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中二と美白

「光太、共に進んでくれるのか?」

「行くって言うんだろ、睦月。お前一人だと心配でしゃーねーからな。仕方なくだ」

「光ちゃん、男前・・・。もう・・・ときめいちゃうじゃん」

体育祭の時の完全な女声。可愛い声過ぎて逆にむかつく。

「キモい、摘めるぞ」

「さーせん」

神社から墓地へのルートを歩いて10分。月明かりが出てるから歩きやすい。虫の声や蛙の声が遠くに聞こえるのがまさに田舎の夜って感じ。でも、やっぱり生ぬるい風がたまに吹くのが嫌だ。

「しっ、光太止まれ」

俺の前に腕を伸ばして静止する睦月。

「やだ。はやく帰りてーから」

俺は反対に回って俺は歩くのをやめない。

「止まれ、このあたりに何かを感じる」

「どこから来た、その根拠」

俺の腕引っ張ってまで何を言い出すやら・・・。

睦月は自分の頭、つむじ辺りを指さす。数本アホ毛が束になってふよふよ出ていた。

「おい、鬼太郎」

「はい、父さん」

「じゃねーよ!さっきの風でそうなっただけだろ。マジしばいたろうか?」

蹴りのポーズをしたら、睦月はバランスを崩して尻餅をつく。

「じょ、冗談だって。ほら」

「だって、光太が珍しくノってくれたからさ~・・・」

差し出した手を掴んで睦月は立ち上がった。その拍子に睦月のポケットからあの石が転がり落ちた。

「あ」

石は森の中にころころ転がって見えなくなった。

「持ってたのね・・・。てかアレないとやばいよな?」

頷く睦月を見て仕方なく森に入る。たぶん大丈夫。だってそんなに傾斜もないし石は森のすぐそこで止まるだろう。

案の定石はすぐ見つかったのは嬉しかった。なんかホームランを打ってボールを探すぐらいの感覚だ。

「手荒く扱いおって」

「睦月のせいだろ?」

「え、何?」

「だから、お前が転ぶから」

「なんの話?」

「さっきのお前だろ?まさかさっきのクソ狐の奴か?」

「凩達を知っておるか」

「知ってるも何もあんな失礼な神主どこさがし・・・」

足元が青白く光る。蛇だ。月明かりに反射して青白く見えるんだろう。

「またこのパターンかよ・・・」

「ほぅ・・・さすがに驚きもせんか」

「光太、オレの眠っていた力」

「黙っててね」

俺はしゃがんで蛇の目を見た。恐ろしいくらい青い。

「まだ白い」

あの無礼神主の言葉を言ってみた。二番目にあったのがこの蛇だから。

「信じぬと言い張るわりには、実行しておるな。しかし、使う相手を間違っておるぞ」

「ふーん・・・あんた毒持ってる?」

「そんなもの私にはいらぬ」

俺は蛇の顔と尾を両手でしっかり掴んで引っ張り上げた。蛇は顔をもごもごと動かして暴れるけどるけどそんなの関係ない。

「光太!動物虐待はよくない!」

「あれ?なかなか死なないな?」

「言ってること怖いよ、光ちゃん!マジ一回やめようよ!」


「なんて無礼な奴だ!こんな人間みたことがない!!」

「いや、あんたも石狙って俺達襲うかもしんないと思って。」

いや、俺も相当疲れてるよ。マジで。

「まったく、その心配はいらん。螭は私だ。」

沈黙。この蛇が?だとしたら俺・・・。

「マジで」とりあえず確認。

「そうだ。」

「あー・・・。すんませんでした」

頭がついていけず棒読みになる。

「謝罪も十分にできぬ低脳か。・・・しかし、こちらの若者は。私の気配に気づいたのか?」

睦月はぎこちなく頷く。そりゃそうだ。

「なぁ、訊いてもいいか?」

「口は悪いが石をここまで運んだ褒美として良いだろう」

螭は細く赤い舌をちょろちょろと出す。

「あざーす。じゃあ」

俺が訊こうとした瞬間、螭はすらすらと話出しだ。河童は何百年も民家からキュウリしか手に入らなくなったので好物じゃなくなった。狐の親子は人間が神社に来なくなったことに腹を立てて、落ち武者は誰かにかまって貰いたいだけだと。そして、螭は産まれ持った習慣で50年に一度のまつりごとにそれ以外は眠ること、それは仕方のない決まり事なんだと説明してくれた。

「知りたかったのはそうゆうところじゃろう?」

「あぁ~・・・いや、あんたを見つけたからもう俺達帰ってもいいかなって・・・。なんか、すんません・・・」

久々に完璧空気読めなかったよ、俺。どうした、俺。

「光太・・・行こうよ」

「う、うん・・・。じゃあ、俺達はこれで」

「殺伐としたエンディングだったな」

「そうだな」

「待て」

道に戻ろうとした俺達の足が石みたいに固まった。いや、体も。動けない。

「帰るでない。まだお前達に用がある」

「まさに蛇に睨まれた蛙、だな。」

「落ち着いてる場合かっ!?」

「お前達は私を山の頂上に連れて行け。」

「それこそ、なんで?」

もがこうとするけどやっぱり体は動かない。

クッキー生地なんかは焼く前こんな感じなのかな?ってそんな場合じゃねーか。

「私はまつりごとのために行かねばならない。その護衛とでも言おう」

「護衛付いたら自由をくれるのか?」

体が前のめりになった。そしたら見計らったみたいに男の笑い声が辺りに響いた。何人も笑ってるみたいだ。

「光太、俺の背中を任せた」

「俺の負担が多くねぇ?てか何ごと?」

「ここに参上つかまつる。カラス天狗1号」

「同じく2号」

俺達の前に現れたのは今度は本当にアニメ・漫画なんかでよく見る山伏の格好に黒い翼の鼻の高い色黒美形男子の自称天狗。って、アレって?色黒?

