第七十三話 変なフラグ立てんなよ
今日は72話、73話を更新です。
「一仕事終わったし、とりあえず飯にするか」
『うむ、それがいい。ちょうど腹が減ってきたところだった』
『ごはんー』
そう思ったんだけど……。
ブラッディホーンブルは片付いたけど、血の池はそのままだったね。
鉄臭い匂いが辺りに充満している。
「あー、ここではちょっと食う気がしないな」
『血の匂いがきついか。これだけきついと他の魔物がよってくるかもしれんしな』
「えっ? それはマズイ。さっさと逃げるぞ」
『まぁ、待て。スイ、ここの血を綺麗にできるか?』
『んー、この赤いのなくせばいいの?』
『そうだ』
『できるよー。ちょっと待ってて』
フェルの言葉を受けて、スイがブルブル震えだした。
増殖のスキルだな。
スイがデカくなってビッグスライムになると、すぐに小さいスライムに分裂していく。
『みんなー、あの赤いの全部吸い取っちゃってー』
スイの指示にしたがって小さいスライムたちが血の池に向かっていく。
そしてブラッディホーンブルの血を吸い始めた。
瞬く間に血の池はなくなり、踏み荒らされた草地と赤く染まったたくさんの小さいスライムが残る。
『スイ、よくやった』
『うふふ、フェルおじちゃんに褒められちゃったー』
『スライムは雑食だからな、いけると思ったのだ』
……何かもう、スイは何でもありだな。
「スイ、あの小さいスライムはそのままでも大丈夫なのか?」
『うん、多分真っ暗になるころにはいなくなっちゃうよ』
分裂体には寿命があるみたいだから、夜には消えるのか。
『あるじー、スイお腹空いたよ』
あーはいはい。
じゃ飯にしますか。
「はい、これ。かつサンドとチキンカツサンドだ」
かつサンドとチキンカツサンドが山盛り載った皿をフェルとスイの前に出してやった。
揚げてあったとんかつとチキンカツを使って昨日の夜のうちに準備しておいたんだ。
スイは辛いのはダメそうな気がしたから、からし抜きで作ってみた。
パンにバターを塗って千切キャベツを載せてマヨネーズを気持ち多めにかける。
その上にとんかつを載せて、とんかつソースをたっぷりかけてバターを塗ったパンで挟み込む。
そして半分に切って出来上がりだ。
チキンカツサンドも同様に。
『『おかわり』』
「はいよ」
かつサンドとチキンカツサンドが山盛り載った皿を再びフェルとスイの前に出してやる。
ふふふ、作っておいたからすぐに出せるんだぜ。
今までは旅の途中だったりで作っておく暇がなかったけど、この街にいる間にいろいろと作り置きしておくといいな。
肉もたっぷり手に入ったところだし、暇をみていろいろ作っておくことにしよう。
かつサンドにかぶり付く。
うんまいねぇ。
このシチュエーションもいいね。
ブラッディホーンブルのあれがなきゃ、楽しいピクニック気分なんだけど。
いかんいかん、あれを思い出したら飯が食えなくなる。
頭をまっさらにして、かつサンドをガブリ。
あー、かつサンド美味い。
キャベツとマヨとかつとソースが混然一体となって、ク~美味い。
実を言うと俺の分にはからしが塗ってあるから、からしのピリッとした辛さがアクセントだ。
青空の下で食うのも最高だね。
チキンカツサンドもいいね。
あー、ビール飲みたい。
『あるじー、シュワシュワしたの飲みたいな』
『我にも頼むぞ』
「ああ、コーラか。炭酸飲料が飲みたいなら……ちょっと待っててな」
俺はネットスーパーでサイダーと自分の分の缶コーヒーを購入した。
かつサンドってことでビールが飲みたいところだが、昼間なので自重したよ。
二人のためにサイダーを皿に並々と注いでやった。
「はい、どうぞ」
『あれ? この間のと違うねー』
「これはサイダーって言ってな、この間のとは違うけど、これもシュワシュワして美味しいぞ」
『飲んでみるー』
スイがゴクゴク飲み始めた。
『うんっ、あるじの言うとおりこれも美味しー』
そうか、良かった。
『うむ。これも舌の上で弾けて美味いぞ。ゲェップ……』
「ブフッ」
フェルのヤツ盛大にゲップしてるな。
「アハハ、炭酸飲んだからだよ。炭酸は美味いけどゲップが出るのがね」
俺たち三人は青空の下そよ風の吹く草原の中での食事を楽しんだ。
「さーて、そろそろ帰ろうか」
食事後の多めの休憩時間の後、フェルにそう声をかける。
スイは鞄の中でお昼寝中だ。
『うむ、そうだな。しかし、昨日のミスリルリザードといい今日のブラッディホーンブルといい、準備運動にもならんな』
ミスリルリザードとブラッディホーンブル相手にそんなことを言えるのってフェルだけだと思うぞ。
『もっと骨のある相手はいないのか?』
「もっと骨のある相手ってどんなのだよ?」
『そうさな、ドラゴンなら少しは運動になるな。ドラゴンが無理ならば、せめてワイバーンの群れくらいいればいいのだがな』
…………や、止めてくれ。
変なフラグ立てんなよ。
ってか、まさか、ドラゴンなんてないよな?
ワイバーンの群れとか言うのも止めてくれよ。
「ド、ドラゴンとかワイバーンとか、へ、変なこと言うなよ」
『変なことではないぞ。ドラゴンもワイバーンも時たま人の街に出ることもあるのだぞ』
「やめれ。お前が言うと来そうで怖いよ」
『フンッ。来たところで我が返り討ちにしてくれるわ』
いやさ、返り討ちにしてくれるわじゃなくてさ、ドラゴンとかシャレにならんし。
『お主は知らぬのかもしれんがな、ワイバーンの肉もドラゴンの肉も美味いのだ。特にドラゴンは美味いのだぞ』
そんなん知らねぇよ。
こちとらワイバーンもドラゴンも食ったことあるわけないだろうが。
『海に行った後には、ドラゴン狩りに行くのもいいな。うむ、そうしよう』
いやいやいや、そうしようじゃなくってさ。
勝手に行き先決めないでくれる?
『ほら、乗れ。帰るぞ』
はぁ~、フェルは本当にゴーイングマイウェイだな。
海に行くのはいいけど、俺は絶対にドラゴン狩りになんて行かないからなーーーっ。