第六十七話 ランベルトさんの店
ランベルトさんのお店の前まで来たんだけど、思ったより大きくて立派な店でちょっと気後れしている。
思い切って中に入ると、ちょうどランベルトさんがいた。
「おおっ、ムコーダさん、いらっしゃい。よく来てくださいました」
「あ、どうも。フェルもいるんですけど、大丈夫ですか?」
「ああ、どうぞどうぞ」
ランベルトさんの店は大きくてフェルが入っても余裕がありそうだ。
フェルは隅の方で早速寝転んでいる。
「あの、実は鞄を新調したいと思いまして……」
「そうですか、どんな鞄をお求めで?」
「えーっとですね、この布の鞄のように肩から掛けるもので大きさもこれくらいのものを」
らいのものを」
そう言うと「こちらなんてどうでしょう」と肩掛け鞄をいくつか見せてくれた。
形はメッセンジャーバッグっぽい感じで、だいたいどれも似ている。
大きなフラップでマチもけっこう広めにとってあるから、スイが入るのにはどれも問題ないようだな。
肩に掛けるベルト部分も太めに出来てるから肩に食い込むこともなさそうだ。
あとは使われている革の好みか。
「これはレッドボアの革を使っております」
どれどれ、濃茶の柔らかいヌメ革だな。
使っていくうちに味が出ていい感じになりそう。
「こちらはブラッディホーンブルの革です」
おおタイムリーだね。
近いうちに討伐にいくやつだ。
これは黒い革だな。
触った感触はレッドボアの革に似て柔らかい。
でもこっちの方が少し厚みがあるかも。
「そしてこちらがジャイアントディアーの革です」
ジャイアントディアー、あのデカい鹿だな。
これはベージュに近い茶色の革だな。
硬くてしっかりしたヌメ革だ。
使っていくうちに飴色になっていい味出しそう。
「こちらがサンドスネークの革です」
サンドベージュで蛇特有の鱗模様が綺麗だな。
これは鞄とかよりも財布とかの小物で欲しい。
「そしてこちらが一押しのブラックサーペントの革です。ブラックサーペントの革は、なめして艶を出してと手間がかかるうえに元々高ランクの魔物ですから、値段はそれなりになってしまいますが、とても人気ですよ。この艶、見てください。見事なものでしょう」
おお、あのブラックサーペントか。
漆黒の革に蛇特有の鱗模様が浮かぶ。
サンドスネークの革と違って艶がある。
いかにも高級品って感じだ。
これも俺としては小物で欲しいところだな。
「ランベルトさん、どれも素晴らしいですね」
「ありがとうございます。どれもうちの職人が丹精込めて作った自慢の品です」
「それで、値段の方はどうなんでしょうか?」
「レッドボアの鞄が金貨2枚、ブラッディホーンブルの鞄が金貨5枚、ジャイアントディアーの鞄が金貨4枚と銀貨5枚、サンドスネークが金貨8枚、ブラックサーペントの鞄が金貨17枚となっております」
ランベルトさんがそれなりの値段になるって言ってたけど、ブラックサーペントの鞄は高いな。
サンドスネークも高いけど、これは産地がこの国の南の方でこの街までの輸送にコストがかかるらしくこの値段になってしまうんだそう。
それでも、この蛇特有の鱗模様が綺麗だと人気があるそうだ。
ブラックサーペントとサンドスネークの革は高級感がありすぎて、普段使いの鞄にはちょっと向かなそうな気がするな。
スイを連れていくのに毎日持ち歩く鞄として、これはちょっと……。
財布なんかの小物なら欲しいと思うんだけど。
「レッドボアの革は値段も抑えめですし普段使いにするならおすすめです。ブラッディホーンブルの革も黒色が特徴で革も柔らかく使いやすいです。何かの記念なんかに奮発するならこれをおすすめします。あとジャイアントディアーの革は最初は硬いのですが、使い込むほどに柔軟になって色も濃い色に変わっていきますので長く愛用するならこれがおすすめですね」
なるほど、個人的にはジャイアントディアーの革がめっちゃいいと思う。
でもスイが入るには革がちょっと硬いんだよね。
自分で使うならジャイアントディアーの革なんだけどさ。
それを考えると、レッドボアかブラッディホーンブルの二択か。
「ランベルトさん、ちょっとスイ、あーっと私の従魔のスライムを出していいですか?」
「スライムですか?」
ランベルトさんが、なぜスライムを?てな感じで不思議そうな顔をしている。
「えーと実は……」
布の鞄の中をランベルトさんに見せた。
「ああ、なるほど。従魔を入れるのですね。それでしたらレッドボアかブラッディホーンブルなどの柔らかい革の方が良いかもしれませんね」
「ええ、私もそう思っていたところです。それで、それなら本人に居心地のいい方を選ばせようかと」
スイを鞄から出して抱き上げる。
「スイ、スイが入るのにどっちの鞄がいい?」
そう聞くと、スイが俺の腕から飛び降りて素早い動きでレッドボアの鞄の中に入ってしまった。
『スイ、こっちがいい』
「あ、ランベルトさん、すいませんっ」
「いやいや、大丈夫ですよ。では、こちらのレッドボアの鞄でよろしいですか?」
「はい。お願いします。あ、それと、ナイフの鞘が欲しいんですが……」
ナイフの鞘で腰のベルトから下げられるタイプが欲しいのだとランベルトさんに説明した。
「ああ、そういうのでしたらこちらなんかどうですか?」
