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中二と鳥居

もうすっかり暗くなった山道を前回同様、俺達は子狐を追っていた。最初はだんだん森の奥に入っていくのが気にならなかったけど。

枝が腕をひっかいてやっと気づいた。俺達はネオンみたいに赤く灯った提灯の石段をいつの間にかかなり上まで登っていたんだ。まるでこの上に神社があるみたいだ。なんて思ってたら本当にそうなった。

石段を上がりきってしまったそこは提灯と同じぼーっと鮮やかな赤の鳥居。それがいくつもと続いていた。さっきの葬式列のように先が見えない。

本当にヤバイっしょ・・・?ここも。

「ここは京都の伏見稲荷大社かよ?なぁ、睦月」

冗談交じりに言いながら振り返ると、後ろにいたはずの睦月はいない。

まさか!・・・いやいや、アイツに限って・・・・ほら、いた。

「もうやだ・・・狐なんか追わなきゃよかった。今も川で石投げしてればよかった・・・。」

うん、川から出たのは正解だから気にすんな。でも、お約束守っちゃったのはどう考えてもお前の責任だから。

「やーいやーい、へたれの腰抜け-!」

「これこれ、失礼なことを言うものじゃないよ。とてもぶざ・・・貴重な人達なんだから。」

今俺達『無様』って言われたような。”

睦月を起こし上げたすぐ2,3段上に一人の神主が立っている。さっき俺達が追いかけていた子狐を抱いて。

「やっぱり狐がしゃべった!!」

「お待ちしておりましたよ。」

にっこりと人を落ち着かせる不思議な笑顔(おかげで狐がしゃべったことはどうでもよくなった。)の神主は抱いている子狐の頭を撫でる。

待っていたって言っても、この人は知らない人。初対面だ。

「さぁ、こちらへ」

そこにずっと居るわけにももちろんいかないので、俺達はその神主が招く鳥居へ続いた。だってこんな山奥じゃ、俺達二人でどうしようもない。下手に動いて遭難するのがオチだ。

ずっと鳥居の中を歩く。

「初めてですよ。私を鳥居から出した人は。いつもこの行事はこの子が人を連れてきてくれるので・・・。まさか境内で転んでしまうのは・・・。フフフッ なんともしつけのな・・・おもしろい人達だ。」

俺達は顔を合わせた。睦月もわけがわからないという顔をしている。

何言ってんだ、この人? ところどころ辛辣な本音聞こえてるし。

やっと本殿に着いた。普通の神社なら通常そこの扉は閉まっているのに開いている。きっと儀式で何かを奉るみたいだ。色々用意されていたから。対の枝木やなにやらの真ん中は大事な物でも納めるための厚い座布団が置いてある。

「五十嵐睦月君」

「な、なぜ、オレの名を・・・?」

超人見知りの睦月がファイティングポーズを構えた。

落ち着け、たぶんこの人から目つぶしはされないはずだ・・・たぶん。

「生意気に・・・良い名前だ。・・・君は川で一つ石を拾ったね」

「すべて水との戯れに使い果たした」

「石投げと言えや」

神主は穏やかにほほえみ続けた。

「一つだけ。君が気に入って持っているものがあるね。そう、ポケットに入れた。(やっと気づいたか、のろま)それはね、“螭”様の石なんだ。」

みずちさま?

「螭様はこの辺一体の主で50年に一度、姿を現し私たちの“まつりごと”をするため儀式を行う。今、螭様は力とかけ離れて眠っているからすごく弱いんだ。(あのアホ神そろそろ力維持してられないのかね)そこでその石が必要なんだ。その石には螭様の力が込められているからね。」

いきなり、やっぱり訳のわからない説明されても・・・。

それに何でこの人睦月が石を拾ったこと知ってんだ?

「あの・・・なんで俺達にそんなこと話すんすか?睦月はただ綺麗な石拾って、それでそれがその“螭様の石”ってことで・・・。石が必要ならなんであんた等が今まで取りにいかなかったんすか?」

睦月はあんまり話したくないんだろう(まだ人見知りモードだから)俺に同意して何回か頷く。

「君は大林光太君だね。人にして・・・いい質問だ。実はそれは無理なんだ。石の力は本当に強力で狙う輩は多い。もしこの力が他の妖怪に渡ってしまえば人にも危害を加えるだろうな。巨大な力って結構おおざっぱでね。石は狙ってくる妖怪と私たちみたいな遣いの妖怪、どちらにも敵視するみたいなんだ。触ろうとすれば消滅させられるのはこちらだからね。そこであまりたいした力を持たない人を使うことにしたんだ、螭様は。(人なんて切って捨てるほどいっぱい居るし)人にしか見つけられない螭様の石。そして見つけたのが君たちの様なクソ餓・・・。心の綺麗な人なんだ。」

ノーコメント。ほんと、どんなリアクション取ればいいんだ?

そしてこの人、本当に辛辣で腹黒いな。

「君たちのやることは一つ。螭様はもう目を覚ましているから探し出すこと。そして君たちが成し遂げるためには三つ。

一つ最初に出逢った者には『お前の大将の首は獲ってやった』と言い。二つ、次に出逢った者には『まだ白い』と言い。三つ、最後に出逢った者には『しばらく先の山はこれより大きい』と言う。

そうすればきっと螭様を見つけられる。君たちは偶然でも螭様の石を見つけることが出来たのだから。大丈夫、君たちの本来の目的地へ進めばいいのだから。」

「この石がオレ達を選んだ?」

「そう、君たちを選んだ(コイツならチョロそうだな)」

「おい、お前等。勝手に話し進めんな」

「そうか、ここへ来てからの胸騒ぎ・・・。この宿命を意味していたのか・・・。」

ただのおやつの食べ過ぎだ。

フッと体が軽くなった。夢見心地で鳥居が、神主が見える。最後に子狐が

「逃げようだなんてかんがえんなよ!もし逃げれば(こがらし)がお前等なんかたべちゃうぞ!?」

「これこれ、東風(こち)人なんてそんな不味い物食べないよ」

神主の袴からは大きな金色のしっぽ。振り向いた顔はあの人を落ち着かせる笑みは人を見下す目に変わっていたんだ。

そうだ、例えるなら“狐”だ。


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