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中二と龍

色々なものを今日一日でたくさん見てきた。自称河童に変な空飛ぶ骸骨。しゃべる生意気子狐に失礼な神主、落ち武者やチャラい天狗二人と出世が見えないサラリーマン風の巨人。

ただ、墓参りに行くだけでなんでこんなにもなったのかわけがわからないし、それを妖怪・心霊なんてジャンルで認めたくない。現代の科学技術なめんなよ。

山の頂上にある墓地はたくさんの古い墓がある。墓地だからあたりまえだけど。なんでこんな山の上にあるのかってたまに疑問に思う。

門をくぐる。墓地はこの夏特有の蛍の光が飛んでいる。少し青白いけど、足元を照らすには調度良い。それにしても蛍多すぎないか?

「光太、あそこに女の人が立っている」

「はぁ?こんな時間に?」

俺は睦月の指さす方を見たけどそこには誰もいない。ただの墓だ。

「お前、この期に及んで俺を脅かそうとしてんの?マジピーマン行くぞ?」

「してないし、ピーマンはやだ」

「それより睦月、俺に体重預けんなよ。じっとり汗かいてて気持ち悪いぞ」

「光ちゃん・・・誰おんぶしてんの?」

「だーかーらー!今度そうゆうこと言ったら、ピーマン&人参だからな」

「っ!!光ちゃん・・・・。あたし光ちゃんの為に言ってるのに・・・。何でそう反抗的なの・・・?」

「キモい。鼻にタマネギの汁入れたろうか?ほら、早く行くぞ」

「っ、今度はオレを呼んでいる。オレを呼ぶ声がする」

「誰も呼ばねーよ。ほら、行くぞってば」

俺は墓地に来たら毎回肩やら背中やらが重くなるけど、きっと墓地の地盤のせいだってわかっていた。


墓地の裏は谷みたいになっている。ここでよく自殺者が出たりとか~・・・出なかったりとか~・・・。

谷の下は真っ暗で底なんて見えるわけない。もっとのぞき込もうと前にかがんでみるとぐっと体が下に重くなった。

「うっ・・・んだよこれっ・・・!」

俺はぐっと体を振り切るように回した。谷から少し離れたら体はいつもどうり(肩の重さはかわらないけど)駆け寄った睦月の心配そうな顔を見た。視線は俺の首を見ている。

「人がそうやすやす近づいてはならん。連れてかれるぞ」

どっかで聞いたようなセリフ・・・。

「それで、どうすればいいんだ?」

もう早く帰りたい。ここなんか嫌な感じがするんだよ・・・。

「まずはこの中に石を入れるのだ」

俺達は帰りたい一心もあったので素直にそれに従った。睦月の手から投げられた石はヒューッと音を立てて落ちていく。音がずっと反響して底についた「ことっ」って鳴るのが聞こえない。しばらくするとヒューッと落ちていく音すら聞こえなくなった。

「終わったな、オレ達の旅・・・。いや、旅は終わらない。オレ達がオレ達である限り!」

「るっせぇ!何一人二役やってんだよ。で、このあとは何やれば」

螭はたったいま石を落とした谷に落ちている。

「お、おいっ!螭!?」

「案ずるな。これでよい。これで真の姿に戻るのだ。」

螭はどんどん落ちていく。俺はただ唖然と落ちていく螭を見ていた。

「いなくなった・・・いなくなった・・・」

「こ、光太!?」

手が俺の顔に伸びてきて、ガッと掴まれた。俺は視界が許すだけ目を後ろに掴んできた正体を見る。そこにはギョロッとした淀んだ目がしわくちゃの肌色に埋まって俺を舐めるように見ている。俺が驚いて目を見開くとその目が意地悪く嬉しそうに細くなった。

「いなくなった・・・いなくなった・・・忌々しい蛇・・・いなくなった・・・。」

ブツブツ耳元で聞こえる老婆の声。気づいたらそれは俺達の回りからも聞こえてくる。

「なっ・・・!離せって!?」

振り払おうと俺は体を揺するが全然体から離れた様子はない。

「悪しき魂よ、元いた場所へ帰れ!?」

睦月がおしゃれで付けていたクロスのペンダントを振りかざして叫んでいる。でも、効果はないみたいだ。睦月の回りにはぼんやりした二、三人の人影が見えて睦月にしがみついている。

「クッ・・・・!!呼び覚ませ!灼炎鬼神(ひゃくえんきじん)金色刀雷壊意(ゴールデンソードボルトクラッシュ)!!」

まだそのバナナ持ってたんかい!?

