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Task5 侵入者を迎撃しろ


 ……それにしてもアジトに侵入者、ねえ。

 イルリヒトのボスも、見る目が無い。

 秘密結社なんてやくざ(・・・)な商売をしていりゃ、そういう女(・・・・・)も出て来るだろうに。


「ロナ、侵入者はどの辺を通ってくると思う?」


 薄暗い蛍光灯に照らされた通路を二人で歩く。

 ロナはさっきの格好のままに、ショットガンを持っている。

 こいつもステイン教授の特別製で、プラズマショットシェルを装填してある。


「目的によりけりですけど……スパイ・アクションの定石に従うなら、通気口か地下でしょうかね。ん~、どうします?

 手分けするにしたって、あたしが先に遭遇したら、スーさんにご足労いただく形になりますよね」


「スパイと戦うのも楽しいぜ」


「どうせなら、MI6の奴が良かったなあ……これじゃ、まるでアメコミですよ」


「大衆へのエサにゃ丁度いい。頃合いを見計らってマスコミに売ろうぜ。俺は右に行く」


「連絡通路ですね。じゃあ、あたしは音を探りながら左に。地下の格納庫が怪しい」


「オーケーだ。この世界じゃ念話は使えないから、通信機を壊すなよ」


「解ってますって」


 俺の女がそこらの女とは出来が違うって事を教えてみるのも一興だ。

 頭空っぽの腰振り女とは、断じて違う。



 それじゃあ、ステイン教授の素敵な発明品が一つ“サーマルセンサーグラス”でも使ってみるかね。

 見た目はただのサングラスだが、右側のフレームをねじるとスイッチが入り、壁越しでも見えるのさ。

 サーモグラフィーで表示された、あらゆる物が。

 しかも調節すれば透過率も上げられる優れものだ!


 素晴らしいね!

 これなら海水浴の最中にサメが出て来ても、すぐに撃退できそうだぜ!

 試作品らしいが、折角だから頂戴するとしよう。


 壁の中、異常なし!

 ドア、異常なし!


 整備用ダクトは?

 小さいのが……こりゃネズミかな。

 二匹しかいない上に、妙な動きをしている。


「ごきげんよう、俺だ」


 ダクトの蓋をぺがして見てみると、つがいのネズミが“お楽しみ”の最中だった。


「おっと失礼。てっきりスパイ活動中かと」


 次に子作りする時ゃ、もっといい場所を選びな。

 どっかにカメラがある可能性も考えて近距離モードに変えてみるが、特に異常はない。

 ヒヤヒヤさせやがって。


「さて、と……」


 ここで通信機がピーピーと音を立てる。

 箱型にアンテナを付けたアナログなデザインだが、コスト削減のあおりでこうなったという話だ。


「出会っちまったかい」


『スーさんッ!! 早く! はやーくッ!! あいつ怖い!』


「殺されるのかい」


『あたしだけ残して全滅ですよッ!! 女子供は撃たないとか言って、表情一つ変えずにッ!!』


 こりゃあ驚いた。

 やり手のスパイは、やることが違うね。


「場所――」


『――7番格納庫!』


 真反対かよ、まどろっこしいな。

 仕方ない、行くか……。

 スパイ野郎が何を考えてロナに手を出そうとしているのかは知らん。

 だが、相手になるのはこの俺だって事を、解らせてやるべきなのさ。




 7番格納庫の様子を、サーマルセンサーグラスでチェック。

 格納庫と銘打っているだけあって、旧式ながらも戦闘機が置いてある。

 何より目を引くのは、戦闘機に囲まれるようにしてある輸送機だ。

 後ろのハッチからは、そこいらの戦車くらいなら余裕で出し入れできる。

 弾除けには……無理だな、下ががら空きだ。


 ……やれこの機種がこういう型番で性能が云々なんて寸評を加えている暇は無い。

 何せ、どれもリモコン爆弾らしき物体がくっついているからだ。

 ボタン一つで「ドカンッ!!」って寸法さ。

 それに、ロナがまだ戦っている。

 死体がまばらに横たわる、この格納庫で。



 さて、肝心のロナは……すぐ見付けられた。

 格納庫の搬出ゲート近くで追い詰められている。

 侵入者は休暇をくれてやった筈のロイドだった。

 火傷させた右手には、銃が握られている。


 それにしてもロイドの野郎は妙に体温が低いな、運動した割には。

 断熱材でも着込んでいるのか?

