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中二と番長

俺は昔から喧嘩に強かった。小学校の頃、3年生だった俺は6年生3人と互角に喧嘩して勝ってしまったくらいだ。で、小学校で俺に絡んでくる奴らはいなかった。

今、どうしてこうなったのか自分でもわからない。

中学に入って「目つきが気に入らねー」だの「態度がむかつく」だので俺は先輩から絡まれて、勝ってしまった。



大林光太、中学2年。大海中学の番長ヘッド

きっかけはあの日、絡んできた先輩を倒し、最後に出てきた3年生も倒したこと。番長を倒したんだから時期番長は俺。なんとも動物的なやり方だ。

断る理由もなかったし、俺はいい加減睦月に嫌気もさしていた。なにか新しいこともやりたかった。

不良って結構楽しい。授業フケて、ヤング●ャンプ読んだり(週間はもう卒業した)ほぼ毎日他校の不良と喧嘩してストレス発散したり、夜バイクなんかもたまに乗った。夜風が気持ちよくってついね。ワックスなんかで髪もいじって、ピアスも開けて、髪も赤茶に染めた。誰にもナめられないように。

それになんといっても、誰も俺の邪魔をしない。言うことを全部聞くし、面倒がない。どっかの誰かさんと違って。

喧嘩は本当に負けたことがなかった。喧嘩してきた連中の中にも空手や柔道をやってた奴だっていた。でも、俺は誰にも負けなかった。

そんなことばっかやってたらいつの間にか『荒狂の狼・光太』って異名がついた。

・・・でも、心のどっかでなんか違うって気づいたのはつい最近・・・。

だからかな?

酒もタバコも一回きりだ。今はただ回りの連中が吸ってるのを見るだけ。



そんなこんなで秋の終わり頃。その日も授業フケて体育館裏でダラダラと集まって特にすることもない。

「光太番長!」後輩の一人が走って来た。だいぶ焦っている。

「おい、その時代錯誤な感じで呼ぶのやめてくんない?」

「すんません!なんかつい」

「んで、何?」

「は、はい。実はこんなものがそこの木に・・・。光太さん宛です」

後輩が持ってたのはなぜか矢と筆なんかで力強く『決闘状』と書かれた手紙。

ため息が出る。こんなことするアホは、アイツだけだ。とりあえず広げてみる。

何々?

「『過ごしやすき今日この頃いかがお過ごしか?単刀直入に貴殿、大林光太に決闘を申し込む。しいては』」おいおい・・・。

「11時に体育館裏にて待つ」

「って!おぉーい!!」

決闘状の送り主、五十嵐睦月がいつの間にか俺の真後ろで読んだ続きを言っていたのだ。

「睦月、テメー!?なにしてんだよ!?」

「心配するな。今は自習時間だ。オレ一人消えようとも誰も気づかん」

腕を組んで仁王立ちの睦月。逆光が変にうまい演出をしてる。

「いやいや、そうゆうわけじゃなくって・・・。」

「ちなみに矢は弓道部から借りた。」あっ、やっぱ矢文のつもりだったのね。

軽い感じに話す睦月。久々にちゃんと話した。

「それでもねーよ!?一体なんだよ、この決闘状って!?」

この平成の時代もらうなんて思ってもみなかったよ。

「見ての通りだ」

睦月の顔にはさっきの“軽い感じ”が消えて、その切れ目は鋭く光っている。一瞬背筋がゾクッとした。

「何が目的だ・・・?」警戒をしつつ、俺はいっそう低くうなった。

「・・・お前を倒して、オレが番長になる」

「無理だ」

きっぱり、そして脅すように言い放った。

「え~・・・」

さっきまでの緊迫した空気はどこえやら。間抜けな声を出す睦月。なんかデフォルメしてるみたい。

「お前俺以外に話す人間いないくせに何『番長になる』とか言ってんだよ!?だいたい喧嘩もしたことねーくせによー。なんなのお前」

「だって~、オレも一度『睦月番長』なんて呼ばれたい。異名持ちたい。だって今俺の異名『静かなる教室もりの賢者・五十嵐』だぞ!」

「マジで?」それ、フクロウじゃん。

一瞬、フクロウになった睦月を想像してつい吹き出してしまった。

「うん、女子がそう話てんの聞いた。」

相変わらず勝手気ままな奴。笑える、落ち着く。

でも、

「お前には無理。マジで殴られたいの?俺に勝てると思ってんの?」

睦月の胸ぐらを引っ張って、俺の方に近づける。もう、睦月を喧嘩相手として脅すしかない。

睦月はしばらく黙って、何か考えていた。

「・・・わかった。番長の座はお前の物だ。オレはその番長をも操る黒幕になる!!」

だ~・か~・ら~・・・!!

俺はなんだかムカムカして睦月にボディブローを入れた。倒れた睦月はうずくまり痛みにうめいている。

「お前には無理だ。俺にこれ以上関わるな。」

俺は今にも泣きそうな睦月を置き去りにした。




って、それがつい一昨日の話。今日は南中の頭とタイマンがある。なぜか取り巻きも付いて行くことになり、南中に行こうとしたところ、校門で睦月が待っていた。右手にヨーヨーを持っている。

「なにしてんの?」

それって、まさか・・・?

