第八十七話 ワイバーン襲来 2
今日は86話、87話を更新です。
受付の前のフロアに人垣ができていた。
「どけどけっ」
ギルドマスターのその声に人垣が割れる。
人垣の中心には血まみれの男が横になっていた。
確か、ワイバーンって毒があるやつは尻尾に毒針があるんだよな?
男は、その尻尾の毒針で腹を刺されたらしく、腹の傷から血がドクドク流れている。
しかも、傷の周辺が紫色に変色していた。
ギルドマスターが俺の渡したスイ特製上級ポーションを、男の腹の傷に振りかけた。
スイ特製上級ポーションを振りかけた男の腹の傷はみるみるうちふさがって紫色に変色してた部分も普通の肌色に戻っていく。
「な、何だこれはっ……傷がふさがると同時に毒までも…………」
そう言って、ギルドマスターが何か言いたげに俺の方を見た。
い、いやさ、こっち見ないでほしいんだけど。
俺はギルドマスターと目を合わせないようにして知らぬ存ぜぬを押し通した。
冒険者がたくさんいるこんな場所で説明なんかできんでしょ。
「ま、まぁ、こいつはもう大丈夫そうだ。救護室に運び込んで寝かせておけ」
ギルドマスターがギルドの職員に指示を出して立ち上がり、大声で呼びかけた。
「おいっ、お前らも知ってのとおり、ワイバーンの群れが出たっ。Cランク以上の冒険者には拒否権なしで出てもらうぞ。これはこのギルドからの緊急クエストだ!」
ギルドマスターの言葉にフロアにいた冒険者たちがザワついた。
「静かにしろっ! ワイバーンと聞いて尻込みするのも分かる。だがな、お主らが行かねば、ワイバーンがこの街を襲うのも時間の問題だ! 冒険者というのは、こういう時のためにいるもんだ。お主たちは冒険者だろう。冒険者として、一致団結してこの街を救うのだッ!」
「「「「「「応ッ」」」」」」
うわぁ、盛り上がってんなぁ。
って、あれ?
Cランク以上は拒否権なしって言ってなかったか?
……俺、Cランクじゃねーかッ!!!
『人間どもよ、待て』
今まで静かにしていたフェルがそう言った。
騒々しい冒険者ギルド内にフェルの声が不思議と響き渡る。
一瞬でシーンとなる。
「フェンリルだ……」「あれ、グレートウルフじゃなかったのかよ?」等とささやく声がかすかに聞こえた。
『我がそのワイバーンの群れを始末してきてやろう』
は?何勝手に言ってんの?
「ちょ、フェル何言ってんだよ?」
『ぬ、いいではないか。ちょうどいい運動になる。それにワイバーンの肉は美味いと言っただろう』
「いやいや、そうじゃなくてな」
『おい、そこの人間、ワイバーンを始末したらそれは全部我らのものとなるのだろうな?』
フェルがギルドマスターを見て、そう問いただす。
「も、もちろんだ。討伐したワイバーンは討伐者のものとなる。それに、討伐してくれれば報酬も出すぞ」
『よし、それならば早速行くぞ。久方ぶりに思いっきり暴れるか』
いやいやいや、お前さ、人の話聞けってば。
ってか思いっきり暴れるってダメに決まってんだろ。
「思いっきり暴れるって、止めてくれよな。ワイバーンじゃなくお前のせいで街がどうにかなりそうだよ。本当に止めてくれよ。ほどほどにだからなっ」
『ぬ……』
『あるじー戦うのー? スイも戦うよー!』
スイまで鞄から体を出して、そう念話で伝えてくる。
俺たちを黙ってみていた冒険者たちの間から「ん、あれ、スライムか?」「スライムを従魔にしてるなんてな」等とささやく声が聞こえる。
『馬鹿者どもが。スイはスライムだがお主たちが束になってかかっても敵わんわ』
フェルがそう言うと、再び場がシーンとする。
スイを庇うのはいいとしてさ、これ、もう完全にフェルがフェンリルだってバレバレじゃねぇか。
はぁ~、今まで核心にふれずに何とか誤魔化してたってのに。
まぁ、国からお墨付きをいただいているこの国でだから良かったと言うべきなのか……?
「フェル様、あなた様の力でこの街をお救いください」
そう言って、ギルドマスターが頭を下げた。
『うむ。あい分かった』
フェルはそう言って頷いた。
「ムコーダさんもよろしくお願いします」
え?ギルドマスター、そこで俺に振るの?
「分かってる奴は分かってたと思うが、改めて言う。フェル様やムコーダさんに変なちょっかい出すなよ。それは、この国の意向でもあるんだからな。変なちょっかい出した奴はこの国にいられなくなるからな。その場合、冒険者ギルドは助けんぞ」
え、えー、ギルドマスターもここでそれ言う?
『おい、乗れ』
「え?」
『ワイバーンを始末しに行くのだ』
「いやいやいや、お前1人で行って来いよ。俺はここで待ってるからさ」
『馬鹿者。運動した後は腹が減るではないか。お主がいねば食えんだろう』
な、何それ、飯のためにワイバーンがいる危険地帯に俺に一緒に行けっていうのか?
『いいから、早く乗れ』
「ムコーダさん、この街の危機なんです。よろしくお願いしますよ」
ギ、ギルドマスター、俺を犠牲にするつもりですか?
『早くしろっ』
フェルが焦れて俺に体当たりしてくる。
「うおっと」
俺が倒れたのがちょうどフェルの背中だった。
『しっかり掴まらんと、振り落とされるからな』
「くそっ、何でこうなるんだよ」
仕方なくフェルにしがみつく。
そんな中、冒険者たちの声が聞こえた。
「助かった……」
「ああ。ワイバーンの群れだぞ。ここにいるCランク以上が行ったとしても、半分は死んでいただろうな」
…………そ、そんなに危険なわけね、ワイバーンて。
『では、行くぞ』
その声の後、フェルが西の草原に向かって走り出す。
何でこうなるんだよーーーーーッ!!!