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中二と喧嘩歴・2・

なんだかんだで続いてしまうこの話。思い出が多いからだ。15年間の何百回の喧嘩。

そうそう、あれは確か中三の夏。


希望校に送る成績にもろ関わるテスト前日のことだった。

7月半ば。クーラーの効いた部屋で俺は明日やる教科の復習を頭にたたき込んでいた。なんたって難問の理科に数学だ。

連立方程式とか、深成岩とかっていつ使うっていうんだよ!!

乱暴に書き覚えをしていると「ガタッ」という音が耳に入った。シャーペンの芯を折って俺は顔を上げる。音は一階からした。でも、おかしい。今この家には俺以外誰もいない。もし両親なら息子に声をかけるはずだ。

神経もかなり高ぶっていたから邪魔されたことをほっておけない。それにもしかしたら泥棒の可能性もある。

俺は部屋にある喧嘩用だった金属バットを左手に握って一階に下りた。

男の野太い声が聞こえる。何を言っているのかわからないけど。それに何かが壊れる音も。どっちかっていうと鈍い音で何かを切っているのに近い。

とにかくそれらはリビングから聞こえてくる。少しドアが開いていて、そこから冷気が漏れている。

んっ、冷気?つーか冷静に考えたらこの音聞き覚えが・・・。

俺は少し開いているドアを全開にした。そこで見たのは。

「お前かー!!」

「オレだー!!」

睦月は俺の部屋よりガンガンにクーラーを効かせたリビングで、勝手に俺のアイスとポテチ喰って、勝手に俺の戦国バトルゲームをやっている。たまにあるけど(いや、あっちゃいけないんだけど)今日に限って・・・。睦月君、明日からテスト期間だよ?

「『オレだー!!』じゃねーよ。何人んちで好き勝手やってんだ」

バットで睦月の背中をえぐるようにぐりぐり押す。

「あっ・・・光、たぁ・・・そこ、いいっ・・・!!」

「キモイ!!変な声出すな。で?なにしてんのお前?」

「遊ぼうぜぃ!?」

「普通順番逆じゃねぇ?てかね、睦月君や。お前も明日テスト受けるのよ?」

と言っても睦月は寝ていててもテストで良い点取っちゃう奴。

「だからせめてもと言うことで歴史を体と心で振り返って」

「明日は数学と理科と国語。」

もう一度言うけど、コイツは寝ていててもテストで高得点取っちゃう奴。

筆記での苦手科目がないんだ。嫌になっちゃうよな~・・・。

「いいから帰れよ。お前は大丈夫だけど俺は勉強しねーと」

マジだから。マジの話だから。

「え~、遊ぼうぜ~。対戦しよ~ぜ~。必殺技喰らって欲しいぜ~。」

「うっせぇ!俺負ける前提かよ!ったく」

「おやおや~。光太はオレに負けるのが怖いのかね?絶望を感じるのがそれほど苦になるかね?」

「あ”~?」

俺はすでに本体に繋がっている二つ目のコントロールを取って、睦月の隣にドカッと座った。睦月はもうすでに対戦モードで自分の使うキャラを選んでいる。

「オレ伊達正宗。レッツパーリーな」

「俺は・・・片倉にすっか。下剋上してやる」

「裏切り・・・ハッ、おもしれえじゃねーか!」

そんなこんなでゲームスタート。約十分くらいで俺が勝った。

「じゃ、帰れ。」

「三回勝負!じゃなきゃ帰ってあげないんだから」

「・・・しばくぞ。しゃーねーな・・・。」

女声の睦月に流されて二回戦。も、勝った。で、三回線目突入。っても俺の方が有利。睦月のヒットポイントはあと二、三撃で勝てる。必殺技なら一撃KO。

「なっ!」

その時、睦月は横から俺のコントロールを掴み、むちゃくちゃにボタンを押し出した。

「バカ、やめろっ!?」

「今だ!やれー!!」

俺はコントロールを避難させている間、睦月はコントロールを持ち直して俺のキャラに猛攻撃しだした。俺はコントロールを睦月の脇腹に殴りつけた。

「ぐはっ・・・・!?」

睦月が倒れると同時に“伊達政宗”は討死した。

「光ちゃん・・・痛い・・・。」

「うっせ。ズルする奴が悪い。」」

結局睦月がなんども「三回勝負」「五回勝負」・・・「五十九回勝負」とやっていたら俺は夕方までゲームに夢中になっていた。

「光太~、そろそろご飯にするからお皿出すの手伝って~」

俺は我に返った。時計はもう7時になる。約5時間睦月と対戦していたことになる。

「フッ・・・天下への道、切り開けぶびっ!!」

俺は睦月の脳天をコントロールで殴った。はめられた・・・。コイツの策略に5時間のロス・・・。

「睦月ちゃんも夕飯食べてくでしょ?今日はカレーよ」

「カレー!!」

結局、「かれー」の呪文で復活した睦月と一緒にカレー喰って、満腹の睦月は俺の部屋で寝こけてそのまま。俺はがんばって理科、数学をもう一度頭にたたき込んだけど、いつの間にか朝になっていた・・・。

俺は起きてすぐ睦月を殴り起こした。

大林光太・数学72点

理科71点

うん・・・悪くない・・・かな?

睦月は両方満点だけど。



話が長すぎて作者ですらもう何やっているかわからなくなっていたが、今俺達はケーキを買いに来ている。俺の父さんがたまにはと言うことで代金を出してくれたんだ。ちなみに睦月も今だまだおやつを一緒に食べるのにツッコまないでください。

「・・・いい加減決めろよ」

睦月はケーキの並ぶショーウィンドウの前でかれこれ30分、モンブランかイチゴタルトかで並んでいた。ショートケーキはトラウマになったらしい。

「・・・決めることなんて・・・出来ない・・・。嫌だ・・・オレの意見で左右するこの世界・・・なんでこんなことに・・・。」

「じゃあお前おやつなしな」

「・・・どっちか決めるなんて馬鹿げてるぜ・・・。二個買う-!!」

「あんまりわがままぶっこいてると置いてくぞ」

いやだいやだと駄々をこねる睦月を無視して、店員さんに注文をし始める。

この15年間での睦月の扱いは、ただ殴るから促して放置へと変わったんだ。

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