第八十八話 フェルとスイ、ワイバーンを蹂躙する
今日は88話と89話を更新です。
只今、ワイバーンが襲来して超危険地帯と化した西の草原に来ています。
本当は来たくなかったんだけどね。
いや、本当の本当に来たくなかったんだよ。
『フンッ、あれか。我が物顔で飛びおってからに』
1、2、3、4……ワイバーンが全部で12匹か。
ず、随分とデカいな。
飛んでる姿を見ると、ワイバーンっていうより映画で観た恐竜のプテラノドンにそっくりだ。
フェル、本当に大丈夫なのか?
「ギャーッ、ギャーッ、ギャーッ」
き、汚い鳴き声だな。
って、あれ?
ワイバーン、こっちに向かってきてないか?
『気付きおったか』
「って、は? ね、狙われてんのかっ? ど、ど、ど、どうすんだよッ?!」
『うろたえるな。結界が張ってあるから大丈夫だ』
「い、いや、そうは言っても……」
『あれと戦うのー?』
そう言ってスイが鞄からピョンっと飛び出した。
「あ、スイ、出ちゃダメだっ」
『そうだ、スイ』
『大きいのが飛んでるね~』
『飛んでいる獲物の狩りを教えてやる。付いて来い』
『うんっ』
「って、え? い、行くのか? ってか、スイに変なこと教えんなっ」
『お主はここで待っていろ。スイ、行くぞ』
『はーい』
「あ、ま、待てッ」
俺の言うことも聞かずにフェルはスイを連れてワイバーンに向かって行ってしまった。
俺たちを狙って低空を滑空するワイバーンたち。
今にも襲ってきそうだ。
「ったく、人の言うことを聞けってのっ」
フェルとスイは300メートルくらい離れたところ、ワイバーンの真下にいる。
『いいか、スイ。飛んでいる獲物を狙う場合、まずは頭か翼を狙うのだ。頭は当たれば即死だが、的が小さいから外れる場合もある。そういうときは、翼を狙うのだ。翼を傷つければ大抵のものは落ちる。落ちたところを狩るのだ』
念話に切り替えたのだろう、フェルの声が頭に響く。
『分かったよ。頭か翼だね。スイ、やってみる』
お、おいおい、やってみるって、スイは何やるつもりだ?
ん?あれは触手か?
スイの体から細長い棒のようなものがワイバーンに向かって突き出されていた。
「ギャッ、ギャーッ!」
飛んでいたワイバーンのうち1匹が墜落した。
『あ~外れたー。頭を狙ったのにー』
ス、スイ、あの触手から酸弾を飛ばしたのか?
スナイパーかよっ?!
『先ほども言っただろう。頭は的が小さいから外す場合もあると。だが、なかなかいい当たりだったようだ。そのワイバーンも翼の付け根に当たっているみたいだから、もう飛ぶことはできまい』
『わーい、褒められた~。どんどん当てるよー、エイッ、エイッ』
スイが酸弾を当てて、どんどんワイバーンを撃ち落としていく。
『スイにばかり手柄を取られては敵わんな。我もやるぞ』
フェルがそう言うと、バレーボール大の石が数個飛んでいき同時に3匹のワイバーンを撃ち落とした。
…………何なの、この2人。
フェルもスイも強いとは思ってたけどさ、飛んでる魔物をこうも簡単に撃ち落としてるの見るとさ、何かもうどうにでもしてくれって感じだぜ。
『よし、全部撃ち落としたな』
『うんっ』
『そうしたら、こいつ等を始末するのだが、こいつ等の肉は美味いのだ。だから、あまり傷をつけないようにしたい。その場合1番良いのは首を切り落とすことだ。このような感じでな』
スパッ、ゴロリ……。
フェルが風魔法を使ったのだろう。
ワイバーンの首がスパッと切断されて頭が転がる。
…………フェ、フェルさんや、いきなり首ちょんぱですか。
『分かった。スイもフェルおじちゃんみたいにやってみる』
『此奴等は魔法耐性が少しばかりあるからな、魔法で切り落とすならば少し多めに魔力を込めるといいぞ』
『うんっ』
そう言うと、スイがワイバーンに近づいてスパッと首を切り落とした。
ウォーターカッターを使ったのか?
『やったー! できたよー』
『うむ。なかなか良かったぞ。コツは掴んだな。スイ、どんどん切り落としていくぞ』
『うんっ』
2人が次々とスパッスパッとワイバーンの首を切り落としていく。
ちゅ、躊躇がねぇな。
な、なんかさ、俺のスイたんが、なんかフェル化していっている気がしないでもないのだが……。
このままいったら伝説のスライムとか言われんのか?
い、いやいやいや、そ、そんなことはない、絶対ない。
ずっとかわいいスイたんのままだ。
「ギャーーーーースッ」
一際大きな鳴き声とともに突風が吹いた。
ゲッ……。
俺の目の前に1匹のワイバーンが舞い降りていた。
ワイバーンは12匹じゃなく13匹いたみたいだ。
俺、もしかして、死んだ?
「ギャーッ、ギャーッ、ギャーッ!」
仲間を殺された目の前のワイバーンがめっちゃ怒ってる。
「うおおおおおーーーいっ、フェル何とかしてくれーーーーーッ!!!」
カツンッ、カツンッ、カツンッ、カツンッ、カツンッ。
尻尾の毒針で攻撃しようと何度も何度も突き刺してくる。
しかし、フェルの張ってくれた結界に阻まれているおかげで、何とか助かっていた。
カツンッ、カツンッ、カツンッ、カツンッ、カツンッ。
「ひぃぃぃぃぃっ」
何度も何度もあきらめることなく毒針を振り上げるワイバーンに腰が引ける。
『まだ1匹残っていたか、死ぬがいい』
ザシュッ。
いきなりワイバーンの頭が目の前で吹っ飛んだ。
頭を切り落とされた首からピューピュー血が噴き出している。
ドスンッ。
ワイバーンの巨体が崩れるように横に倒れた。
『わーフェルおじちゃんつよーい』
はしゃぐスイがポンポン飛び跳ねている。
「た、助かった…………」
『まったく、お主はうるさいのう。ワイバーンごときの攻撃で我の結界がどうこうなることはないというのに』
「ワ、ワイバーンごときって……はぁ。あんな巨体で来られて、毒針で攻撃されたら怖いんだよ」
お前と一緒にすんなつーの。
『ワイバーンの群れというから期待していたのだが、少数の群れだったようだな。スイもいたし、運動という運動にはならんかったな』
12いや13匹の群れで少数ってな……。
まったくフェルの強さの底が知れないよ。
「さて、ワイバーンを回収して帰ろうか」
『ぬ、まだ帰らんぞ。飯を食ってからだ』
『スイもお腹すいたからご飯食べたいー』
……最後はそうなるんだねぇ、はぁ~。
まぁ、飯のためにここに連れて来られたようなもんだからな。
しょうがない、作りますか。