第七十二話 ブラッディホーンブル
今日は72話と73話更新です。
俺たちはブラッディホーンブルの群れの討伐に来ていた。
街の西側にあるだだっ広い西の草原。
それにしても西にあるから西の草原って安易な名前だな。
まぁそれはさておき、この西の草原にブラッディホーンブルの群れが住み着いてしまっているということだ。
ギルドマスターから話を聞いた感じ、大きさはサイくらいの大きさだし、気性も荒いっていうし、それに加えて群れでいるっていうのが何ともやっかいだ。
実際に討伐するのはフェルなんだけど。
とりあえず邪魔にならないようにするべしだな。
「フェル、どの辺りにブラッディホーンブルがいるのか分かるのか?」
『ああ、分かっている。ここからだと少し離れているあの辺だな。近付いて始末するぞ』
フェルが見ている方向を見ると、小さい黒い点が所々に見えた。
「気付かれちゃマズイだろ? 俺とスイはここで待ってるよ」
『そうだな。その方が早い。全て倒したら念話を入れる』
「分かった」
フェルが草原の草に隠れるように背を低くしながら進んでいった。
俺はというと、草原の草の中寝そべるように身を隠した。
頭の横に置いた鞄の中からスイが這い出てくる。
『フェルおじちゃんどこ行ったの?』
「大きな牛さんを倒しに行ったよ」
『ズルイっ。スイも牛さん倒したいよっ』
「え? でもね大きい牛さんがたくさんいてとっても怖いんだよ。スイはここで待ってよう」
『ヤダヤダヤダ。スイも牛さん倒しに行くっ』
そう言ってスイが素早い動きで這って行ってしまう。
「あっ、コラっ」
うわっ、もうあんな所に。
スイ、早ッ。
「あーもうっ」
俺はスイを追って
必死で
「フゥ、フゥ、やっとか……」
一息ついていると、フェルがゆっくりした足取りで近づいてくる。
『お主、何をやっとる?』
え、何って、ブラッディホーンブルに見つからないように
『ブラッディホーンブルはすべて始末したぞ』
……は?
え、もう終わっちゃってるわけ?
早過ぎなんだけど。
俺は、よっこらしょと立ち上がる。
ずっと
背中をグーッと後ろに反らせて背中の筋肉を解していく。
ふーっと息を吐いて目の当たりにした血まみれの草原。
…………何、これ。
巨大な黒牛が血の池に横たわっているよ。
何頭も何頭も。
何なの、この殺伐とした風景。
そよ風が吹く大草原なのにさわやか度ゼロ。
『あ、あるじだー。スイ、大きい牛さん倒したよー』
俺に気付いたスイがポンポン飛び跳ねながらこちらに来る。
『あるじあるじ、あのね、大きい牛さんたちをスイとフェルおじちゃんで倒したんだよー。最初はね、フェルおじちゃんがバッて腕を振るったら風が吹いてね、大きい牛さんたちがいっぱい倒れたの。でも、倒れなかった大きい牛さんもいたから、それをスイがねビュッビュッてして倒したのー、すごいでしょー』
スイが興奮気味に俺と隣にいるフェルの周りをポンポン飛び跳ねながらそう言った。
最初はフェルがおそらく風魔法を放って、撃ち漏らしたのをスイが酸弾で仕留めたってことか。
『うむ、スイもなかなかいい動きをしておったぞ』
へ、へ~、そうなの。
フェルとスイの最強タッグに狙われたブラッディホーンブルが哀れ過ぎるぜ。
きっと何もできないまま天国に逝ったんだろうね。
うん、君たちは俺たちの糧にさせていただきますよ。
さて、ブラッディホーンブルをアイテムボックスに入れていきますか。
って、近くで見るとホントでっかい牛だな。
1頭、2頭、3頭、4頭、5頭、6頭、7頭、まだまだいるな。
ギルドマスターには半分はこっちで半分はギルドに卸すって言ったけど、もうちょいギルドに卸してもいいかもしれなかった。
何せ1匹がサイくらいの大きさあるんだもんな。
フェルとスイがいくら大食いだって言ったって、あれ1匹食いきるのには数日を要するだろう。
群れの半分の肉って言ったら相当な量だぜ。
それに、牛肉ばっかりでも飽きるだろうから、間に他の肉料理を出すとなれば、群れの半分の肉があったらしばらくは牛肉確保の必要はないね。
フェルとスイが牛肉に飽きなきゃいいけど。
そこは俺もがんばらなきゃね。
二人が飽きないようにいろんな牛肉料理を出してやるとしよう。
よしと、ようやく全部入ったな。
ブラッディホーンブルは全部で58頭いたよ。
これの半分か。
29頭分の肉か……。
す、すごい量の牛肉だな。
ま、まぁアイテムボックスに入れておけば悪くはならないからいいけど。