第五十一話 無言のプレッシャー
今日は50話、51話更新です。
日が暮れたところで、馬車が止まった。
「今日はここまでにしましょう」
ランベルトさんの一声で野営の準備が始まる。
『おい、昼間の約束忘れていないだろうな』
え、約束って何かしたっけ?
『助けたら晩御飯豪華にすると言ったではないか』
あー、そうだった。
あんな状況だったからすっかり忘れてました。
フェルはしっかり覚えてるんだな。
「分かった分かった。それじゃ、何食いたい?」
『スイ、から揚げが食べたいなぁ』
『おお、この間お主が作ったものか。それはいい考えだ。我もから揚げが食いたい』
フェルもスイの考えに乗ったようだ。
俺もこの間は少ししか食えなかったからいいと思うぜ。
それじゃ、から揚げを作りますか。
今回は豪華にって約束だから、普通の醤油ベースの味と塩ベースの味の2種類を作ることにする。
肉も、ブラックサーペントとそれからコカトリスとロックバードの肉の残り全部を放出だ。
醤油と塩のから揚げをどんどん揚げていく。
『あるじー、食べてもいい?』
「ちょっと待ってね」
から揚げを皿に盛ってフェルとスイに出してやる。
『あ、この間のと違う味がある。これも美味しいね』
お、スイは気付いたか。
喜んでもらえて良かったよ。
フェルは無言でバクバク食っている。
あれだけバクバク食ってるってことは美味いんだろう。
さて、どんどん揚げていきますかって……。
なんかランベルトさんやランベルトさんに雇われてる商隊の一員の少年と青年、フェニックスのメンバーたちが俺たちの周りに集まって来てるんだけど。
ジーッとこっち凝視してるし。
若干名涎垂らしてるのもいるし。
無言のプレッシャーが……。
あー、はいはい、分かりましたよ。
「あの、よろしかったらどうぞ」
から揚げを盛った皿を差し出すと、みんな待ってましたとばかりに飛びついた。
「いやーすみませんねぇ」
「ほんと、ねだったみてぇですまんな」
「うっめぇー」
「美味しいです、美味しいです」
「こんな美味いもの食ったの初めてだ」
やっぱりから揚げは大人気だね。
もうそれからはから揚げ揚げるのに徹したよ。
フェルとスイの分だけでも大変なのに、大人数も加わったからそりゃもうね。
しかもだ、悲しいことに今回はから揚げが1個も残らなかったぜ。
仕方がないからこっそりネットスーパーで菓子パン買って食ったよ。
チクショウ。
その代わりと言っては何だけど、俺は夜の見張りを免除された。
フェルが結界はってくれるから、見張りなんてしたことなかったけど、普通はやらないとダメなんだよなぁ。
「助けてもらったり美味い物食わせてもらったお礼と言っちゃなんだけど、ゆっくり寝てくれ」
フェニックスのメンバーたちがそう言ってくれたのでありがたく寝させてもらうことにする。
「おまえたちにはこれだ。クソ不味い携帯食だが食えるだけマシだと思え。あと、逃げようとしたら切り捨てるからな」
最初の見張り役のラーシュさんが、俺たちが寝るころにようやく盗賊たちに少しだけ飯を与えて脅しをかける。
さすが冒険者容赦ないな。
でも、自業自得だし。
昼間の惨劇から時間も経ってたことで、少し反抗的な態度の奴もいたから俺も脅しの援護をちょっとした。
「私たちは寝させていただきますけど、耳はいいですからね」
フェルの方を見てそう言う。
「寝てても飛び起きます。ラーシュさんが手を出すまでもなく、逃げ出そうとした者はバラバラの細切れになりますよ」
そう言うと、盗賊たちが怯えたように震えだす。
「それもそうだな。おまえらの頭みたいに死にたくなかったら大人しくしてるんだな」
脅しも効いたみたいで大丈夫そうだ。
寝るときに布団を出すわけにもいかず、久しぶりにマントにくるまって寝ることになった。
布団がお気に入りのスイがちょっとだけごねたけどな。
街に着くまでだから我慢してと言うと健気にも『スイ、我慢する』と言ってくれたよ。
あースイたんかわいい。
明日もスイが食いたい物を作ってやろうと心に誓う俺だった。