プロローグ
前半は一章のあらすじも兼ねています。
ある麗らかな昼下がり。
王城にある図書館のキャレルで、愛らしい少女が教育係から勉強を教えてもらっていた。
教え子のフィオナは先日十四の誕生日を迎えたばかりで、幼さの残る容姿をしている。だがその正体は剣の精霊に愛されし剣姫であり、この国の次期女王と目される王女である。
対して、彼女に勉強を教えている教育係は今年で十九歳。リゼル国の賢姫であり、いまはフィオナの教育係という役職に就いている、プラチナブロンドの髪を持つ美しい少女だ。
愛らしい教え子に勉強を教えながら憂いを帯びた顔をする。
アイリスには秘密がある。
前世の記憶を持っているというとびっきりの秘密だ。
それも遠い昔の誰かの記憶ではない。いまこの瞬間、この時代で生活をしている。レムリア国の剣姫にして次期女王、教え子であるフィオナとしての記憶である。
前世の人生はとても酷いものだった。現国王であるお爺様が身罷られ、干ばつや魔物の襲撃によって国は荒れ、フィオナは中継ぎの王となった従兄に追放された。
果ては、流れ着いた隠れ里が魔物の襲撃を受けて短い人生に幕を下ろした。
アイリスがレムリア国に戻ったのは、その血塗られた歴史を書き換えるためだ。
前世で得た技術と未来の記憶、それに賢姫として培った様々な知識を駆使してフィオナの教育係という地位を手に入れたアイリスは、実際にいくつかの運命を打ち破った。
一つは、クラリッサという名のメイドの命を救ったこと。
これはただの偶然だが、アルヴィン王子の腹心ともいえる人物を救ったことになる。敵に塩を送ったことになるが、同時に正解だったとも考えている。
アルヴィン王子が暗躍を始めたと思われる時期と、クラリッサの死亡時期が重なるのだ。
むろん、本当に関係があるかどうかは分からない。
だがクラリッサはアイリスが保護した子供達の教育も請け負ってくれている。善良な人間であると同時に有能でもある。彼女を救ったことに後悔はない。
続いて二つ目は、干ばつの被害を最小限に抑えたことだ。
それによって多くの餓死者が出るのを防ぐと同時に、リゼル国との関係悪化を防ぐことが出来た。レムリアが荒れる原因の一つを取り除いたと言えるだろう。
続いて三つ目、フィオナとグラニス王の暗殺計画を防いだことだ。
フィオナの危機を未然に防ぎ、グラニス王が毒殺される未来を回避した。これによって、レムリア国の歴史は大きく変わっていくだろう。
だが、残っている問題もいくつか存在する。
まずは、失われた歴史の中でフィオナを追放したアルヴィン王子の存在だ。
アイリスは彼の取り扱いに一番困っている。
なぜか毎回ちょっかいを掛けてきて、アイリスはそのたびに邪険に扱っている。にもかかわらず、彼は懲りずにアイリスと関わろうとする。
問題なのは、その彼が前世ではフィオナを追放していることだ。
アイリスは彼が裏切り者で、だからフィオナは追放されたのだと思っていた。だが、フィオナやグラニス王の暗殺計画にアルヴィン王子は関わっていなかった。
むしろ、味方としてフィオナやグラニス王を護ろうとしていたことは間違いない。
アルヴィン王子がフィオナを追放したのには事情があるのかもしれない。少なくとも、フィオナに直接的な危害を加えるつもりはないようだ。
――というのが、アイリスの最近の認識である。
加えて、フィオナの祖父でもある現国王が、フィオナは次期女王に相応しくないとほのめかした。これも、フィオナの追放には事情があるとアイリスが思っている理由の一つだ。
つまり、グラニス王が身罷られた後、アルヴィン王子がその意志を継いだ可能性だ。
そうなってくると、話は変わってくる。グラニス王が王位継承権の順位を変更する可能性はある。だが少なくとも、王が元気なうちは、アルヴィン王子が動く可能性は低い。
そんなわけでアルヴィン王子のことは保留。
