中二とリップクリーム
今日はちょっと先生に呼ばれて睦月と帰るのが遅くなった。
校門で待つ睦月と合流して帰る。
「フッ・・・今日の風はご機嫌斜めのようだな」
「寒いな~」二つの意味で。
「んっ、あれ?睦月唇どっした?」
「・・・これか・・・鎌鼬にやられちまったよ」
睦月は切れて血がにじむ唇をペロッと舐める。そしてV系風のキメ顔。イラッとする。
「最近乾燥してっからな~」
俺も予防でリップクリームを塗った。
「お前もいい加減リップクリームぐらい塗れや」
フルフルと横に首を振る睦月。
「なんでよ?」
「血を見ると、こう・・・落ち着くんだ。生きてるって感じられる・・・。」
顔にはどう見ても「かっこいいからこのままでいいの」って書いてある。
ちなみにコイツは痛いの大嫌い。血を見たいからってリストカットとか絶対できない。(先端恐怖症もあって)
「みっともねーだろ。ほれ、薬局行くぞ」
がさがさの唇は見てて俺が痛々しいので。どうしたらここまで唇割れすんだろ。
「え~・・・」
「え~・・・じゃない!」
半ば睦月引きずる感じで地元の薬局へ向かった。
それにしても、最近のリップクリームは本当に色々ある。色つきや甘い香り付きのもの(女子向けの物だから俺達には無縁だけど)男物もコンビニだと1,2種類くらいだけど薬局だとまぁ、種類も多い。
「ホレ、選べ」
男物のリップのテスターを一本適当に渡してやる。
ふたを開けてリップの匂いを嗅ぐ睦月が一言。
「大変だ、オレの鼻封鎖されました!!」
いや、それ無臭のリップ。
そんな感じで睦月にテスターのリップを渡したけど睦月はどれも「うん」と頷かない。それどころか隣の女子向けのリップコーナーに目を輝かせている。
「ちょっとだけ・・・」
「バッカ!女子の使うやつだぞ!?」
睦月の腕を引っ張って静止させる。
「止めるなっ!オレは誰かに敷かれた(えらばれた)レール(リップ)を使うのはもう、うんざりなんだ・・・。」
いや、前回ねーし、これが初めてだし。そんな涙目で訴えられても・・・。
「・・・わーたよ。見るだけだぞ?」
あれっ?お前さっきの嘘泣き?
睦月はいそいそと女子系のリップを眺める。隣のコーナーでちょっと横に動いただけなのに、こんなにもいたたまれない。なんか意味不明な気まずさ。男子に理解しにくい女子のキラキラグッズ、恐るべし・・・。
「ほーれ、そろそろ買って帰るぞ」
いたたまれない俺に不満たらたらそうな顔を向ける睦月。
「オレにかまわず先に行け!!」
「睦月、そんなこと出来るわけねーだろ!そんなことしたら、お前は・・・お前は・・・。どうせ女物のリップ隠れて買うつもりだろ!?」半分ノリに乗ってしまった俺。
「それの何が悪い!?」
あ、コイツ認めやがった!
「光太・・・もう、女とか男とかそんなことどうでもいいじゃないか・・・。何が良くて何が悪いだとか、もう・・・どうでもいいじゃないか」
いや、誰もそんな規模のデカい話ししてねーし。これ、リップクリーム買う云々のはなしだよね?
「人間は誰もが平等。だから・・・オレがなんのリップクリーム使ったって良いじゃないか-!」
「あー、わーた、わかったよ。好きなの買えや」
付き合ってられん。俺は先に薬局を出た。
1,2分して睦月がニコニコして店から出てきた。
ため息しかでない。
まぁ、これで痛々しい唇を利用した睦月の行動はとりあえず、なくなるだろう。
次の日。
「あれ~、なんか甘い匂いしない?リサ香水変えた?」
「ううん、ミホじゃないの?」
「えー、違うよ。誰だろう?」
「睦月君よ~」
「なんだ?」
「怒らないから素直に答えなさい。なんのリップ買ったの?」
「ミル●ーのグロス系リップ」
「なんでそれにしたの?」
「甘い匂いだから。理由はそれだけさ」睦月の唇はツヤツヤぷるぷるの乙女口。そのうえ、甘ったるい練乳の様な香り。
もぅ、怒る気さえ怒らない今日この頃。
乾燥の季節が早く終わればいい。