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中二と幼なじみ

「ばやし・・・大林光太!!」

「あ、はい!!」反射的に叫んで返事したのは俺が大声で呼ばれるまで机に突っ伏して寝ていたから。加減できなかったんだ。

「ったく・・・次の問4」

「あっ、はぃ・・・。」答えなんてわかるはずない。だって、何ページかさえ俺は知らないから。とりあえず、答えを考えているふりをして目を泳がせていると、フッと教科書でない紙が視界に入った。

小さなメモに書かれた「x3」睦月からの助け船だ。こんなこと初めてかもしれない。

答えを言って授業はちょうど終わった。ホームルームまでは自由だ。

「睦月、あんがとな」

「貴様はまだ生かしておく必要があったからな。」

「うん、マジ助かったよ。大魔王ムツーキ様」これにはさすがの睦月も不審に思って俺の顔をのぞき込んでる。

「光ちゃん・・・」睦月は俺に質問したい時「光ちゃん」と呼ぶ。

「ただの寝不足だよ。バイトの先輩がさ、シフト終わった後に説教すんの。まぁ、俺が悪いんだろうけど。」 

俺は最近バイトを始めた。駅前付近のコンビニだ。コンビニって意外と覚えることが多いし、実は結構お客さんで神経削られることもある。力仕事も時々ある。中でも俺の心をへし折るのが大学生の先輩バイトだ。ちょっとでもレジが遅いと、ちょっと物を使うと、ちょっとオーナーと話しをしているだけで小言が多いし言い方がなんか嫌だ。この前は金庫に一万円がなかったことを俺のせいにされた。(実はそれは先輩のミスだと発覚しても、先輩は謝りもしなかった。)

自分ではレジは前より早く打てるようになったと思うし、使った物だってちゃんと元あった場所に返している。それにオーナーと話すのだって仕事のことだ。でも、「もっと早くできないんですか」や「どこにハサミがあるかわからなくなるでしょう」なんて毎回言われれば傷つくし、そのせいで夜は寝付けない。正直今日のバイトのことを考えると頭が痛い。

「何か望む物があるのか?」

「まぁな。」言えない。こんなこと絶対ヤツに言えない。

「山中さんと川村さんに遊んでやっているか?」山中さんと川村さんは俺ん家のペットの猫と犬の名前だ。そういやぁ、最近全然かまってやってない。

なんて、ボケッとしてたらもうバイトに行かなきゃいけない時間だし。今日もあの先輩いるし、両替用の金は金庫に入ってないしで・・・。あぁ・・・イライラする。そんな時に限ってお客さんはめちゃくちゃ多い。ホットスナック類なんてあっという間になくなった。でも、今は作れない。接客中だし。まだ俺の方に五、六人並んでるし。つーか、あの人どこ行ったん・・・って、外でたばこ吸ってやがる!!

やっとお客さんも少なくなった頃に先輩は戻って来た。

「なんで、フランクとかできてないんですか?」開口一番でそれかよ!!つーか、つくれねーよ!!

「こんなこともこなせないんじゃあ、社会出たとき会社について行けませんよ。他のバイトの人は言わなくてもできてますし」言い訳なんてすんな、俺。とりあえず、「すんません」って言えばいいんだ。ただこの人は理不尽に小言言いたいだけなんだ。

でも、俺はなぜか言えなかった。プライドかなんかが引っかかって、ただ俯いて先輩の説教に付き合った。

「コンビニのバイトすら合わないんじゃあ、どこに行ったってすぐ投げ出すんじゃないんですか?」あぁ・・・すっげーむかつく通り越してなんかもう、泣きてー・・・。

「そうだ、貴様はここには合っていない。なぜなら、貴様の力を発揮させるにはここは狭すぎる。」同時に声のした方を向く。そこにはなぜかバカでかいサングラスをした睦月が立っていたんだ。

「むつ・・・っ」

「行け!我が僕よ!我が力を示してやるがいい!!」僕達、もといペット用の覆面をさせられた中山さんと川村さんが先輩に向かって襲いかかった。

「光太、俺の背を追え!」

「・・・!」俺は睦月に続いた。中山さんも川村さんも。

「俺、今日でバイトやめます!」そう叫んで俺のバイトは終わった。


帰り道。俺は中山さんを抱いて、睦月は川村さんのリードを持って歩いた。

「それで、光太お前の望むものは手に入ったのか?」うっ・・・。あと数日待てねぇーのかな?コイツは

俺は睦月がバイトの事務所からとってきた俺の鞄から“それ”をとってヤツに渡した。

「なんだ?」

「誕生日プレゼントだ。お前が欲しいって言ってたやつ。」

ラッピングをとったヤツの顔は笑顔だった。なんたって「ライオンの口からお湯が出る」の簡単取り付けバージョンだ。かなり高かった。だからバイトしてたんだ。

「光太・・・。」

「ほら、友達だからな!うれしいだろ?」

「俺に友などいない」え~・・・何こいつ・・・?この状況でも中二かよ。

「んだよ。俺は友達じゃねーのかよ」

「あぁ、当たり前だ。だって、光太お前は」風が吹いた。

「俺の親友じゃないか」あぁ、こんなににもコイツの中二病が、コイツの言葉がうれしいと思ったのは初めてだ。

そうだ。さっきだって。コイツの「中二病」がなかったら、ずっと俺は理不尽な嫌みを言われていたんだ。

助けてもらうのは数学のあの時が初めてじゃない。俺が思っている以上に、俺はコイツの中二病に助けてもらっているんだ。


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