第五十話 冒険者ギルド恐るべし
今日は50話、51話更新です。
ランベルトさんたちの商隊に付いてカレーリナの街まで行くことになった俺たち。
カレーリナの街までは、ランベルトさんの話によるとあと2日かかるとのことだった。
馬車の御者台に座るのは、馬を操るランベルトさんと、フェニックスのリーダーのラーシュさん。
馬車の左右にフェニックスのメンバーが1人ずつ護衛に当たっている。
そして、馬車の後ろにお縄になった盗賊たち総勢8名が2列になって続く。
その盗賊の監視に列の左右にフェニックスのメンバーが1人ずつという布陣だ。
俺たちは、盗賊の列の後ろを付いて行く形だ。
もちろん俺はフェルの背に乗って、スイは定位置の鞄の中。
ちなみにだが、この盗賊たちはカレーリナの街の騎士団に引き渡すことになっている。
盗賊の頭は死んでしまったが、盗賊に応戦して盗賊が死んでしまっても罪にはならないし、騎士団に報告してそれが認められれば討伐報酬が出るそうだ。
それに、生き残った盗賊も騎士団に引き渡すと賞金が出るのだそう。
この盗賊たちは、フェルとスイが倒したから俺が受け取ってくれとのことだった。
ランベルトさんは助けてもらっただけでも御の字だから是非にという話だし、フェニックスのメンバーは護衛任務の責任をきちんと果たせなかった俺たちがもらうべきものではないという話だ。
賞金が入るのはありがたいので、ありがたく受け取ることにした。
盗賊をぞろぞろ連れていかなきゃいかないのは心苦しいところだが。
そんな中、小声で話す冒険者の話が耳に入る。
ちなみにフェニックスのメンバーはみんな男でラーシュさん並みにガタイがいい。
だからなのか小声で話してるつもりでも、小声になってないからな。
会話全部聞こえてるし。
「なぁ、リーダーがあれはフェンリルだって言ってたけど本当か? 噂ではグレートウルフだって聞いてたんだけど」
「俺にもよくわからねぇ。リーダーはフェンリルっつってたけど……」
「伝説の魔獣が従魔になんかなるもんなんか?」
「実を言うと、俺、サンドラちゃんからはグレートウルフだって聞いてたんだけどさ」
「サンドラちゃんって、お前とイイ仲になったギルド職員のサンドラちゃんか?」
「ああ。ほら、冒険者ギルド間で転移の魔法道具で手紙のやり取りしてるのは有名だろうが。あれでいろんな情報が来るんだけど、情報が錯綜してるらしいんだ。フェンリルだっつったり、グレートウルフだっつったりさ。で、サンドラちゃんのとこでは、さすがにフェンリルはないだろうって意見が大半を占めて、グレートウルフだろうってことで意見がまとまったらしい」
「そうなのか、普通はそうだよなぁ」
「だけどさ、あのリーダーがフェンリルだって断言してんだぜ。しかも、死にたくなかったら絶対に逆らうなとも言ってたし……」
「まぁどっちにしろ俺たちじゃ敵わないんだけどよ。グレートウルフだったとしてもAランクの魔物なんだし」
「そりゃそうだ。幸い従魔だってのは間違いないみたいで大人しくしてるから、触らぬ神に祟りなしってことでいこうぜ」
「そうだな」
…………そんな話になってたんだな。
よく考えたらさ、電話もないこの世界でフェルの噂がここまで広まってるってのは何でだろうって不思議だったんだよ。
転移の魔法道具か、そんなのあったんだな。
冒険者ギルド恐るべし。
ってか、どう考えてもフェルの噂流しやがったの冒険者ギルドの職員じゃねぇーか。
まぁ、どんな組織でも言えるけど、そこの人間はピンキリってことだな。
それにしても、ラーシュさんはフェルがフェンリルだって確信してるみたいだけど、メンバーはそうでもないんだな。
やっぱりその辺は強さとか経験がモノを言うのかもしれないな。
フェルがフェンリルだって初見で見抜いたアイアン・ウィルのヴェルナーさんたちはCランクの冒険者だし、冒険者ギルドのおっさんもそれなりのランクにいったって自分で言ってたからCかBくらいにはなってたんだろう。
ラーシュさんもCランクだって言ってたし。
フェニックスの他のメンバーはまだ20代前半みたいだし、DランクとEランクだって言ってたな。
それを考えると、フェンリルだって見抜けるのはCランク辺りからか……。
とりあえずはグレートウルフで通して、フェンリルだって見抜いた人には曖昧にしとくしかないかな。
見抜いてる人はそれなりの力量があって、フェンリルがどういう魔獣か分かってるから下手に手を出してくることもなさそうだし。
ラーシュさんも他のメンバーに「死にたくなかったら絶対に逆らうな」なんて言い聞かせていたみたいだしな。
一番の問題は貴族連中と国か。
差別のない比較的自由な国ということでこの国に来たんだし、ここでは変なちょっかいかけられなきゃいいけど。