睦月はヨーヨーを垂らしてぶんぶん回し始めた。(よい子はまねしないでね。正しくヨーヨーで遊ぼう)

おいおい、ずいぶんと懐かしすぎる物チョイスかよ。

「さぁ、もりにおかえり・・・」って、そっちかよ!!

「いや、これからタイマンが~・・・。」

その優しげな目、やめて。

「大丈夫。良い子だから・・・」

『ラーランランララランランラン ラーランラララン』BGMまでだしてきやがった。準備いいな!

「ちょ、光太さん。コイツマジどうします~?」

「ほっとけ」

そのわきを通ろうとすると腕を掴まれた。

「ダメ!悪に浸かってはいけないの!」中途半端なアレンジ入れてくんなよ!

「意味わかんねー!光太さん、コイツ一発ヤキ入れて」

後輩の言葉を無視して俺は睦月の腕を振り払い、腹に膝蹴りを入れた。

「あーーーーーっ!!」やめて!BGMと被らすの!風の谷見たくなるだろ!!

睦月は倒れ、痙攣していた。別に攻撃してない左足の足首を押さえて。

「ちっ、おい。興醒めだ。帰んぞ」

「え~、光太さ~ん」

文句たれる奴らに一睨みすりゃあ黙って「すんません」って小さく謝る。これが最高にたまらない。





タイマンをドタキャンした俺は、後日「南中」が怖くなってドタキャンした、なんて噂された。これじゃあ、後輩や仲間に示しが付かない。なにより俺のプライドが許さない。

俺はすぐ南中に行って、南中の連中を倒した。ちょっと警察のお世話にもなってしまった。

そのときの両親の顔は今でも後悔しそうになる。

その日はいつもより服があっちこっち付いて気持ち悪かった。

「荒狂の狼・光太」の名はまた上がった。

数日後、学校に南中の生徒の保護者が乗り込んできた。俺をよその遠くの学校に転校させるか少年院に入れるか議論をしろとの命令だ。実は警察にお世話になったのもその保護者のせい。




「あ~・・・マジやってらんねー・・・」

自宅謹慎を言い渡された。中学で。

放課後のいつもの体育館裏。上を向いて空をぼーっと眺める。

「マジやばくないっすか?光太さん」

「う~ん・・・やばい、よな~?」いっそその保護者も一発ぶん殴って。

そのときだった。

「加藤!加藤!俺だ!金ぱ●だ!」

グレーのスーツに肩までの黒髪ウィッグの睦月が息を切らして現れた。しかもBGM付きで。結構初期のやつ見てきてんな。おい。

「加藤ま●る!話を聞いてくれ!お前は本当はこんなことする奴じゃないだろ!バカチンがぁ!」いや、俺大林光太だし。

ウィッグの髪を後ろに流す。

誰に「贈る言葉」だよ!俺か!?俺なのか!?

「・・・五十嵐・・・お前も懲りない奴だな。お前みたいに優秀な奴が俺を止められると思っての?前にも言ったよな。無理だって」

「いいですかー!君たちはー腐ったミカンじゃぁないんです!!」

「って、聞けよ!?」

俺そっちのけで、睦月は不良に説教していた。

「・・・・。おい、行くぞ」

何度も何度も俺は睦月を置き去りにした。アイツが俺に付いて、バカなことをするたびに。ときに殴って、蹴っての繰り返し。それでもアイツは何度も来る。

痛いのだっい嫌いなアイツはついにMにでも目覚めたのかな。

何となく理由はわかっていたけど、俺は認めたくなかった。


もうすぐ春休み。下駄箱を開けると一通の手紙が入ってた。

何?ラブレター?

軽い気持ちで手紙を開く。俺はすぐに走った。

「ダチを預かった。返して欲しいなら一人で第4倉庫に来い」




またベタなとこに呼び出されたもんだ。夕暮れ時、港沿いにあるいくつもの倉庫。

第4倉庫に睦月はいた。不良に取り囲まれ、縄で縛られ、ぼろぼろで血を流している。

「睦月!!」

「光・・・・」

まぶたの上でも切ったのか。睦月の顔半分は血まみれだ。

「やっぱ来たな。荒狂の狼・光太さんよ~」

睦月を蹴り倒したのは南中の番長。

「知ってんだぜ~。コイツがお前のダチだってな」

奴らは大爆笑だ。俺に野次を飛ばす。

「・・・違う・・・」

爆笑が収まった。

「ちげーよ、誰がそんなやつダチだって?そいつはな、頭いいくせに不良おれに突っかかって、痛いの嫌いなくせに怒らせて、殴られて・・・それをほぼ毎日やって・・・。」

「じゃあ、なんで来てくれたんだ・・・・?」

あっ・・・・。

睦月が踏みつけられながらも俺に顔を向けた。

「オレのこと嫌いになったなら、なんでここに来てくれたんだ・・・?」

そっか、俺・・・・本当は・・・。

「俺は・・・」

本当は、やめるきっかけを探していたんだ。

睦月は俺にそれをいつもくれていたんだ・・・。

なんで気づいてやれなかったんだろ?

