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第八話 自分の食い扶持は自分で賄ってくださいよ

 ひょんなことからフェンリルのフェルが旅の一員になって、もうすぐフェーネン王国というところまで来ていた。

 俺を真ん中にして、先頭はリタ、俺の右側がヴィンセントで左側がラモンさん、俺の後方右側がフランカで後方左がヴェルナーさんといういつもの布陣に最後尾をフェルがのそりのそりとついてくる。

 ヴェルナーさんが思案気な顔で溜息を吐いた。

「どうしたんですか?ヴェルナーさん」

「いやな、もうすぐ国境だが、どうしたもんかと思ってな」

 ん?どういうことだ?

「いやいやいや、ムコーダさん、これ俺ら絶対止められるから」

 ヴィンセントがチラリと後ろを見てそう言った。

 あー、フェルがいるもんねぇ。

「国境警備兵が勢ぞろいで出てくるだろう。だが、害意がないと分かれば引くとは思うのだが……」

「ヴェルナー、引く引かないの前に王国軍が総出で対峙したとしてもフェンリルには敵うまい」

「まぁ、ラモンの言うとおりではあるな」

「え、あのフェンリルが一国を滅ぼしたっておとぎ話って本当にあったことなのか?」

「リタ、あれはおとぎ話ではなく史実だと言われているのですよ」

 えーっと、俺の耳おかしくなったかな?

 一国を滅ぼしたとかなんとか、冗談だよね?

「従魔だと認められて入国できたとしても、今度は間違いなく国が出てくるだろう」

 俺を見ながらヴェルナーさんがそう言った。

 え、俺?今度は何なの?

「フェンリルと従魔契約を結んだムコーダさんを国が放っておくはずがない。ムコーダさんを囲い込めば漏れなくフェンリルも付いてくるのだからな」

 え、ラ、ラモンさんそれホント?

 国がどうこう言ってくるとか非常に面倒くさいんですけど。

『心配には及ばん。我や此奴に害なすならば受けて立つだけのこと』

「いえいえいえ、そ、それがマズいのです。フェンリル様『フェルだ』……フェ、フェル様が本気になられますと、国が滅びます」

『手を出すならば、滅べばいいのだ』

 いやいやいや、フェ、フェルさんや、それちょっと好戦的過ぎやしませんか?

『それが嫌ならば我らに手出ししなければいいだけの話。簡単なことよ』

 フェルの言い分に、アイアン・ウィルの面々はあんぐり口を開けていた。

『そんなことよりも、もうそろそろ飯の時間ではないのか?』

 そのフェルの一声で昼休憩となった。



 あーヤバい。

 アイアン・ウィルの面々が狩ったレッドボアの肉がピンチだ。

 いくら使ってもいいと言われてても限度があるだろう。

 昨日のフェルの分の生姜焼きと、朝から肉肉肉と言って聞かないフェルに今朝もレッドボアの焼肉を出してけっこうな量を使ってしまった。

『おい、我は肉を所望するぞ』

「ってやっぱり昼も肉なんだ。レッドボアの肉は俺のものじゃないんだから、そんなに肉が食いたいなら自分で獲ってこいよ」

『む、そうか。すぐに獲ってくるから待つのだ』

 そう言ってフェルは道の脇の森に駆けていった。 

「ム、ムコーダさん、レッドボアの肉使ってもらっていいんだぞ」

「いやいやいや、そんなわけにはいきませんよ。せっかく皆さんが狩った獲物なのに、フェルが食いつくしちゃうことになりますから。それに、こういうのは甘やかすのは良くないですからね。この先私に付いてくるつもりなら、自分の食い扶持くらいは自分で賄ってもらわないと。私に狩りはできませんし、こんなに大量の肉を毎回買うなんてできませんしね。そんなことしたら私は破産してしまいますよ。ハハハ」

 伝説の魔獣だってんなら自分の食う分くらい獲ってこれるでしょ。

「ムコーダさんはすごい人だな……」(ヴェルナーさん)

「すごい、すごいよっ、ムコーダさんっ」(リタ)

「すごいっすムコーダさん。あのフェンリルに命令できるなんて尊敬します」(ヴィンセント)

「一国をも滅ぼすフェンリルに命令するなんて勇者ですわね」(フランカ)

「あのフェンリルに指図できる者がいるとはな」(ラモンさん) 

 えーそんなこと言われてもねぇ。

 フェンリルって伝説の魔獣とか言われてすごいのかもしれないけど、あいつ、フェルは食い物に釣られて従魔契約結んだヤツですからねぇ。

 食い物に釣られるとか、はっきり言ってアホとしか思えないんですが。

 怖いから本人には言いませんけどね。

 そうこうしてるうちにフェルがデカい鳥を銜えて戻ってきた。

「ロ、ロックバードだ……」

 アイアン・ウィルの面々が呆けた顔で鳥を銜えたフェルを見ていた。

「ロックバードってフェルが獲ってきたあの鳥ですよね?」

「ああ、Bランクの魔物だ。俺たちが全力で戦って勝てるかどうかってくらいのな」

 おい、そんなの獲ってきたのか?

『獲ってきたぞ。早く飯を作れ』

 いやさ、目の前にデカい鳥置かれて飯作れって言われてもね。

 俺、解体とかできないよ。これは頼むしかないね。

「フェル、俺は解体なんかできないぞ。こちらの方々に頼むしかないけど、その代金の代わりに肉以外の素材全部渡してもいいか?」

『我は肉が食えれば文句はない』

「ということなので、解体をお願いできますでしょうか」

 そう言うとアイアン・ウィルの面々が「イヤイヤイヤ」と言って首をブンブン振っている。

「解体しただけで、ロックバードの肉以外の素材全部とか、もらい過ぎだからっ」

 とは言っても、こいつの食事のために俺の懐から金を出すのは嫌だしな。

「いえいえ、レッドボアの肉もフェルが食べて大分減ってしまってますし、フェルもああ言っていることですから受け取ってください」

 アイアン・ウィルの面々は最後まで「もらい過ぎだ」って言ってたけど、何とか納得してもらった。

 だって、元々フェルが獲ってきたものだからタダだしね。

 それに入国で一悶着ありそうだから、ここで恩を売っておいた方が後々協力してもらえそうだしな。

 ということで、ロックバードはアイアン・ウィルの面々によって見事に解体された。

 そして、鳥だったらこれかなってことで、ネットスーパーで買った照り焼きのたれでロックバードの照り焼きを作ることにした。

 まずはフライパンでロックバードの両面をこんがりと焼く。

 ここで余分な脂が出てきたらキッチンペーパーなんかで拭いた方がいいんだけどここは異世界な上に野外だからそんなことしてられないので、フライパンを傾けて余分な脂を捨てる。

 そこに照り焼きのタレを投入。

 タレが煮立ってきたら、それをロックバードの肉に絡めてと、はいロックバードの照り焼きの完成。

 スープは今回はフリーズドライのオニオンスープにしてみた。

 こっちの方が具だくさんだしね。いつもインスタントのコンソメじゃ味気ないし。

 出来た料理は先にアイアン・ウィルの面々に配っていく。

『おい、我の分は?』

「フェルはたくさん食べるんだから、先にみなさんに出してからだよ。すぐ作るからちょっと待ってて」

『む、分かった』

 それからはフェルのために照り焼きを作りまくったよ。

 ロックバードの照り焼きはフェルがいたく気に入ったようで、俺らが食べた分以外は全部フェルの腹に収まった。

 ロックバードの照り焼きは美味かったし、俺も気に入ったけど、次はもっと落ち着いて味わいたいもんだねぇ。






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