当然へこんだバナナも効果ない。

それに睦月の向こう側、墓地への出入り口には何か半透明にぼやけたものがたくさんいる。

「おいで・・・おいで・・・こっちにおいで・・・。」

「何なんだよ!おいっ!?」

「光太、やばいぞ!」

睦月の言うとおりだ。ぼやけた影は俺達二人を谷の方へ押しやり始めた。体長177cmと185cmの高校生の俺達はなんとか抵抗しようと暴れたが、それはほんの少し谷の入り口に着くのを遅らせるだけだ。もう左足が谷の空間を踏みそうだ。完全に入ったらバランスなんて関係ないだろう。落ちちまう。

「光太!?」

「睦月!?」

俺より体力のない睦月は影達に足をとられた。そして

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「睦月ぃぃぃぃ!!」

睦月の伸ばす手を俺は掴めなかった。睦月は落ちていく。

「睦月・・・?」

俺は仰向けに重いものが乗るのを感じた。首が冷たい物で締め付けられるのも。

「お前もおいで・・・・おいで・・・おいで・・・!?」

「その者を離せ、亡者共」

「行け!滅びの」

「睦月!?」

辺り一帯が白い光に包まれた。谷から白い龍と睦月が現れたんだ。首の軌道が少し戻る。

「光ちゃん、最後まで言わせてよ~」

「睦月・・・バカやロー・・・・」

「螭・・・螭・・・怖い・・・怖い、螭・・・」

俺の上から重みと、首からは冷たい物が消えた。起き上がるとぼやけたたくさんのものが一目散に逃げようとモゾモゾしている。

「消えろ」

光が一層強くなる。目を開けられなくなった。

「お前達には感謝している。家に帰そう・・・。」

俺はまぶしさに意識を失った。




目を開ける。天井が見えた。それに俺はタオルケットの中で寝返りを打ったところだ。

ハッと意識が戻って、周りを見渡す。畳の部屋、ばーちゃんの家だ。

外は薄明かりでもうすぐ夜明けだろう。

隣には睦月がぐっすり寝ている。

・・・・夢・・・だよな・・・・?

そうだ、夢に決まってる。あんなの絶対夢だ。あり得ない。体が痛いのも寝違えたせいだ。

俺はまたタオルケットにくるまった。

眠りについたら“夢”の内容はもううっすらと忘れた。

俺の中では5分しかたっていないのに、目覚ましは7時で鳴り出す。

「おはよう・・・・。」

「光太、あんた達あんな夜遅くまでお墓いちゃだめでしょう。お母さん達心配でもうすこしで捜索願出しそうだったんだから。」

「んっ~・・・。」

寝ぼけた俺の耳にはあんま入ってこない。洗面所で顔を洗ってすっきりした時、俺は凝視することになった。

「でもあんた達ふらふら帰ってきて、晩ご飯もいらないってすぐ寝ちゃったのよ?どうせ遊びながら行ったんでしょ?」

墓?うん、行った。行ったのは覚えてる・・・。でも、どうやって帰ってきたっけ・・・?