残っている目下の問題は一つ。
レムリアと隠れ里に降りかかる魔物の襲撃への対処である。
隠れ里への襲撃はまだ四年ほどの猶予があるが、レムリアが襲撃を受けるのは干ばつによる飢饉から立ち直ろうとした時期。つまりは半年も猶予がない。
とはいえ、本当ならそこまで神経質になる問題ではない、はずだ。
前世の記憶によると、襲撃があったのは飢饉で疲弊していた時期。それでもなお被害が出たのはわずかな数だけ。万全の状態であれば、被害は最小限に留まるはずだからだ。
(ですが、なんだか引っかかるんですよね)
前世の記憶と、アイリスがこの国に来てから知った事実には差異がある。最初は歴史が変わっているだけだと思っていたのだが、最近そうじゃない可能性に行き当たった。
つまり、フィオナだけが本当のことを知らされていなかった可能性だ。
干ばつの件でも思い当たる節がある。
もしかしたら、襲撃も前世で聞かされたものよりもずっと大きい規模なのかもしれない。
杞憂という可能性もあるが、大きな襲撃であれば剣姫であるフィオナも戦場に駆り出される。それが剣姫であるフィオナにとっての責務だからだ。
(でも、前世のわたくしはずっと城にいた。襲撃が本当に大したことなかったのか、あるいは――アルヴィン王子がその責務を代わりに果たしていたのか)
後者であれば、フィオナが追放された理由の一つだとしてもおかしくはない。現時点で判断は出来ないが、里への襲撃の件もあるため、いまのうちの対応が望まれる。
襲撃に備えるために必要なことは三つ。
一、アイリスが隠れ里へおもむき、前世の力を取り戻すこと。
二、薬草園を作り、強力な回復薬であるポーションを制作すること。
三、魔物の襲撃を各位に警告し、事前に準備をしておくこと。
一と二はアルヴィン王子に交渉中で、許可が下りれば同時に進行が可能だ。
だが三つ目はもう少し準備が必要だ。半年後に襲撃があるといっても信じてもらえない。根拠のない警告は騒乱の元だと非難される可能性すらある。
ゆえにアイリスはいままで、自分に予知能力的な先見の明があるとほのめかしてきた。その努力が実るのも、そう遠い未来ではないだろう。
という訳で、おおよその問題は解決の見通しが立っているのだが――最後に一つ、大きな問題が残っている。その最後の一つは――と、歴史の教科書に視線を落とした。
それからアイリスの出した課題をこなしているフィオナへと視線を向ける。
「フィオナ王女殿下はレガリア公爵家をどこまでご存じですか?」
「ふえ? レガリア公爵家は、初代剣姫の末裔って言われてる一族だよね。この国の王は世襲制だから、レムリアの家系も初代剣姫の血を引いているんだけど……あれ?」
フィオナが可愛らしく小首をかしげる。
レムリア王家もレガリア公爵家も初代剣姫の血筋――なのに、レガリア公爵家が初代剣姫の末裔といわれている理由までは覚えていなかったらしい。
アイリスは背後に控えている使用人の卵、ネイトとイヴに視線を向ける。
「あなた達は分かるかしら?」
「えっと……まず、初代剣姫様のご子息が王位を継承したんですよね?」
まずはネイトが答え、その後を引き継ぐようにイヴが声を発する。
「――それで初代剣姫様が崩御なさった後、末のご息女が二代目の剣姫様になりました。その二代目剣姫様の家系が初代剣姫の末裔だって言われています」
疑問形のネイトに対して、イヴはハキハキと答えた。兄に対して妹のイヴは一つ年下なのだが、記憶力に関しては妹の方が高いようだ。
「その通りです。王位は世襲制、そして後を継ぐのは長男である。そんな慣例に従って次期国王が決まるのは自然の流れでした。ですが――」
初代剣姫が亡き後、初代剣姫を加護していた精霊アストリアは初代剣姫の末娘に加護を与えた。正当な王位後継者はその末娘ではないか、という話が立ち上がる。
このままでは王位を巡って国が荒れることとなる。
