第五話 冒険者と隣国へ向けて出発
待ち合わせの時間に冒険者ギルドの前に行くと、既にアイアン・ウィルのメンバーが勢ぞろいしていた。
「遅くなってすみません」
「いや、俺たちが早く来すぎただけだから気にしないでくれ」
リーダーのヴェルナーさんが笑いながらそう言った。
何でも早め早めの行動が身についているそうだ。
いい心がけである。
「それじゃ行くとするか」
俺は頷いて一路フェーネン王国へと出発した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
キールスの街を出発して旅路は順調に進んでいた。
アイアン・ウィルの布陣も抜かりない。
俺を真ん中にして、先頭は斥候のリタで俺の右側が剣士のヴィンセント、左側が魔法使いのラモンさん、俺の後方右側が回復役のフランカで後方左がヴェルナーさんだ。
いざという時は依頼主である俺を一番に守るための配置だという。
「そろそろ休憩にするか」
ヴェルナーさんの一声で昼休憩となった。
俺は約束通り食事の準備を始める。
とは言ってもあまり時間があるわけじゃないから、簡単なものだ。
まずは、ネットスーパーで買ったカセットコンロをアイテムボックスから出した。
「あれ? ムコーダさんってアイテムボックス持ちなんだ。それに魔道コンロ、すごいの持ってるね」
ヴィンセントの問いに頷きながら「容量は小さいですけどね」と返す。
アイテムボックス持ちのスキルはいると聞いたから、スキルは持ってるけど容量は小さいという設定で使うようにした。
その方が増えた荷物を持つのにも便利だし、変に隠すよりもいいだろうとの判断もある。
「この魔道コンロは知り合いから譲ってもらったんです。もう使う機会もないからってことで、かなり安く譲ってもらったんですよ」
カセットコンロについてもあらかじめ考えていた理由をスラスラと言っていく。
嘘も方便ってやつだ。
ヴィンセントと話しながら、ネットスーパーで買った食パンにチーズとハムを挟んで簡単サンドイッチにする。
そして木のコップにインスタントのコンソメスープの素を入れてと、もちろんそこは見えないようにコソコソやった。
そのコップにカセットコンロで沸かしたお湯を注いでお昼の出来上がりっと。
「皆さん、食事ができましたよ」
冒険者たちにスープの入ったコップとサンドイッチの乗った木の皿を渡していく。
「それじゃ、いただくとするか」
ヴェルナーさんの合図でみんなが食べ始める。
「う、うめぇっ」
「このパン、すっごく柔らかくて美味しいわ」
「うんうん、このパンすっごい柔らかくて美味い。それに、このスープも美味いよ」
「これは美味いな」
「美味い……」
上からヴィンセント、フランカ、リタ、ヴェルナーさん、ラモンさん。
それは良かった。けど、めっちゃ手抜きしてるんだけどね。
特にパンには驚いていた。
こんな柔らかいパンは貴族くらいしか食えないって言ってた。
確かにここに来て食ったパンは黒か茶色い硬いパンだったな。
俺は誤魔化すように「これは私の故郷の製法で作られたパンで、故郷を出るときにたくさん買ってアイテムボックスにいれてきたんです」と言っておいた。
そんな貴重な物をってみんな恐縮してたけど、食べ物なんだから食べないで取っておいても仕方ないですからって返しておいた。
ネットスーパーで食パンはいつでも補充できるしね。
「それにしても、旅路で温かいものにあり付けるとはありがたいことだ」
ヴェルナーさんの言葉にみんな頷いている。
「ホントっすよ。この依頼受けて正解でしたね」
旅の間の食事と言えば、干し肉やら硬いパン等の味気ないものになることが多く、俺が出したような食事は旅路で食うにはごちそうになるそうだ。
美味い物を食えば場が和むのはどこも一緒みたいで、話も弾んだ。
どうやらアイアン・ウィルもこの国の不穏さを察知して他国に移ろうとメンバー間で話していたところらしい。
そこへ俺の依頼が目について、ちょうどいいってことで任務を受けたそうだ。
実際はもっと高い報酬での護衛任務依頼もあったらしいが、今は金にそれほど困っているわけでもないし、旅の間の食事を保証してもらえるならその方がいいということで俺の依頼を受けることにしたんだそうだ。
メンバー5人分の食費となると結構馬鹿にならないらしい。
「こちらこそ依頼を受けていただいて本当に良かったです。私もこの国を早く出た方がいいと思いまして、キールスまで来たところが乗合馬車が停止されていて一時はどうしようかと焦りましたが、皆さんのおかげでこうしてフェーネン王国へと向かうことができます。こう見えて料理は得意な方なので、この先のお食事もお任せください」
そう言うと、みんな笑顔になった。
こんな旅路での楽しみは食事くらいだもんな。
やれるだけ頑張らせてもらいますんで、無事にフェーネン王国へ行かせてくださいよ。