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Task5 知恵を駆使し、大軍勢に立ち向かえ


 六発だ。

 これでケリを付けてやった。

 相手方は、さっきの重装鎧を含めてちょうど六人。


 この辺はもうルーチンワークみたいなもんだから、敢えて説明しなくてもいいだろう。

 俺がここに立っている(・・・・・・・・・・)

 それで全て説明できる(・・・・・・・)


 ……にわかに、辺りが騒がしくなってきやがった。


『来ましたね。Big Springです』


 見れば、青と白の装いで統一した連中がわんさかやってきている。

 ようやくメインディッシュのお出ましか!


『好都合ですよ。奴ら、実況中みたいです』


 よく見ると、名前の隣に赤い丸が付いている奴がいる。

 その視覚効果から察するに、あいつの視点が動画で中継されるんだろう。


 よく出来たサービスだ。

 規約には、キャラ名が動画に出ても言いっこ無しと書かれているに違いない。


 そりゃあいい。

 報道の自由が保証されている、極めて健全な体制じゃないか。

 虐殺ショーを見せつけるには、うってつけというワケだ。


「いたぞ! 黄衣のガンマンだ!」


「さっきの借りを返してやる!」


 嬉しい誤算だが、何と有象無象の雑魚も便乗してきやがった。

 どこからやってきたんだ、こいつら。

 リベンジ希望者ってか?

 道理で見覚えのあるメンツばかりなわけだぜ。


「いやいや。俺達“Big Spring”の獲物だ!」


「ふざけんな! 分配しろ!」


 紛れ込んだ雑兵共と、メインディッシュが喧嘩してやがる。

 ママに教わらなかったか?

 おやつはみんなで分けて食えってさ。

 気の短いやつは、寿命も短いぜ。


 ほら言わんこっちゃない。

 トップバッターになりたがった間抜けな早漏が、魔法を撃とうとした瞬間に後ろから斬り伏せられていた。


「この野郎! ファック!」


 消えていく犠牲者に、Big Springのメンバーの一人が中指を立てる。


「へっ、バーカ! オナニーして寝てろ!」


 ひゅー、ブラボー!

 なんてこと抜かしやがるんだ!

 子供が親にそれらの単語について尋ねてみろ!

 お茶の間が凍っちまうぜ!


「いい事を教えてやろう。俺はサシでしか勝負をしない」


 と一言添えてやるだけで、後はもう自動的に阿鼻叫喚の地獄絵図(エヴィバディパーリィ)だ。

 煙の壁を展開して、俺は高みの見物を決め込む。


『馬鹿げているよな』


『はぁ、クソが……ここまで堕ちたか……最悪』


 どうやら随分と立て込んだ事情らしいな。

 可哀想に、相談する相手を間違えちまって。

 残念ながら俺は、白馬の王子様にはなれない。

 ましてや魔法でカボチャを馬車に変える事なんざ、出来やしないのさ。


 意地悪な継母に、灼けた鉄の靴をこしらえてやるくらいは……まあ、不可能じゃあねぇな。


「運営の示したルールなど、抜け道はいくらでもあるだろ! やってやる!」


 どこかから紛れ込んだ革鎧野郎が、武器を片手に突撃してくる。

 ……駄目じゃないか。

 俺の為に争ってくれなきゃ。

 愚直にもまっすぐやってきてくれるのは、実に清々しいとは思うがね。


「不正解だ」


 俺は勇猛果敢な突撃の革鎧野郎の足を引っ掛け、もつれさせる。

 あとは背中からナイフを突き立ててやるだけだ。


「くそ! またかよ!」


 アディオス、“自暴帝チパッケヤ”殿。

 お前さんの蛮勇、三日は忘れないぜ。


「最後の一人になるまで、挑戦権が得られないのか……?」


「いや、システムを考えろ! 強敵属性を持つボスは、必ず何かしらフラグを解除すれば弱点が判明する!」


「さっきのセリフがヒントになっているって事か」


 ありもしないリドルの、ありもしない解答。

 それらしい(・・・・・)振る舞いを見せるだけで、奴らは勝手に迷宮をこさえていく。

 可愛らしくてあくびも出ないぜ。


 今この瞬間のゲームに、ダイスの導きなんざ存在しねぇのさ。

 青い鳥を匍匐前進で追い回す事に何の意味がある?