ランベルトさんが見せてくれたのは、ジャイアントディアーの革で出来たベルトに鞘が付いてるものだった。
「これ、いいですねぇ」
こういうのが欲しかったんだよ。
これ、めっちゃイイ感じ。
「おいくらですか?」
「これはバックルに細工がしてありまして、金貨6枚になります」
ランベルトさんの言うとおり、よく見るとバックルに細工が施してある。
こういう細かい仕事がしてあるから高めなのか。
うーん、どうしよ。
収入もあったし、よし買っちゃえ。
「これでお願いします」
「ありがとうございます」
それからランベルトさんに誘われ店内を見て回った。
「あ……」
そこでサンドスネークの財布に目が留まった。
これ、いいな。
この世界はみんな硬貨だからそれを入れる手のひらサイズのシンプルな財布。
鱗模様がさっきの鞄よりも綺麗に出ている。
欲しいかも……。
「気に入りましたか? サンドスネークの革を使っていますが、小物なので金貨1枚と銀貨5枚です。その革は特に鱗模様が綺麗に出ているようですね」
金貨1枚と銀貨5枚。
えーい、買う、買うぞっ。
「これもお願いします」
更に店内を見ていると、靴が並んでいた。
「こちらでは靴も取り扱っているんですね」
「ええ。革製品ですからね」
靴か……自分の足元に目がいく。
こっちの世界に来たときから履いているチェーン店で買った安物の革靴だ。
こちらの舗装されていない道や山道を歩いて大分くたびれてしまった。
ネットスーパーでスニーカーを買うってのもありだけど、見る人が見れば分かるだろうし、ここは足元もこっちの世界でそろえておくか。
金貨1枚と銀貨5枚のレッドボアの革で出来た足首までのブーツも購入することにした。
「鞄と鞘付きベルト、財布、ブーツで金貨11枚です……が、タダでいいですよ」
「え?」
タダって、え、何で?
「ムコーダさんは命の恩人ですし、ラーシュさんから話聞きました。頂いたお食事が高級肉だったって……まさかブラックサーペントの肉やロックバードの肉とはつゆ知らず、すみませんでした」
「いえいえ、あれは私たちにとってはいつも食べてるものでしたし。それより、こんな素晴らしい品々がタダだなんて申し訳ないですよ」
「命の恩人から代金はいただけないですよ。次にお買い求めいただくときには支払っていただきますけどね、ハハハ」
「ランベルトさん、ありがとうございます。それじゃお言葉に甘えて、いただきます」
金貨11枚がタダになったぜ。
ありがたや。
人助けもするもんだな。
「話は変わりますが、ムコーダさんに少し相談があるのですが……」
ランベルトさんほどの商人が、俺に相談だ何てなんだろう?
「ブラックサーペントの肉をお持ちだったということは、ブラックサーペントを狩ったということですよね?」
「ええ。俺じゃなくてフェルがですが」
そう言って寝そべっているフェルを見る。
「もし、ブラックサーペントをお持ちでしたら、直接うちに卸してもらえないでしょうか?」
残念、冒険者ギルドに買取出したばっかりだよ。
「えーと、既に冒険者ギルドに……」
「あー、そうですかぁ残念です。いやね、魔物の素材については、本来なら冒険者ギルドを通じて私たち商人が買い取るというのが基本なのですが、今はどこもブラックサーペントの皮が不足していましてね……。ギルドを通さずに冒険者から直接買うという行為は、冒険者ギルドからも商人仲間からも目をつけられる行為なのですが、少量であればその辺は目を瞑ってもらえますので、もし、ムコーダ様がお持ちでしたら是非買い取らせていただきたかったのですが……」
目をつけられる行為だって分かってても俺に話をしたってことは、そんなにブラックサーペントの皮が不足してるのか?
「ブラックサーペントの皮、そんなに不足しているのですか?」
「ええ。ブラックサーペントの革製品は高値ですが人気が高く売れ筋なんです。ですが、最近出回る量が少なくなってきていましてね」
そう言ってランベルトさんの顔が曇る。
本当に困ってるみたいだ。
「それでも冒険者ギルドではブラックサーペントの上位種であるレッドサーペントを最近入手したらしいです。私も仕事柄、レッドサーペントの革は何度か目にしたことがあるのですが、あれはため息がでるほど見事な革なんです・・・・・・」
す……」
ランベルトさんがうっとりしたような顔でそう言う。
ランベルトさん、その顔は言っちゃ悪いけどちょっと気持ち悪いですぜ。
「しかし、さすがにレッドサーペントとなると私では手が出ませんからな。本当に残念ですが。今回の皮もブラウアー侯爵家が相当な高値で買い取ったと聞いております。羨ましいですなぁ」
ランベルトさん、すんません。
そのレッドサーペントを冒険者ギルドに買取に出したの俺です。
「ムコーダさん、もし、ブラックサーペントが狩れたときには是非ともうちに卸してください。冒険者ギルドの買取価格よりも少し上乗せさせていただきますので」
是非にとランベルトさんに手まで握られてお願いされてしまった。
「分かりました。そういうお話であれば、手に入れたときにはこちらに持ち込ませていただきます」
それから購入した(最終的にタダにしてもらったんだけど)商品を受け取って、ランベルトさんの店を後にした。