その対策として、王家と剣姫の一族を切り離すことにした。二代目剣姫には初代剣姫の末裔として、レガリア公爵という地位を与えたのだ。
「二人とも、よく覚えていましたね」
いい子いい子と二人の頭を撫でつける。
年相応に喜ぶ二人を横目に、フィオナが悔しげな顔をしている。だからアイリスは「フィオナ王女殿下も要点はしっかり覚えていましたね」と、その頭を撫でつけた。
「えへへ。でも、次は二人にも負けないように頑張る!」
ちょっと照れくさそうに笑って機嫌を取り戻し、それから二人に対抗意識を燃やす。その姿はまさにアイリスの思惑通りである。
要するに――ネイトとイヴは平民の子供。
つい最近まで教養なんてないに等しくて、歴史については言わずもがなだ。
そんな二人が答えを知っていたのは、アイリスが授業前に「ところで、レガリア公爵家を知っていますか?」と二人に教えた結果である。
つまり――フィオナはチョロ可愛いと微笑んだ。
そんなアイリスの内心を知らないフィオナはコテンと首を傾げる。
「アイリス先生、アストリアは血筋で守護する相手を選ぶわけじゃないよね?」
「そうですね。それにアストリア以外の剣精霊から加護を受けた者が剣姫として認定されたこともあります。この辺りは政治的な理由が大きいですね」
アストリアから加護を受けているフィオナもまた、初代剣姫の血筋ではある。が、歴史的に見ると、血筋以外の人間が選ばれることも珍しくない。
実際、アイリスは初代賢姫とは関係のない家の生まれである。
「じゃあレガリア公爵家がいまでも剣姫の末裔だと言われているのはどうして?」
「……良いところに気付きましたね」
王家もレガリア公爵家も、どちらも正当な初代剣姫の血筋である。そして、二代目剣姫様はレガリア公爵家から生まれたが、その後は血筋と関係なく剣姫が生まれている。
「レガリア公爵家がその権威を失墜させた時期もたしかにありました。ですが、ある時期を境に騎士の家系として己を磨き、精霊の加護を得る者を何人も輩出しているんです」
ゆえに、いまでもレガリア公爵家は初代剣姫の末裔として認識されている。
「騎士……じゃあじゃあ、今度城に来るっていうリリエラも強いの?」
リリエラとはレガリア公爵家の娘で、前世で王位についたアルヴィンと結ばれた女性。普通に考えれば、フィオナを追放したことにも関わっていることになる。
「ええ、まぁ……おそらくはそのはずです」
「わあ、じゃあ……楽しみだよ!」
脳筋筆頭の剣姫、フィオナがにへらっと相好を崩す。
だが実際のところ、アイリスは前世を通してもリリエラの実力を知らない。ただ、フィオナが追放された後、アルヴィン王子と結婚しているので手強いのは間違いない。
色々な意味で。
でもって、そのリリエラが王城に現れるのは魔物の襲撃による被害が出た時期だ。つまりは、こちらもあまり時間がない。
彼女が登場するまでに他の問題を片付ける。そのためにも早く隠れ里へ向かう必要があるのだが……なかなか外出の許可が下りない。
催促するべきか――というのがアイリスの現状抱えている悩みである。
もちろん、他にも抱えている問題はある。たとえば、父であるアイスフィールド公爵から、レムリアに肩入れしすぎだという忠告の手紙が届いている。
アイリスはいまでもリゼル国の公爵令嬢という立場である。いくら賢姫として自由が与えられているとしてもやり過ぎれば周囲を敵に回す、という意味である。
そういったもろもろの問題を片付けつつ、フィオナを本当の意味で救う必要がある。そんな風に考えながら、アイリスはフィオナへの授業を再開させた。
数日経ったある日。
その日のアイリスは珍しくはしゃいでいた。
王と王女を救った褒美として所望した、薬草園の設備がついに完成したからだ。
場所は王城のうちにある中庭の片隅で、薬草園にしてはかなりの規模。屋根や日光の当たる方向には二重のガラス窓が張られている温室仕様である。