 雨が降るまで待てばいい。

 そうすりゃすぐに化けの皮も剥がれるだろう。


『まだ、掛かりそうですね』


『見物人が多いからな』


 よく見れば、挑戦権を競い合ってバトルしている連中と、それを見学している連中とで大きく二分されているのが解る。

 見物人の中には遠距離武器を構えて加勢しようとする奴や、俺を狙っている奴もいた。

 戦いを突き詰めるのは大変結構。

 そこに頭を使うのは、さぞかし楽しいだろうよ。


 もっとも、俺の依頼主様は複雑な心境のご様子だがね。

 いつの間にやら姿を見せて、物陰から陰鬱な顔を俺に向けてくる。


『おっと。俺はそっちを見ないほうがいいか。勘のいい奴がそっちに気を向ける』


『心配ご無用ですよ。どのみち、機を見て襲撃予定ですので』


『物騒だな。どうした? 血が騒いだか?』


『やめて下さいよ。ただ単に、昔馴染みの連中に、すっかり失望しちゃっただけです』


 井戸端会議を続けている間も、Big Springの連中が商売敵を葬っていく。

 そろそろ他の勢力が身を引こうとしているところで、丸鋸の刃が奴らの首を貫いていった。

 依頼主様――ロナの仕業だ。


 物理的、現実的に考えれば意味不明な原理が働いているとしか思えないだろうが、ここはゲームだ。

 首を貫いて、そして血は出ない。

 ただ、命中した奴らは悔しそうな顔で倒れていくだけだ。

 実にファンシーな世界観だよな。

 子供にも優しい。


「どうも。久しぶり」


 派手な装飾の施された鎧の男が、ロナの姿を見てうろたえる。


「ちひろ!? いや、そんな筈……!

 たちの悪いいたずらはやめてくれよ! 一体、誰がそのキャラを動かしてるんだ!」


 ロナは寂しげに笑うと、推定元カレ君の耳元で何かをささやく。

 内容は聞こえて来ないが、どうせ本人達しか知り得ない情報だろう。

 それくらいの事は、会話の流れで解る。


「どうして、それを……」


「本人だからに決まってるだろ、ばーか」


 丸鋸を両手から出現させた。


「本当なら、あの女と一緒にリアルで殺してやりたかった。

 けれど、あたしは意気地なしだから、そんな事はできなかった」


 今にも泣きそうなツラで、ロナは吐き捨てる。

 元カレくんも泣きそうだ。


「だからって――」


「――だからって? そうしたいくらい、世の中が憎かった!

 リアルが上手く行かないからせめてゲームくらいはって思った、あたしが馬鹿だった!」


 ロナは元カレと取っ組み合いになりながら、思いの丈をぶち撒ける。

 この再会は、実に穏やかじゃないな。


「あんな奴にそそのかされて、ギルドの方針をまるまる変えて!

 おい、そこの録画してる奴! 殺さないでやるから、そのまま撮れ!

 お前のレベルなら、デスペナは怖いだろ……」


 という恫喝に対し、カメラ君は。


「は、はひ……」


 と、すっかり虎の前の子犬だ。


「あたし達で立ち上げたギルドだった。上手く行っていると思ってた。

 毎日が楽しかった。新鮮な驚きに満ち溢れた冒険だった!

 でも、全部アイツがかっさらっていった……」


 ロナは元カレの分厚い鎧に、拳大の凹みを作るほどの強烈な蹴りを入れた。


「人が多い、人気のあるギルド、ただそれだけの理由で、あの女は乗っ取った。

 まったり人助けギルドの方針は、ガチバトル特化に取って代わった」


「あのぅ、人聞きの悪い話はやめてくれますぅ~?」


 猫なで声でやってきた奴の見た目は、ピンクのツインテールに、水色のワンピースドレス。

 そこに、白いフリルがこれでもかというくらいガッツリと付いている。

 教祖様らしく、実に神々しいじゃないか。


「出やがったな、泥棒猫!」


 ロナは教祖様を睨みつけ、ありったけの憎しみを込めて吠える。

 まさか本当に痴話喧嘩だったとは。




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