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中二と切腹

ビュッと風が吹いて俺達は子供の頃縁日でよく来た神社に立っていた。でもそこは、さっきみたいに綺麗でもないし、鳥居も一つしかない。もちろん神主も、子狐もいない。

奥に壊れた胴体だけの石像がこちらを見ている。

「どうする?」

右手に螭の石を握ったままの睦月にとりあえず訊いてみた。

「どうもこうもない。オレ達は選ばれた。行くしかあるまい。」

「マジさっきの信じてんの?」

「あぁ、オレは最初から信じている。つまり世界の運命がオレ達の手の中にかかってんだな?」

「うん、まぁいいよ。俺もよくわかんないから、そんな解釈でいいよ。」

この神社は知っているからここからならバーちゃん家に帰れる。どっちかっていうと、神主が言ってた『本来の目的地』墓地の方が近いんだけど。

「光太、オレ達は選ばれし者だ。どうせ『はい・いいえ』の選択肢で『いいえ』を選ぼうと、結局やり遂げなきゃならないのが・・・選ばれ者だ」

「ほんと選択肢ねーな、選ばれし者。でもな、さっきの話がリアルなら俺達相当な目に遭うんじゃ・・・。」

その時ガサッと鳥居の外の茂みが動いた。ガサガサっと不自然に動いている。当たり前だけど二人でその茂み凝視。この流れは・・・なんか居る。

俺はまだ、いや絶対認めない。

「旅は始まったばかりだ。厳しい旅だが行くしかない。それが、石に導かれし者の悲しいき宿命・・・。」

がんばって腕組み、仁王立ちでも膝ガクガクでちょい腰引き気味な睦月。

「お前ホラー大嫌いのくせによくそうゆうの言えるな。」

「臆するな。行くぞ!魔導師!」

「そのパーティ、俺脱けていい?」

びびりながらも本能の中二病に火が付いた睦月は急には止まらない。その辺に落ちていた柄杓を持って茂みの前で剣みたいに構えた。

いやいや、絶対に妖怪なんているはずない。

なんて思いは簡単に裏切られた。

茂みから出てきたのは皆さんおなじみの頭に矢の刺さった落ち武者だった。

「・・・妖怪のジャンルっすか・・・?」

「クククッ・・・とうとう姿を見せおったな。さぁ、その秘宝をこちらに寄越せ。さすれば命だけは見逃してやる」

「こちとら17年命乞いなどしたことない。武士なら正々堂々戦って手に入れるのが男気」

お前、15年間何百回も俺に命乞いもどきしてるけどな。

「正々堂々か・・・。」

落ち武者は半分折れて刃こぼれのひどい刀を抜いて構えた。

「どうしても秘宝を渡さないならば・・・。覚悟はよいか?小童」

「覚悟なしじゃ、旅なんてできるはずない。」

「いい度胸だ。いざ」

二人は手持ちのなんともお粗末な武器を再度握り直し、互いから目を離さない。

「尋常に勝ぶーっ!!」

踏み込んだ二人。俺は瞬時に助走をつけて落ち武者の横顔に跳び蹴りをかました。

「え”え”---!?」

二人が叫んですぐ落ち武者は反動で石段を数段滑り落ちる。

「光太、なにをや」

睦月の声が詰まる。俺が睨んだから。落ち武者が最初よりも、もっとボロボロになって石段を上がって戻って来た。

「真剣勝負に横からおそってくる不当な輩・・・クソ餓鬼め!武士の風上にも置けん」

「あ”あ”んっ!?」

強気だった落ち武者は俺と目が合った瞬間肩をすくめる。

「勝てるはずがない・・・光太は・・・。」

『そう、大海中学の番の座を捨ててから俺は、心のどこかで血と戦いを求めた。番長としてのそのはかいしれない力を持て余し・・・。その反動か『勝負』『長く鋭い物』に反応してしまう・・・悲しき性か・・・』