内部も豪華で、薬草を植える花壇は段々になっている。魔導具によって汲み上げられた井戸水が一番上から流れ落ちていく造りで、さながら聖域のような神秘性を秘めている。
もっとも、いまはまだなにも植えられていないので、すべてはこれからである。
「素敵です。わたくしの注文した通りに造ってくださったんですね」
「まぁな。おまえの要望には最大限応えたつもりだ」
見学に付いてきたアルヴィン王子が答える。
「ありがとうございます、アルヴィン王子。なかなかやりますねっ」
「お、おう……」
いつになく無邪気なアイリスに、アルヴィン王子がガラにもなく照れている。王子のファンである乙女が目にすれば黄色い声が上がりそうだが、アイリスは花壇に夢中で駆け寄った。
「ふふっ。わたくしがお願いしていたよりも大きいですね。これなら余裕を持ってユグドラシルも育てることが出来そうです」
ニコニコと上機嫌のアイリスが愛らしい。そんな風に眺めていたアルヴィン王子だが、彼女の何気ない言葉に疑問を抱いて首を捻った。
「ちょっと待て、アイリス。おまえいま、ユグドラシルを育てるとか言わなかったか?」
「言いましたよ? ユグドラシルの葉はとても上質なポーションを作る材料になりますから」
「いや、なりますから……ではないだろう」
ユグドラシル。それは伝承にある秘薬の材料であり、神話に出てくる大木である。
だが隠れ里で真実を知ったアイリスはクスリと笑う。
「伝説のユグドラシルはトネリコの樹だと言われていますね。ですが、秘薬の原料となるユグドラシルはそれとは全くの別物なんです」
伝説にあるユグドラシルの大木はあくまで架空の存在だ。
だが、それとは別に秘薬の材料が存在する。それの乱獲を防ぐために、神話にある大木と同じ名前を付けて、本来の秘薬の存在を隠したのだ。
「おまえはまた、そんな機密っぽい情報をさらりと……」
「別に口止めされていませんから。私の知る情報を誰に教えるかは私の自由です」
「まぁ……そうかもしれぬが、いや、なんでもない」
賢姫としてリゼルで学んだ知識――国の機密情報だと誤解したアルヴィン王子は呆れつつ、自国に恩恵をもたらすアイリスを止めるべきではないと言葉を飲み込んだ。
それから、更なる情報を引き出すために質問を投げかける。
「ところで、そのユグドラシルというのはどこにあるのだ?」
「さすがに仕入れ先は秘密です。ただ、その苗を仕入れるために、外出許可をいただきたいとお願いしているのですが……?」
そろそろ許可を出してくれませんかねと、アイリスはあざとく首を傾げた。
「ふむ。その件については陛下に進言しておいた。後日返事をくださるだろう」
「そうですか、忘れられていないようで安心いたしました。では、いまのうちに土壌を造っておきましょうか」
アイリスはいざと腕まくりして、更にはスカートの裾をたくし上げる。それを見たアルヴィン王子がぎょっとした。
「待て待て待て、おまえはなにをするつもりだ?」
「もちろん、土いじりでございますわ」
「貴族のご令嬢がなにを考えている。というか、言い方を優雅にすればいいと言うものではないぞ。そういうことは使用人に任せれば良いだろう」
「それは、そうなんですが……」
アイリスはここに来て初めて困った顔をする。
ユグドラシルの存在は、栽培した時点で隠すことが出来ない。だからアイリスも、アルヴィン王子には隠すことなく打ち明けた。
だが、その栽培方法にも秘密がある。
さすがにそこまで明け透けに話すつもりはないのだが――
「困りました。王子に秘密にする方法がありません」
「ここまで来たら話せ、馬鹿。俺が信用できないのか?」
「……うぅん」
前世で追放された直後と比べれば、彼への信用は戻りつつある。少なくとも、フィオナや陛下への暗殺に関わっていなかったのは事実だと認識している。
だが、前世で追放されたのもまた事実で――