いや、それより・・・。

俺の首には何本も赤紫に太い線みたいな物が浮き上がっている。なんか人間の指みたいだ。

それに服はよく見たら昨日の服であちこち泥だらけだし、破れている。脱ぐと右胸にはアザがある。

「我、目覚めしとき・・・。」

「あら、睦月君おはよう」

「睦月」

「んっ?」

睦月も昨日の服でこっちも俺と同じ状況だ。睦月があくびと伸びをした時、ポケットから石が落ちた。

「あれっ・・・なんでオレこんなの拾ったんだろ?」

睦月がただの灰色の石を拾って、首をかしげた。

「今年もダメだね。キュウリ以外が盗まれてるよ」

バーちゃんが廊下を歩いてそう言った。

キュウリが嫌いな・・・・?いやいや、あれは夢だ。

混乱しながら朝風呂に入って、居間に行くとテレビでニュースがやっている。なんでも殺人容疑の男が昨日原因不明で死んだとか。スカイツリーの足元が原因不明の故障があったとか。

関係ない・・・関係ない・・・。夢だ、夢。

「そういえば、お母さん今年は縁日いつだっけ?」

「何言ってんだい、今年は喪中だよ。あそこの神主さんが亡くなってね。白狐神社はくこだろう?」

神主・・・?

「ねぇ、そこの付近で侍の刀が見つかったって本当?」

「うんだ、この前も偉い学者さんが調査だなんだやってたよ」

・・・侍・・・。ないないない!

俺は朝食も食べずに居間を出た。睦月も着いてくる。

「どう思う?」

「・・・オレの口からは何とも言えんな」

「夢だよな?」

睦月は俺の質問に答えず止まった。俺は睦月の視線の先を見た。先祖の仏壇のある部屋。

仏壇の上には二つの天狗の仮面と龍を描いた掛け軸が飾られていた。

「・・・俺達、本当に自分たちで帰ってきたんだよな?」

「フフフッ・・・光太、今日のやることは決まったぞ」

「なんだよ?」

「人類のミステリーロマンス“KAPPA”を探し出すぞ!?」

「・・・やだよ・・・。」

「昨日見つけられたんだから大丈夫だ!」

「だから、あれは夢だ!?」

その日は睦月に付き合わされてあの川へ行った。当然だけど河童なんて出るわけもなく、それでも大いに楽しんだ睦月だった。俺は昼寝してひどい日焼けをしただけで楽しくもないけど。




その夜、昼寝したにも関わらず俺はすぐに眠れた。

しばらく立った頃だと思う。何か俺の枕元に立っている気配がして俺は目が覚めた。けど、マジ眠さに薄めでぼんやりとだ。何か白いものが見えたけどやっぱり眠さで目を閉じる。

今度は腹に重さを感じた。苦しくて目を開けると、白い着物の人が俺に手を伸ばしてブツブツ呟いている。

「おいで・・・おいで・・・お前も、おいで・・・・」

「寝かせろよ・・・・。」

俺は呂律の回らない口で呟き返して、その着物の人に左フックをかました。寝ぼけていたから加減できなかったんだと思う。着物の人が壁に吹っ飛ばされて、床に倒れた。

「睦月だな・・・。てめ~・・・安眠妨害とか良い度胸だなぁ・・・。」

俺はもう一発“睦月”に右フックをかまして、タオルケットに入って寝直した。




「睦月、お前マジやめろよな」

布団を畳みながら俺は帰り支度をする睦月に言った。

「何を?」

「寝てるときに悪戯とかマジ質悪いって。」

「何を?」

「だから、昨日俺の上に乗ったろう?」

「光太、オレ昨日の夜は遊び疲れて、筋肉痛で動けなかったんだが・・・。」

「えっ・・・?マジ?」

「ワタシウソツカナイ」

「夢、だよな?たぶん」

そうだ、あれもこれも夢だ・・・。

大声で笑い飛ばしたとき、左腕が空中で何かにぶつかる感触があったが、俺は昨日の日焼けのせいだと思い込んで、バーちゃんの家を出た。

「光太、見ろ。あの女の子また来ているな」

「女の子?睦月、まだ寝ぼけてんだろ?」

故に俺は17年間「本当にあった怖い話」いわゆる心霊体験がない。そもそも、幽霊・妖怪のたぐいを信じていない。今後も、絶対に・・・!?

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