第三十八話 フェルさんのブートキャンプ~ダンジョン編~(後編)
戦闘シーン(?)難しいです……。
『この階層にはコボルトがいる。数も多くなるから注意しろ』
フェルにそう言われて慎重に歩を進めていく。
『来るぞ』
ワンワン、ギャンギャン鳴きながら歯をむき出しにした犬面のコボルトの集団がこちらに向かって走ってくる。
「ギャーッ、何あれ、無理無理無理ッ」
『無理ではない。結界があるから大丈夫だ。落ち着いて土魔法を撃て』
いやいやいや、落ち着いてられるかよっ。
「ファイヤ『火魔法を使ったら、ここにお主一人置いていくぞ』……」
コボルトの凶悪面に思わずファイヤーボールを撃とうとしたら、フェルの無慈悲なその言葉。
フェルの鬼、悪魔っ。
くっそー、とにかくストーンバレットを撃って撃って撃ちまくるしかない。
ファイヤーボールはそれで出来るようになったんだから、信じてやるしかないぜ。
「ストーンバレットッ、ストーンバレットッ、ストーンバレットッ」
ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッと小石が飛んでいく。
先頭を走るコボルト2体に命中して倒れたが、その後ろにいたコボルトは変わることなくこちらに向かって走ってくる。
犬だけに足が速い。
コボルトは俺の目の前まで来て大きな口を開けて今にも噛み付きそうな勢いだ。
ギャーーーッ、もうダメだ。
俺はこんなダンジョンの中で死ぬのかと思って目を閉じた瞬間。
ガキンッ。
コボルトの噛み付き攻撃が何かに阻まれた。
恐る恐る目を開けると、硬い透明なものに阻まれ大口を開けて間抜け面をさらすコボルトが目の前にいた。
『だから大丈夫だと何度も言っているだろう。我の結界はコボルトに破られるような柔なものではない』
分かってるよ、頭では分かってはいるんだ。
けどさ、フェルの結界は透明だから臨場感がハンパないんだよ。
あんな凶暴な顔のコボルトに迫られたら怖いんだって。
ふー、落ち着け。
フェルの言うとおり、この結界はかなり頑丈にできているみたいだ。
コボルトの集団が迫ってくる様は確かに怖い。
だが、フェルの結界があるから大丈夫。
とにかく土魔法だ。
撃って撃って撃ちまくって習得するんだ。
そうじゃないとダンジョンに入った意味がない。
「よし、やるぜっ」
『その意気だ。またコボルトが来るぞ』
「ストーンバレットッ、ストーンバレットッ、ストーンバレットッ!」
コボルトに容赦なくストーンバレットを撃って撃って撃ちまくっていった。
数多のコボルトを倒し、ようやく下に進む階段の前まで来ていた。
「ハァ、ハァ、どうだフェル。俺のストーンバレットも良くなってきただろ?石礫が3つくらいは飛ぶようになってきたし」
『まだまだだな。小石3つ飛ぶようになったくらいで自惚れるな』
ぐぬぬ、手厳しい。
『次がようやく最下層だ。下は広い空間になっていて、おそらくコボルトが相当数待っているはずだ。心してかかれ』
俺は頷いてフェルの後に続いてゆっくりと階段を下りていった。
最下層は丸いドーム型の広い空間になっていて、フェルの言うとおりコボルトであふれかえっていた。
「こ、これは多すぎじゃねぇのか……」
『ぬ、確かに多いな。我が入ったときはこんなにいなかったはずだが……ん?奥にキングがいるな』
「キ、キングって上位種か?」
『そうだ。とりあえずお主とスイで倒してみろ。結界もあるし心配はいらん。いざとなれば我もいるしな』
いやいやいや、倒してみろじゃないからな。
お前ってどうしてそう無理なことばっか言うんだよ。
『スイはやる気だぞ。お主も見習え』
そうフェルに言われてスイを見ると、触手を出して酸液発射の準備万端だった。
「ス、スイ~」
なしてお前そんなにやる気なの?
俺のかわいいスイは実は戦闘狂だった?
『お主に比べたらスイの方が余程勇敢だな。それ行け』
そう言われてフェルに押された。
「ちょっ……」
俺がよろけて一歩前へ出たのを合図に大勢のコボルトが向かってきた。
「う、うわぁぁぁッ」
ビュッ、ビュッ、ビュッ。
スイは見たことないくらいの速さで這いながら酸液を飛ばしていた。
酸液が当たったコボルトは断末魔を叫びながら溶けていく。
「ス、スイッ?!」
スイがこんなに攻撃的だったとは。
こんな場面じゃなきゃ吐くぞ、この絵面。
『ほれ、お主も行けっ。使うのは土魔法だぞ』
再びフェルに押される。
大量のコボルトが迫ってきている。
「クソッ、ストーンバレットッ!ストーンバレットッ!!ストーンバレットォッ!!!」
やけくそでストーンバレットを撃ちまくった。
………………
とにかく撃って撃って撃って、撃ちまくったぜ。
フェルの言い分をすんなり認めるのは癪だけど、思っていたとおりのストーンバレットを撃てるようになっていた。
残るは、一際大きいコボルトキングだ。
一番奥で悠然と立っていたが、仲間のコボルトたちが次々とやられていったのを見て怒ったのか、歯をむき出しにして唸り声を上げている。
「ハァ、ハァ、ハァ、あとはアイツだけだ……」
コボルトキングが「グワォーン」と雄たけびを上げ斧を振りかざしてこちらに向かってくる。
「ハァ、ハァ、ストーンバレットッ!ストーンバレットッ!!ストーンバレットォォォォォッ!!!」
俺の最後の力を振り絞ったストーンバレットがコボルトキングにぶち当たった。
血を流しながらもコボルトキングは倒れなかった。
血濡れのまま憤怒の表情で向かって来たコボルトキングは俺のすぐ傍まで来ていた。
「クソッ、魔力切れだ……フェル後は頼む……」
そう言って意識を失う寸前に、俺とコボルトキングの間にプルプル震えるスイが割って入った。
そして、ビューッと大量の酸液をコボルトキングに浴びせかける。
コボルトキングは叫び声を上げる間もなくドロドロに溶けていった。
へ?何、この最後。
スイが全部良いとこ取り?
ス、スイーーーーーッ?!
俺はまた魔力切れで意識を失ったのだった。