「そこで悩むな、失礼なやつめ」
「いひゃいでふ」
ほっぺたをむにっと摘ままれた。
アイリスはアルヴィン王子の手をペチンとはたき落とす。
「……なにを考えているかは想像できるが、まったくもって的外れだ。そろそろおまえは、自分が俺からどう思われているか、少しは考えろ」
「……ん? あぁ、なるほど」
(たしかに、薬草園一つの技術を奪ってわたくしを敵に回すのは得策ではないですものね)
アイリスの予想は少しズレているのだが、それもまた間違いではない。
「ひとまず、ネイトやイヴに手伝ってもらうことにします」
「……そうか」
なぜかふてくされたような顔をされる。
「……言っておきますが、貴方に栽培方法を教えるのと、不特定多数に教えるのは別ですからね? 貴方の息が掛かった使用人を招くとしても、限定的にする必要があります」
「それくらいは分かっている。では、こちらでメンバーの選出をおこなうから、最終的に決めるのはおまえに任せる。それならば問題はないな?」
「そうですね。では、一人はゲイル子爵を指名します」
「……ゲイル子爵だと? なぜだ?」
アルヴィン王子が眉をひそめた。
「農水大臣だからです。あと、干ばつの件から見ても信用も出来そうですし」
「……そうか、分かった。ではそのように手配しよう」
「お願いしますね」
アイリスが微笑むと、アルヴィン王子はクルリと踵を返して立ち去っていった。さっそく薬草園を管理するメンバーの選出をするのだろう。
(相変わらず仕事が速くて助かります)
リゼル国でのアイリスは、このように身軽に動けなかった。王太子の婚約者という地位がついて回り、なにをするにも王太子殿下の許可が必要だったのだ。
なにはともあれ――と、背後に控えている愛らしい使用人達に顔を向けた。
「ネイト、イヴ、土いじりをするので手伝っていただけますか?」
「「ダメです」」
「ダメなの!?」
笑顔で拒絶され、アイリスは令嬢らしからぬ声を上げてしまう。
けれど、腰に手を当てたイヴに「アイリス様、ドレス姿で土いじりをするつもりですか?」と怒られてそれもそうかと納得した。
「では、少し着替えてきますね」
「いえ、自分で土いじりをするところから離れてください」
「そうです。アイリス様が指示を出してくれたら私達がいたします」
イヴの意見にネイトも同調する。
「気持ちはありがたいですが……結構、大変ですよ?」
複数の精霊の加護を持つアイリスは、華奢な見た目からは想像できないほど身体能力が高い。具体的に言うと、屈強な男がようやくといった荷物を片手で持ち上げる。
それを知っている二人は頬を引き攣らせたが、自分達がやると言って譲らなかった。
「では、二人に任せましょう。まずは汚れても構わない服に着替えてきてください」
「分かりました」
「着替えてきますっ!」
ネイトとイヴが無邪気な笑顔で走り去っていく。そういう姿はまだまだ使用人として未熟だが、同時に子供らしくて微笑ましい。
(さて、いまのうちにクズ魔石を取りに行きましょうか)
上質な薬草の繁殖には高濃度の
だが、作物を植えるときに肥料を混ぜるように、薬草を栽培する土に砕いたクズ魔石を混ぜることで、
これこそが、アイリスが隠れ里で手に入れた知識だ。
それに必要なクズ魔石を、別の名目で取り寄せて部屋に保管してある。それを取りに行くために温室を出たアイリスは――ほどなく不穏な気配を感じて魔術による結界を構築した。
刹那、撃ち込まれた剣と結界がぶつかり合い、リィンと甲高い音が鳴り響く。
(なんだか、前にもこんなことがありましたね)
襲撃者である少女――噂のリリエラを眺めながら、アイリスは溜め息をついた。
二章の投稿開始です。二章はエピソードが4つ、各数話で合計19話? で、少し投稿が変則的になります。(エピソードごとに2、3日おきに投稿した後、次のエピソードまで2週間ほど開きます。(次は19日)