「なに勝手に俺の心の声みてぇなアテレコしてんだよ。マジしめるぞ・・・?」

特に怒鳴ってもないけど、睦月は体をビクつかせる。地面に座り込んでは涙目で俺を見た。

「光ちゃん、ごめん・・・。しばかないで、殴らないで、殺さないで・・・。」

「誰もそこまで言ってない。」

「お、おいっ!拙者を無視するな!?二人がかりで襲いかかって来るとは卑劣な餓鬼どもめがっ!?」

気持ちを持ち直した落ち武者に俺はもう、めんどくささから自然に舌打ちした。

「さっきっからうっせーな。大の大人が凶器持って、未成年襲うっーならあんたもそれなりの覚悟必要じゃね?」

「ヒッ・・・お、鬼めっ・・・」

「誰が、鬼だって?」

人を鬼とか言うの失礼だろ。それから俺が約5分間何をやったか思い出せない。睦月がなにか「オヤジ狩り」だの「暴走」だの言っているのが聞こえた。

「光太!やめてぇ!?これ以上罪をかさねないで」

「あっ。やべっ・・・。」

鉄パイプを地面に落とす。めちゃくちゃに殴っていたことは落ち武者を見下ろしてわかる。虫の息だが気絶している。

「・・・どうしよ・・・。」

「オヤジ狩りの光太」

ボソボソと小声で俺を見る睦月の目は引いていた。

「だ・か・ら、悪かったって!で、このおっさん、どうするよ?」

「ミッションでは『大将の首は取った』って言えと」

「普通、『相手の』だよな?つか、これって言って聞こえるかな?」

「今我が殿のことを申していたか!?」

「わっ!大丈夫みてぇだ」

ますますボロ雑巾みてぇな体を勢いよく起こした落ち武者。

「そうだ、ここにいる悪魔の申し子と恐れられし我が部下、光太によって村ごと葬ってやったわ」

そこまでしてねーよ。つーか誰が悪魔の申し子だって?誰が俺の上司だってぇ?

まるで悪の親玉にでもなったように胸を張って話す睦月を睨む。

「なんと・・・拙者は命に代えてもお守りすると誓った殿の首を・・・。あぁ、なんと。なんと嘆かわしいことだ!!村は終わりだ、何もかも終わりだ。拙者とてあの方以外に従うことなど、なぜ望めよう・・・。あの方以外に従えと言われようなら、拙者は・・・腹を切ろうぞ!?」

い”!マジかよ!!

「おい、おっさん、はやまんなよ!」

「そうだ、明日は明日の風が吹く。いいことあるさっ!」

俺達が声を張り上げ止めるのをまったく聞かず、落ち武者は正座をし、刃こぼれの刀を自分の腹前に構えた。

「むっ・・・!?」

「やめろー!?」

俺は叫び、睦月は自分の目を両手で覆い隠した。

「むっ・・・最後に一つ。敵である貴殿等に頼むのも女々しいが、どうか・・・どうかここに拙者の塚と我が殿への言葉を掘ってはくれぬか」

「いやだよ!だから切腹やめろよ!?」

「武士は武士らしく腹を切って朽ち果てるがさだめ。しかし、殿を守るというめいを成し遂げず、天にめされたら、先に天にいらっしゃる殿は拙者をお許しくださるだろうか・・・?あぁ、きっとお許ししてくださるはずだ。殿は聡明で慈悲深きお方だから・・・いざっ・・・むっ・・・!?」

「おいっ・・・。」

落ち武者の手に力がこもっているのはわかるけど、いっこうに手前に動かない。その場でプルプル震えているだけだ。

「あぁ、愛しき妻よ、我が子よ。父はこれから天に」

「お前死ぬ気ねーだろ」

「えっ?」

ガンっと一発。俺は横蹴りを落ち武者に入れた。簡単に気絶したようだ。

「光太!戦士のエンディングは大事なものだぞ!」

「やってられっか。行くぞ」

「オヤジ狩りの光太」

「次それ言ったら鼻にピーマン詰めるぞ」

「さーせん・・・。」

俺達は落ち武者をまたいで墓地へ歩き出した。

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