第四十三話 から揚げはここでも大人気メニュー
フェルとオルトロスの一戦の後、再びフェルの背に乗せてもらってひた走ってきた。
日も落ちてきたところで、この辺で野営しようということになったのだが……。
「な、なぁ、ここら辺てまだオルトロスの縄張りなのか?」
『ああそうだな。もう少し行ったところで外れる』
まだオルトロスの縄張りなのか。
ここで呑気に野営しても大丈夫なのか?
気になって辺りを見回す。
『気にせんでも、もうオルトロスは来んだろう。先の一戦でどちらが強者か彼奴等も思い知っただろう』
まあねぇ。
あのフェルにやられたオルトロスは多分だけど、あの中で一番強そうな感じだった。
それを一撃でザックリ屠ったんだからな。
フェルの言うとおり、もう来ないのかもしれない。
だけど、やっぱりオルトロスの縄張りだと思うと落ち着かないよな。
フェルにはしっかりと結界張ってもらわないと。
『そんなことより、飯はまだか?』
「そんなことよりじゃねぇよ、まったく。オルトロスの縄張りならしっかり結界張っといてくれよな」
『あるじー、スイもお腹減った』
「スイお腹減ったのかぁ、じゃあご飯にしようね」
『……おい、お主スイと我への態度が違うぞ』
それはしょうがないだろう。
だってスイたん最強にかわいいし。
さて、ちょっといじけ気味のフェルは放置して、飯を作りますか。
何を作ろうかとアイテムボックスの中を確認する。
肉が大分減ってきているな。
「フェル、あとどれくらいで森を抜けるんだ?」
『む、今は半分と少し通り過ぎたところだ』
ということは、ここまでくるのに約3週間かかっているから、同じくらいかかるってことか。
あと約3週間か……ギリギリ持つってところかな。
まぁ、いざとなればネットスーパーもあるし大丈夫かな。
丼物にして肉を節約って方法もあるしね。
となると、今まで手をつけてなかったあの肉を使ってみるか。
今まで手をつけてなかった肉というのは、ブラックサーペントだ。
だってヘビだぞ。
冒険者ギルドのおっさんが高級品だって言ってたから、それなりに美味いんだとは思うんだけどさ……。
それにヘビって鶏肉っぽい味だっていうし。
そう思ってはいたんだけど、ヘビっていうとなんか今まで手が出なかったんだよ。
でも、オークの肉だって食ってみたらめちゃ美味かったんだから、ブラックサーペントだってきっと美味いはずだ。
うん、ブラックサーペント食ってみるべしだ。
鶏肉っぽいなら、あれかな。
みんな大好き唐揚げだ。
まずはネットスーパーで足りない材料を買っていく。
醤油と酒はあったな、にんにくとしょうがはすりおろすの面倒だからチューブのを買って、あとは小麦粉と片栗粉とサラダ油だな。
それからフライパンと普通の鍋なんかはあるけど、揚げ物用の鍋はなかったから買わないと。
よし、調理開始だ。
ブラックサーペントの肉を一口大に切って、フォークを刺して味が染み込むようにしておく。
ビニール袋に醤油、酒、おろしにんにく、おろししょうがを入れてシャカシャカ振って混ぜておく。
そこにブラックサーペントの肉を投入して揉みこんでから、少し時間を置いて味を染み込ませる。
フォークで穴を開けてるから味が染み込みやすくなっているけど、10分は放置だな。
その間に皿にキッチンペーパーを敷いて準備しておく。
油も温めておかないとな。
よし、もうそろそろいいかな。
ブラックサーペントの肉を小麦粉と片栗粉を混ぜたものにまぶし、余計な粉を落としてから揚げていく。
うん、いい感じのきつね色に揚がったな。
見た目はまんま鶏のから揚げだな。
あとは味だけど……。
ヘビだと思うからダメなんだよな。
鶏だと思ってちょっと1つ味見をしてみる。
サクッ、もぐもぐもぐ。
…………普通に美味いぜ。
『ずるいぞ。我にも食わせろ』
ジッと待っていたフェルが我慢できなくなったのか、揚がったばかりのから揚げをかっさらっていく。
「ちょ、ちょっとっ」
『ぬっ、これは美味いな。足りないぞ、もっとよこせ』
まだ揚げ始めたばっかりなんだよ、ちょっと待て。
『うースイも食べたいー』
あーはいはい、ちょっと待っててね。
「今揚げるから待っててねー」
俺はどんどんから揚げを揚げていった。
揚げたそばから、フェルとスイがガツガツ食っていく。
揚げてはなくなり、揚げてはなくなりのエンドレス。
フェルもスイも食い過ぎ。
いつんなったら終わるんだ?
ってか俺の分残るのか?
「おい、俺の分残しておいてくれよー」
久しぶりのから揚げなのに……。
何度も何度も揚げてを繰り返し、ようやくフェルとスイが満足したようだ。
『うむ、美味かったぞ。この料理はまた食いたい』
『うん、美味しかった。スイもこれ好きー。また食べたいよ』
それは良かった。
から揚げはここでも大人気メニューか。
しかしだ、俺に残されたのはから揚げ3個のみ。
パンに挟んでわびしく食ったさ。
チクショウ。