中二とトイレ
なんかもう・・・すんません・・・。
ほんと、すんません。
ただ、睦月君をいじめたかったんです。
(五十嵐睦月の戦い。お前達は目を背けてはいけない・・・。)
※五十嵐睦月が語ります。
今日オレは極限の立場に立っていた。いや、いつものことだが・・・。
「うっ・・・ぐっ・・・。」
「睦月、トイレ行ってこいよ」
のんきなことを言う薄情な親友。
オレにはそんなことは無理だ。
学校のトイレ。しかも男子トイレ。個室に入ればすぐバレてしまう・・・。
時刻は帰りのホームルーム前。オレは今日の昼食に食べたヨーグルトが腸の活発を助けたおかげで尻が、肛門が・・・限界だ。
ここは賢明な読者の方々に察してもらいたい。
やっと担任が教室に入ってきた。
何をしていたんだ!?大体この学校の教員は時間にルーズ過ぎる。うっ、力むな五十嵐睦月。こうゆう時にこそ敵に余裕を見せるんだ・・・!
「睦月、何にやけてんだ?」
き、貴様にわかるわけねーだろ!?オレの体をむしばむ悪の刃が・・・!
誰か、助けてくれー!!
こんなこと(ホームルーム)している時間はどうにか有効に使わなければ。オレは何とか学校のトイレではないトイレまでのルートを考えることに専念した。
まず、チャイムと共に走り出す。そして、学校のすぐ近くのコンビニはダメだ。帰りの学生に居合わせることもある。すぐ次にトイレ入られるの嫌。
他は・・・。公園さえあれば・・・。否、ウォシュレットがないのも嫌だ。なんか落ち着かなくなる。
大型スーパーがあるではないか!あそこなら環境もウォシュレットある。
そして何より人混みが多い。木を隠すなら森の中しかり。
オレが目立つことはまずないだろう。まして、トイレ目当てだとは・・・。
「クククッ・・・ハーハハハハハハハハッ!!」
こんなにも完璧な作戦があってたまるか!!
笑いが止まらん。自分の才能に酔いしれてしまう。
「な~に、笑ってんの。睦月。もうHR終わったぞ」
なん・・だとっ!?完璧に出遅れた!
「この完璧かつ無敵な作戦に・・・!」
「いや、しゃべってんならはよトイレ行けよ」
「貴様に言われんでも」
オレは鞄をひったくるように持って、教室を去った。
急げ・・・急ぐんだ!!大丈夫・・・
「うっ・・・」
大丈夫、落ち着け・・・。これならまだ我慢できる・・・!!
「あ~!見つけた~!」
俺の前に現れたモンス・・・ではなく、クラスのギャル。とその仲間達。妙に間延びした口調にイラッ。
「あのさ~・・・ちょっと話あるんだけどぉ~」
こちとら急いでんだよ!!逃げるのコマンド仕事しろ!?
「ちょ・・・今は無理だ」
「え~、マジすぐ終わるからぁ~。ねぇ~、ちょっとだけ・・・。」
うまく断れない。元々オレは口下手だし、こんなうっとうしいモン・・・ギャルの正しいあしらい方を知らない。こんな時に限って光太もいない(教室に置いてきたんだった)
無理半ばでオレは告白定番の中庭に連れてこられた。
「あの~・・・マジ言いづらいんだけどぉ~・・・。」
早くしろ~・・・。クッ・・・もう・・・いや、ここで倒れるわけには・・・!?
「あのぉ~・・・あたしぃ~、五十嵐のこと好きっぽいんだよね~。で、あたしら付き合わないぃ~?」
オレ達の間を風が通った。
「ふぅん・・・。じゃあ、オレのこと好きなんだね」
念のため確認。もし好きでもお断りだけど。
「・・・付き合うって、なんだろうね?」そしてお前はなんなんだろうね?
「あいにく・・・オレにはもう心に決めた奴がいるんだ・・・。」
口は勝手にしゃべる。そんな奴はいない。
でも、背筋を伸ばすと腹に負担がかからなくって、さっきより楽だ。
「えぇ~!誰?学校の娘?」
「君に知る必要はないよ。・・・ただ、彼女と共にいることは苦しみも伴うんだ。それでもいいって思える相手、とでもいっておこう」
悪戯っぽく笑ってオレは颯爽とその場を離れた。
我ながら最高の嘘・・・ではなく、巧妙な手口!!おおっと、力んではいけなかった。
どうゆうことか、ギャルとの一件でオレのHPは半分は回復している。
しかし、油断大敵。
ヨーグルトの威力はすさまじい物だ。帰りの電車20分を腹痛で過ごすのはこの体力では簡単にはできまい。
余裕綽々のままオレは学校の近くの大型スーパーに入った。安息の地・トイレはすぐ見つかり、幸運にも人っ子一人いない。
フッ・・・神は我を見放しはせん。 ここまで色々長かった・・・。五十嵐睦月完全勝利!!
個室の中でガッツポーズ。オレの腹から悪は去った。
もう、完全勝利のオレの幸せを邪魔する者はなにもいな・・・。
トイレットペーパーに手をかける。が、ペーパーの感触がない。
そんなバカなっ!!
目で確認したけれど、そこにトイレットペーパーはおろか、トイレットペーパーの芯すらない。並んだトイレットペーパー入れはもぬけの殻だ。わかっている。こうゆう大型スーパーはトイレットペーパーも備品としているので一般人の手が届くところに置いていないことも。
ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?
天国から地獄。
なぜだ?誰がこうまでしてオレを陥れようとするんだ!?
怒りと絶望で壁を拳で殴った。・・・痛かった・・・。
「睦月、そこにいるのか?」
「こ、光太・・・!なぜ、お前がここに・・・?」
「お前がギャルに絡まれてるのも心配になってな。大丈夫みたいならよかった。」
「・・・いや、光太。実は大丈夫ではないのだ・・・。」
「何だよ?どうした?」
「・・・神がオレを見放した」
「ティッシュとかは?」
察しのいい光太は提案を出してくれたが、ティッシュは今日の昼、鼻をかんで使い切ってしまった。
「ちょっと待ってろ。店の人に言って、トイレットペーパー貰って来てやるから。待ってる間、ノートとかでケツ拭くなよ」
ビリッ
ちょうどオレがその案を実行するところだった。
「お前・・・。」軽蔑する様な光太の声。
「・・・使える物を使って何が悪い!?」ガンッ!!
トイレの扉が殴られた。
「睦月、前から行儀悪いことすんなって、俺言ってんよな?待ってられっか?」
「・・・うん、モチのロンだよ・・・。光ちゃん」
光太の舌打ちが扉の向こうから聞こえる。
「光太!」オレは光太を呼び止めた。一刻も紙が欲しいのに矛盾しているな。
「オレ・・・お前のこと、信じてるから・・・。」
「あれ?普通のこと言われてんのに、中二にしか聞こえないのって、俺のせい?」
その後、光太が舞い降りたオレは「トイレ」という脱出ゲームから見事クリアした。