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「ずいぶん集めたもんだな」

 野営地で準備をする傭兵、領主の私兵、果ては民兵まで勢揃いしていた。

 雑多な寄せ集めともいえる彼らを見て呆れ半分につぶやいた。

 何とはなしに漏れ出た彼のつぶやきに近くで剣の手入れをしていた男が笑う。

「そりゃあそうだろ。準備しすぎるに越したことはねえ。なんせ─魔女を狩ろうってんだからな」


 ―――魔女。


 魔術と呼ばれる未知の業を操りその力は天候すら動かすといわれている。

 かつて魔女の怒りを買った国が一夜にして滅んだ、戯れに洪水で村を押し流した等その危険性を言い伝える噂は数々。

 魔獣といわれる存在が絶えて久しいこの大陸で他国の人間こそが最大の脅威である今、唯一存在している得体のしれない恐怖の象徴だ。


「相続争いで優位に立ちたいからってそこまでするもんかね?」

「それにわざわざ参加してる俺たちが言うことじゃねえな」

「違いない」


 ことの発端はこの地の領主の跡継ぎ問題だ。

 領主には二人の息子がいるのだが双子の上に同程度の器量、そしてどちらも譲る気はさらさらないらしい。

 どちらが後を継ぐかで揉めに揉めているそうだ。


 双子の点数稼ぎは苛烈さを増していき、ついには兄のほうが伝説の存在に手を出すまでになったというわけだ。

 万全を期すために私兵だけでは足りないと判断し、金をばらまき人を集めた結果がこの大所帯。


「金さえ貰えれば何でもやる…とはいえ魔女とやりあうのは初めてだな」


 青年は腕を組みながら独りごちる。

 年のころは二十代半ば、灰色の髪の毛を短くそろえている。

 大柄だが引き締まった体。

 鋭い雰囲気と傷だらけの顔は青年の職業を実によく表している。


 ジグ=クレイン。傭兵だ。


「魔術か…童話でも参考にすればいいのか?」


 彼は未知の敵との戦闘を想像しながらその対処に頭を悩ませていた。

 酒場で聞いた与太話では何もないところから道具も使わずに火の玉を出したり風を巻き起こすようだが。

 ジグにはそのような芸当が本当にできるのか甚だ疑問であった。


「とはいえ魔女が実在するのは事実。魔術とやらが本当なのかどうかは置いておくとして、噂相応の芸当ができると考えておいたほうがいいか」


 彼は魔術に懐疑的であったが、魔女の脅威自体は現実のものとして受け止めていた。

 おとぎ話で片づけるには被害にあった事例が多い上に大きな国は魔女の討伐に躍起になっている。

 これから討伐に向かう魔女も過去幾度も討伐隊を差し向けられたことがあるが、すべて失敗に終わっているという。


 とてもではないが個人でどうにかできる範囲を超えている。

 彼は魔女というのは何かの集団を表すもので、個人名ではないと考えていた。


「何かしらの国家絡みの集団か、あるいは犯罪組織かなにかか……」


 そんなところだろうと考えていた。

 報酬は文句がないし出所のしっかりした依頼だ。

 当然報酬なりの危険もあるだろうが、この仕事をやっていて危険なことなど日常茶飯事。

 いつもの仕事と何も変わらない。


 油断はしないが、恐れることもない。

 そう考えて出発の時を待った。


 その思い違いが彼の今後を大きく左右するとも知らずに。



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