中二と活字
俺と睦月の共通の趣味は読書。シリアスから推理、恋愛にファンタジー時にはホラーなんて・・・何でもこいだ。幼稚園の頃なんて砂場のシャベルの代わりによく絵本を取り合った。自転車に乗れるようになると図書館にも通った。
そして今では俺の部屋の本棚は足りないくらい本がある。少し活字中毒かもしれないと自覚もある。
でも、睦月の場合は少し違う。確かにアイツも色々なジャンルの本を読むし、本棚は俺と同じでいっぱいだ。
でも違うんだ。どうして言い切れるか・・・。
今でこそ趣味が読書になったんだろうけど、最初のアイツはただ意地で本を読んでた。
そう、きっかけがあった。意地にでも本を読むきっかけが。
当初出会った頃のアイツは常に落ち着きがなくって動き回っていた。止まることが嫌いでもあった。おとなしいのは寝ているときだけだったな。
そんなアイツは幼稚園に上がる前、近所の中学生のお兄ちゃんが勉強で本を読んでいるところを見てから変わった。これがたぶんきっかけ。
幼稚園では俺が「赤ずきん」をアイツから取り上げて読んでいると、隣に来て(たぶん保健室の本棚にあった)医療本を読み出す。
小学校に上がって、俺が話題の小学生向けファンタジーを読んでいると、隣で2倍くらい厚い推理小説を読み出し。小三では学校に届いてから誰も読まない哲学の本にかじりついていた。つーか誰が借りるんだろう?アイツ以外。
唐突に言ったのが
「哲学って・・・学ぶことが多いよね」これは睦月小三の秋の発言。
「何がおもしろいんだ?」訊いた答えは返ってこなかった。
理解してないのはわかっていた。だって哲学の基礎がアイツの中でまだ入ってなかったから(俺が言うのも何だけど)
でもコイツはある意味天才なんだ。いや、やっぱ変人かな?
発覚は小三の冬。睦月の家に泊まりに行った時、並んで寝た深夜のこと。
トイレに行きたくなった俺は意識が戻ってきたときに声を聞いた。当時9歳。お化け・幽霊のいる、いないの判断の瀬戸際。まだ信じていた俺はマジでお化けかと思って怖くなった。
俺の隣でボーッと立つ黒い影。勇気を出して、部屋の電気を付けた。黒い影の正体は睦月だった。
「なんだよ~、睦月か・・・。どうした?トイレか?」ぶつぶつ何かつぶやいている。
「古代ギリシャ以降の現在に至るまで西洋の学問の・・・・。」
「っ!?」俺は叫びそうになった。ある意味お化けよりも怖かったから。
当時9歳の睦月は呂律の回らない口調の寝言で哲学をひとしきり言い終わるとまた横になって静かになった。まるでラジコン式のロボットを初めて見たときの気持ちになった。
若干引いたけど、これはこれでおもしろい。
きっとコイツにとって「難しい本真顔で読める人ってかっこいい」だけがきっかけだったのに。」
そしてそれから8年。無理矢理知識詰め込んだ甲斐もあってか、基礎も詰まった睦月は今では本当に頭のいいやつになってしまった。最近では寝言で本の内容復習もしないようだが、代わりにまた変な癖がついた。
「むーつき、ポテチ食う?」袋ごと渡してやると睦月はポテチを食いながらポテチ袋の後ろをじーっと見た。
何をしているか。睦月は後ろに書いてある栄養成分表や原材料名、またカロリーや製造者なんかを見ているんだ。
そう、今でこそ読めない、読まない本が手元にほとんどなくなってしまった睦月はッとにかく文字が並ぶものならなんでも読む危険度(5段階評価)5の要注意活字中毒になっていたのだ。
漫画、雑誌は背表紙広告やあらすじも読む、街中の指名手配犯のポスターや学校の廊下に貼ってある1年生の健康診断の知らせに自分に関係ない運動部の発表も暇さえあればなんでも読む。札に印刷してある「に」「ほ」「ん」の文字も見つけた睦月。
うん、やっぱコイツ天才だ。変人だ。
「・・・感じる・・・世界中の知識が俺という器に収縮するのを・・・。」ファンデーションの原材料に鉱物が含まれているっていう知識はいつ使うんだ?
うん、やっぱコイツ天才だ。変人だ。
そして努力もしちゃう中二病だ。