「おい、耳の穴鼓膜寸前までかっぽじってよく聞け。俺はな、睦月を助けに来たんじゃねー。テメーらクズをぶっ倒して、睦月を助けに来たんだ。」

「ほざいてろ!!」

その声と同時に倉庫にバイクに乗った奴らが10人、20人ぐらい出てきた。中には高校生ぐらいの奴もいる。

「これでも大口たたけるか!?それに、一歩でも近づけば」

南中番長は睦月の髪を引っ張り上げて、ナイフを睦月の顔に近づけた。

「痛いの怖いんだよな。コイツ」

それだけじゃない。睦月は極度の先端恐怖症だ。ナイフなんて向けられたら・・・。

睦月が人質じゃ俺は手が出せない。バイクの連中が俺を縛り、その縄をバイクにくくりつけてバイクを走らせた。引きずられる俺に睦月は消えそうな声で俺を呼ぶ。

考えろ・・・。って、バイクで引きずられながら良い作戦考えついたら俺マジ神?

ナイフだけでも睦月からはなせたら。なんとか奴らの気を引けるものが・・・。

「ウッ・・・ぐあああああぁーーーー!!」バイクが加速した。

「フフフッ・・・ハーハハハハハッ!!」ついに気に障ったか?睦月が笑い出した。声が倉庫に反響する。

「なんだコイツ?頭壊れた?」

「フフッ・・・貴様等、こんな物で私を殺せるとでも思っておるのか?この魔王の魂を宿すこの私を」

「なんだーコイツ?」

「頭沸いてんじゃねーの」

睦月・・・。お前って奴は。

「ほざいておけ、今に私の忠実な僕が貴様等をあの世に送ってくれよう・・・。」

俺はバイクが睦月達の方に近づきだしたとき、自分自身全速力で助走をかけてバイクを追い抜いた。今まで引きずられていたおかげか、バイクと俺をつなぐ縄は助走のときにかけた力で切れるほどになっていた。そのまま南中番長にドロップキックを決めた。

南中番長が倒れる音が倉庫に響く。

「忠実な僕とは俺のことかね?睦月さま」皮肉たっぷり言ってやる。

「あぁ。そのつもりもあるかな?光太君」

自分の縄をその辺のガラスで切って、睦月の縄を解いてやった。

「ふざけんじゃねーぞ!ゴラッ!!」

「たった二人で何ができんだよ!?」

連中は材木やら鉄パイプを持ち出し、再びバイクを呻らせる。」

「睦月、お前はそこで見ていろ」

「ほう、さすが私の僕。頼んだぞ」

「へいへい、裏番長さま」

お前が先端恐怖症も乗り越えてくれたこのチャンス。ぜってぇ無駄にしねーよ。

南中番長を倒したせいで、さっきより凶暴さが増したのか、それとも恐怖感でも増したのか。連中を全員ぶっ倒すまでそんなに時間はかからなかった。




「大丈夫か?」

「フッ・・・たいしたことはない。下等な人間の攻げ・・・っ!!」

睦月の切れた額をハンカチで押さえてやる。

「無理すんなよ。病院行かねーと」

睦月が頷いて、俺は睦月に肩を貸して歩き出した。

「・・・睦月」

「なんだ」

「あ~・・・ありがとな」

チラッと睦月を見ると、口を開けてぽかんとしている。

「俺、不良やめる。」

「そうか・・・。」

妙に静まりかえってしまった。

「お前・・・」

一瞬、ナイフが怖くなかったか聞こうとしたがやめた。

「なんで金●先生やったんだよ」この前のことにした。

「ああー!!」

睦月が急に叫んだので耳がジンジンする。

「なんだよ!?」

「今日再放送の最終回だった・・・。」

あぁ~・・・そうだね。こうゆう時期やってるね。

「ぷっ・・・ははははははっ!!」笑いが止まらなかった。

「何を笑っている!?人の不幸を笑うとは!」

そんな睦月も言葉の最後は笑いを堪えて、もう一緒に笑っていた。

久々に腹の底から笑えた。その日、俺はうちの学校の不良の奴らに「やめる」ことを伝えた。止める奴や刃向かう奴がいたらぶっ倒していたところだが、それは誰もいなかった。




次の日俺達のことは新聞に載った。運の良いことに『親友を助けに不良グループを一人倒す』なんてヒーロー記事だ。その記事を読んだ黒髪の俺は隣の親友を見た。

「ちっ、光太がやっとオレを裏番に認めたのに・・・。」

こんなことがあって俺は伝説の不良の一人になった。

「なんでそんなになりたかったんだ?」

「フッ・・・ただの気まぐれさ」

おーい、顔に『中学二年生の不良番長って、かっこいいあこがれの定番だろ?』『異名あって怖がられるって羨ましい』って書いてあんぞ~。

ちょっと待て。それって・・・つまり、俺はコイツ以上に『中二病』だったってことかぁ!? 思い当たる点は点々と・・・。

「うん・・・中二だから、いいんだろうけどね・・・。本物の中二だから・・・。」

これは俺の黒歴史の物語。


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