、PK(プレイヤーキル。その名の通り、他のプレイヤーキャラの殺害を指す)を専門としたギルドである。
基本的にSoFの運営グループはPKを推奨してはいないが、禁止もしなかった。
PKにはPKを。
彼らジェントル・ジェイルマンのような存在があれば、逆にそういった者達を専門に相手取る自警団も存在する。
というのも殺害されたプレイヤーは、その加害者のプレイヤー名を記録、告発する事ができるのだ。
これが各所でお触書として、キャラクターの顔と一緒に掲示される。
PKには相応のリスクがあるという事だ。
しかも一度でもPKをした者は、この告発システムを利用できない。
……それこそが彼らの悲劇でもあった。
「さて、そろそろずらかるとし――」
言い掛けたベリー・ザ・キッドの額に、銃声と共に風穴が開く。
キッドはそのまま光の粒子になって消えた。
「ちょ! 待ッ、街道警察の仕業――」
地下通路のアンドレイもまた、キッドと同じ末路をたどる。
他のギルドメンバーが一斉に、銃声の方角へと振り向いた。
距離にして十数メートル程度。
そこには、黄色いコートを羽織ったプレイヤーらしき男がリボルバー拳銃を構えていた。
誰もが色めき立ち、武器を構えて立ち向かう。
「見ろよ! ステータス的にはレベル5くらいしか無い!」
ズタ袋を被った男が叫ぶ。
彼らの視界にはステータス表示があった。
レベル5といえば、初心者に毛が生えた程度だ。
平均してレベル30の彼らからすれば、赤子同然である。
名前が非公開になっているのは気掛かりだが、倒してしまえば手柄には変わりない。
「やれる、やれるぞ!」
バケツのようなヘルムを被った男も、それに追従した。
だが、黄衣の男は口元を歪める。
「――ゲームの常識にとらわれ過ぎたな、坊や達」
惨劇の被害者たちは目を見開く。
勝てると確信していた筈のステータスをもう一度見れば、そこには信じられない数値が並んでいた。
「なんだよ、これ……」
「お前さん達からはどう見えているか、俺にはわからない。
ただ、たっぷり楽しんでくれていることくらいは、俺にもわかる」
断末魔の叫びが、街道にこだまする。
不敵に笑う黄衣の男は、銃を片手に次の獲物を探しまわった。
彼は悪党を憎む復讐者ではない。
彼は正義を貫く守護者ではない。
彼は蹂躙者。
故に、獲物の善悪を区別しなかった。
目の前にいれば、すぐに殺す。
仮想現実の命は軽い。
何度でもよみがえる事ができてしまうからこそ、その引き金は枯れ葉のように軽かった。
逃げ惑う冒険者達。
だが、武器を奪われ、身体を貫かれ、首を切り落とされ、次々と霧散していった。
彼にとって、知ったことではないのだ。
どうせ惨劇の被害者たちは、数分後には知らぬ顔で冒険ごっこを続ける。
彼はそれを知っていた。
知らされていた。
黄衣のガンマンが現れてから、ものの数分。
ここには、誰もいなくなった。