第四十九話 フェル・スイ連合VS盗賊
遅くなりましたが、48話と49話更新です。
フェルが速度を上げた。
木々の間から青い空が見える。
「よしっ、抜けたーッ」
森を抜けてだだっ広い草原に出た。
1か月半の旅路の末にようやく森を抜けた。
「はぁ、やっと森ともおさらばだなぁ」
草原、気持ち良いぜ。
……って、ここどこだろ?
どっか道ないかな。
「フェルはこの辺通ったことあるんだろ?」
『まあな』
「この辺に人の道ってないかな?」
『人の道か? 確かここから少し行ったところにあったはずだ』
「じゃ、そこに向かってくれるか」
『何故だ?』
「フェルの話からいくと、ここはレオンハルト王国だとは思うんだけど、ちゃんと人に確認しといた方がいいと思うんだよな。それに、もうそろそろ肉もなくなるから街にも行きたいんだよ」
『肉がなくなるだと? それは一大事ではないか。人の道だな。すぐに向かう』
あ、やっぱフェルにとっては肉がなくなるのは一大事なんだね。
フェルの言うとおり人の道にはすぐにたどり着いた。
あとはこの道を進みながら人に会えればいいんだけど……。
フェルの背に乗せてもらいながら道を進んでいると、遠くに馬車が見えた。
「あ、人だ……」
なんか人の声が途切れ途切れに聞こえる。
これだけ離れているのに聞こえるってことは相当大きな声を出しているようだ。
『あの馬車、盗賊に襲われているな』
へ?
と、盗賊ッ?!
「フェ、フェルッ、助けてやってくれっ。今日の晩御飯豪華にするからッ!」
咄嗟にそう口にしていた。
とにかく助けないとってことしか頭に浮かばなかった。
『その言葉、忘れるでないぞッ』
そう言うとフェルが馬車に向かって速度を上げた。
馬車はもう目の前だった。
護衛だろう冒険者たちが、柄の悪そうないかにも盗賊といった風体の男たちと戦っていた。
盗賊の方が数が多く冒険者たちが押されているようだ。
『耳を塞いでいろ』
フェルの言うとおり耳を塞いだ。
『アォーーーーーン』
耳を塞いでいてもビクッと体が硬直するようなフェルの遠吠え。
まともに聞いた盗賊と冒険者は体を硬直させて動きを止めた。
スイが鞄から這い出してきた。
『あるじー、どうしたの?』
「悪いヤツらがいたからフェルおじちゃんが懲らしめてるんだ」
『え、そうなの? スイもやるー』
「そうか? じゃあ、あそことあそことあそこの男の人の武器持ってる方の腕に酸弾を当ててくれるか? 酸弾は小さくていいからな。武器を持てないようにしてほしいんだ」
『わかったー』
ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ。
「ギャァァァァッ」
「グォーーーーッ」
「ガァァァァァッ」
「ギャーーーーッ」
「ギィヤァァァッ」
スイの酸弾に腕を貫かれた盗賊たちの叫び声が上がる。
なんかスイの酸弾が進化してる。
ただ水鉄砲みたいに撃つだけじゃなくって、酸液を高速で噴射してさながら酸液のビームのようだ。
『盗賊ども、そこから一歩でも動いたら食い殺すぞ。分かったのなら武器を投げ捨てろ』
スイに攻撃されなかった盗賊も、歯を剥き出しにしたフェルを見て顔を青くする。
そして、武器を投げ捨てた。
だが、盗賊の中で一番図体の大きい男だけフェルに従わず斧を振りかぶった。
「いきなり横から出てきてふざけたこと抜かしてんじゃねぇよッ!」
狙われたのは俺だった。
咄嗟に腕を交差して頭をかばう。
ザシュッ。
ビュッ。
いつまで経っても来ない攻撃に目を開けると、俺を襲ってきた斧男が吐きたくなるようなグロい姿で息絶えていた。
…………ウェップ。
マジで吐きそう。
フェルの爪斬撃でバラバラになったうえにスイの酸弾食らって……。
どんな姿か想像つくだろう。
盗賊なんて犯罪行為をしたんだから自業自得なんだけど、こんな死に方は絶対したくないね。
斧男の死に様を見て完全に戦意を喪失した盗賊たちは素直にお縄についた。
盗賊たちに縄をかけたのは復活した冒険者たちだった。
比較的早く助けに入ったことで深手を負っている冒険者はいなかった。
盗賊たちを縛り上げたあと、冒険者の男と馬車にいた商人が声をかけて来た。
「私はレオンハルト王国北西の街カレーリナで商人をしておりますランベルトと申します。あなた様のおかげで人も荷も無事です。助けていただき本当にありがとうございます」
そう言って深々と頭を下げたのは40代半ばの恰幅の良いおっさんだ。
「俺はこの商隊の護衛を請け負う冒険者パーティー”
そう言って頭を下げたのは180センチ以上の身長に筋肉質ないかにも冒険者といった風体の30前後の赤茶髪の男だ。
「いえいえ、偶然近くを通ったもので……。私はムコーダと申します」
「して、そちらはあなた様の従魔ですか?」
恐々といった感じでランベルトさんがフェルとスイを見てそう聞いてくる。
「はい。私の従魔です。皆さんには危害は加えませんので大丈夫です」
俺がそう言うと、ランベルトさんがホッとしたような顔をした。
「その従魔はフェンリルだよな……。噂は本当だったんだな」
フェルを見ながらそう呟いたのはラーシュさんだ。
噂って、もうそんなに広がってるのか?
「風の噂で、フェンリルを従魔にした冒険者がいるって聞いたんだ。誰かのほら話だと思って気にしてなかったんだが……」
まぁ普通はそう思うよな。
でも、事実なんです。
ここまで噂が広がってるってことは、バレるのも時間の問題か。
ラーシュさんは、フェルを見てすぐに分かったみたいだし。
やっぱ一番の心配はフェルのことで、フェルがいることでまたちょっかい出されないかなってことなんだよなぁ。
レオンハルト王国は差別のない比較的自由な国と聞いているし、チラっと聞いた話だと高ランク冒険者などは積極的に国に受け入れていると聞いたから、そこら辺は期待したい。
フェルは伝説の魔獣でめちゃくちゃ強いからね。
それを理解してレオンハルト王国や同盟国のエルマン王国内では自由にっていうのが理想だ。
そうなってくれるといいけど。
今更どうにもならないし、まぁなるようになるしかないんだけど。
フェルがいるから何があっても多分何とかなりそうな気がする。
そう思わないとやってらんねぇよ。
「ところで、皆さんはどちらまで?」
必殺はぐらかしだ。
俺の口からはフェルがフェンリルだって言わないぜ。
「私たちはカレーリナに戻る途中なのです」
一仕事終えてランベルトさんの本拠地に戻るところか。
俺たちも街に行きたいところだったし、ここは便乗できないかな?
『フェル、スイ、ここは目的地だったレオンハルト王国みたいだし、俺たちもそのカレーリナの街へ行ってみないか?』
『肉の調達だな。我はいいぞ』
『スイもいいよー』
フェルもスイもOKみたいだ。
「ランベルトさん、あの実は私たちレオンハルト王国に来たばかりで、ここら辺の地理に疎いのです。できれば、カレーリナの街へご一緒させてもらえないでしょうか?」
俺がそう言うと、ランベルトさんは笑顔で承諾してくれた。
「皆さんがいらっしゃるなら心強い。こちらこそお願いいたします」
こうして俺たちはカレーリナの街を目指して出発した。