 その割には、顔も文字通り涼しい(・・・・・・・)


「ごきげんよう、俺だ」


「……また君か」


 少しは嬉しそうなツラをしろよ、スパイ野郎。

 本当にポーカーフェイスのよく似合う奴だな、お前さんはよ。


「せっかく休暇に戻してやった俺の気遣いを無碍にしやがって」


「……ああ、腕のいい医者を紹介してもらった。美人の看護師もいたよ」


 そりゃ良かった。

 道理で手の治りが早いわけだ。

 是非とも、俺にも紹介してほしいね。

 その話がマジなら、もしかしたら地球外生命体との遭遇を味わえるに違いない。


「で? 敵組織の女をたぶらかして、入院中に看護師と楽しんで、その次は?

 周りの野郎をぶっ殺してロナをナンパかい? そいつは俺の女だぜ、スパイ野郎!」


 たぶらかされた女と美人の看護師は、実は同一人物だったりしてな!

 そういう展開でも、俺は別に驚かない。


「ローティーンの少女を自分の女だと? 気は確かか?」


「お前さんも同じ事を言うのかよ。やだねえ、価値観の多様性を認めねぇ野郎は」


 日本も日本で、ティーンエイジャーや背の低い女のほうがウケる。

 そのほうが男に、守ってあげたい気持ちが出て来るからね。

 だから(・・・)ロナもその姿なのさ。

 そして、そんなロナはすさまじい形相でスパイ野郎を睨む。


「狂ってるのはあんたの目ン玉だ! このド腐れチンコ野郎ッ!!」


「こりゃあ完全におかんむりだ。やだねえ、場所をわきまえないヒステリーってのは」


 男だろうが女だろうが、ヒスを起こす場面は見れたもんじゃない。

 胸に手を当てて深呼吸しようぜ、ロナ。


「クソが! しゃぶれよ! 白くてアツい奴ドッパドッパ、クチん中に注ぎ込んでやるよォ!!」


 めくらめっぽうにショットガンをぶっ放すんじゃなくてね。

 天井のコンクリートが剥がれて大変な事になっちまってるぜ。

 万一輸送機に風穴一つでも開けてみろ。

 俺達の財布にも風穴が開くことになる。


「君はもう少し貞淑さというものを学んだほうがいい。ヒット・ガールの真似は止せ」


「ああッ!?」


 怒り心頭のロナがショットガンから青白い光線を放つ。

 同時に、ロイドはゴキブリもかくやといった身のこなしで、さっと消えた。

 まったく、天下のエージェントともあろうお前さんが、人の裏側を見抜けないとはね。

 それとも、挑発するつもりだったのかね。


「どいつもこいつも、あたしをちんちくりん呼ばわりしやがって! 誰だって可愛くありたいだろ!」


 オゾン臭のする煙を銃口から漂わせるショットガン。

 ロナはそれを片手に、鼻息荒くロイドを探して回る。

 ターゲットのロイドはちょこまかと逃げまわり、時折戦闘機に身を隠す。


 俺はといえば、銃をくるくる回しながら周囲を警戒している。

 この特別製のサングラスならどこにいても丸わかりだ。


「当てが外れた気分はどうだい、ロイド君! このままじゃみんな仲良く日曜日の食卓に並ぶ事になるぜ!」


「ローストビーフとでも言いたいのか! ここは英国じゃないぞ!」


「誇っていいぜ、牛の数はアメリカが圧勝だ! 何せ国がデカい!」


「そりゃどうも!」


 奴は、無警戒って訳でもない。

 格納庫は声が反響していて、よほど耳が良くなけりゃ位置を特定できない。

 サーマルセンサーのお陰で、俺には丸わかりだがね。


 ズドン!

 機体の間を縫って、プラズマ弾頭をブチ込む。

 派手な火柱を上げて戦闘機が上にブッ飛んだ。


「くう、うおお……!」


 呻き声は聞こえてくるが、結果はどうだい。

 ようやく落ち着き始めたロナを手で制しながら、俺は着弾点にゆっくりと歩いて行く。




 ネズミの交尾はセーフですよね?

 多分、大丈夫ですよね……?

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