「え~・・・っと、ロンハーじゃないっすよね?」

「光太、コイツら中ボスだ。究極の技、行くぞ!?」

「何?ピーマン相手の鼻に詰める技だっけ?」

「光太、どうしてさっきからボケに回ってるんだ?」

「ツッコむの疲れたから。で、なんの用っすか?あんた等」

(自称)天狗に顔を向けると二人とも手鏡で顔をチェックしている。

「やっぱ最近白くなってるみたい。ねぇ~、やっぱ日サロ行った方がよくね?」

「俺いいわ。兄貴だけだし、白いの」

「あの~・・・何やってんすか?」

今まで結構変な奴は無視で相手に『無視するな』って言われてきた側だからこんなこと初めてだ。なんか今まで言ってきた奴らの気持ち今わかった。

「あっ、いや~。実は俺達色黒に命かけてんすよね~。うんで、螭の石使ったら良い感じに黒くなれるって聞いて~。」

とたぶん1号が言い。

「で、ぶっちゃげ俺と弟どっちが色黒いっすか?」

お前が兄貴かーい、普通2号が弟だろ!

「いや~・・・どっちもどっちっすよ。つか、これ以上焼いて何目指してるンスか?こげぱん?」

「って、ことで。その石奪っちゃっていいっすか?」

「切り替え早いな!女子か!」

「光太!今こそ修行の成果を見せし時」

「3人まとめてしばいたろうか!?・・・睦月、危ない!?」

天狗2号が背中に背負った錫杖で俺達に襲いかかってきた。睦月をかばって俺は右胸は錫杖の突きをもろにくらった。息ができなくなり、当然だけどむせる。

「あ”がっ・・・睦月・・・だいじょぶ・・・」

睦月をかばったはいいけど、睦月も俺が押さえ込んだせいで顔面地面にめり込んでいた。

「光ちゃん・・・見てぇ・・・。天使が見える」

「睦月!ヒュー・・・悪い・・・!つか、螭!石あんなら力取り戻して俺達助けろよ!!」

泥まみれの顔した睦月を抱き起こして螭に叫んだ。

「無理じゃ。石はまつりごとためにあるも同然。私は何も出来ぬ」

「意味わかんねー!」

「光太・・・僕、なんだかとっても眠いんだ」

「だから、悪かったって!ネロ少年やるなよ!?」

つか、俺の方だダメージでけーつーのに!

「あれっ・・・ちょ、眼鏡のおにーさん。よく見たらめちゃくちゃ色黒くないッスか?」

「わっ、マジぱねぇ」

ちょ、コイツら何言って・・・。そうか。

森の中は元々くらいから天狗の1号2号は最初(睦月が地面にめり込む前)の肌色を確認出来なかったんだ。泥まみれになった今の睦月の顔は天狗達よりリアルに色黒に見える。

「睦月、俺に合わせろよ。もう、胸打たれたくねーから。」

睦月の耳元で小声で伝えると、睦月も微かに頷いた。もう、こうなったら一か八かだ。

「だ、だよな~。睦月以上に色黒なんていねーもんな~。色黒い男子って、マジいかついわ~。それに比べて・・・。お前等、何?すっげー白くね?地下室で育ったアスパラ?」

「イエス、ウィーキャン」

「はぁ!?俺達のどこが色白いって!?」

「誰がアスパラよぅ!?」」

見え見えの嘘。つか、なんでオバマさん?

それでも、必死に思考を巡らせる。どうすればここを切り抜ける?

「あぁ、でも・・・お兄さんの方が睦月と良い勝負かも・・・。」

チラッと、2号の顔を見た。うわ、顔から喜びしみ出てる。

1号の弟は2号を睨んでいた。

「これで俺が色黒1号だな」

そうやって決めてたんかい。ややこしいいな!

「はぁ!?順位替えとかマジないわ~」

「あ、でも・・・弟さんもこう・・・味わいのある色黒」

自分で言っててわけわからん。なんだよ。味わいのある色黒って。

「ほらぁ~!やっぱ、今の時代ただ色黒いだけじゃダメなんだよ。質だよ、質」

「はぁ!?今俺なんか高ぶってきたからぜってぇ色黒いし。」

って俺に振るなよ。でも、あとちょっとか?

「いや・・・まだ、白い」

弟吹き出した。見逃さなかった兄貴はかんぱ入れずに錫杖を弟に振りかざす。完全兄弟喧嘩のムード。

「やってやんよ!?」

「うっせぇ!ぜってぇ俺の方が黒いわっ!?」

「キャンユーセレブレイ!!」

「バカっ!今の内に逃げるぞ!?」

俺は兄弟喧嘩の間に入ろうとする睦月の腕を引っ張り、螭を肩に乗せて全速力でその場を去った。走りっぱなしだろ!


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