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第三十五話 スイとフェルと女神のおねだり

 「ストーンバレットッ」

 ビュンッと小さい石の礫(ストーンバレット)が1個飛んで行く。

 そして的にしていた木にカツンと当たった。

 急いで見に行くと、少しだが幹が抉れていた。

 「よっしゃ! 少しは良くなってきてるな」

 飛んでいくストーンバレットは相変わらず1個だけだが、前よりもスピードが速くなったおかげで威力も増している。

 これも風の女神ニンリルの加護(小)のおかげだろう。

 (小)だがいい仕事してくれるぜ。

 女神様様である。

 今はというと食後の小休憩中だ。

 俺はその時間を利用して土魔法の練習をしている。

 フェルは食事が終わるとすぐに『ちょっと気になることがある』と言って森の中に駆けて行ってしまった。

 すぐに戻るから心配するなって言ってたし、俺とスイの周りに結界も張っていってくれたからいいんだけどな。

 スイは俺の足元でプルプルしている。

 ちなみに着実にレベルアップしていて(なにせ異世界ゴミを食うだけでレベルアップだからな)今はレベル13になっている。

 どれくらいのレベルになったら進化するのか非常に楽しみだ。

 さて、土魔法の練習続けるぞ。

 やっぱり俺みたいな凡人は練習あるのみだからな。

 「ストーンバレットッ」




 ふー、疲れた。

 ちょい魔力を使い過ぎたかな。

 練習あるのみなのに、魔力を使い過ぎると疲れがドッと出るのも困りものだよな。

 もうちょっと魔力があるといいんだけど。

 まぁ、ない物ねだりしても仕方ない。

 疲れた時は甘い物だな。

 ネットスーパーで板チョコと缶コーヒーを買った。

 缶コーヒーはブラックだ。

 甘いのと苦いので、このチョコとブラックコーヒーの組み合わせが絶妙なのだ。

 チョコレートを食っていると、スイが足にまとわりついてきた。

 「何だ、スイも食いたいのか?」

 そう聞くとスイがプルプル震えだした。

 半分に割った板チョコをスイの触手に持たせてやるとすぐに食い始める。

 板チョコがスイの中で一瞬で溶けた。

 スイは板チョコが気に入ったようで、プルプル震えてもっともっとと言うように体を俺の足にこすりつけてくる。

 「お前、おねだりが上手いな。ちょっと待ってろ」

 スイのために板チョコを追加で購入する。

 スイに板チョコをやると、プルプルプルプル震えながら美味そうに食っている。

 俺もスイには甘いな。

 こいつ人懐っこくてかわいいからついついね。

 それにしても、フェル遅いな。

 すぐに帰ってくるとか言ってたけど、大分時間経ってるよな。

 それから魔力の回復も兼ねてスイとまったり過ごしていると、しばらくしてフェルがようやく帰ってきた。

 「遅かったな、フェル。何かあったのか?」

 『大丈夫だ。たいしたことではない。ん? スンスン……』

 フェルが俺とスイの周りを鼻でクンクン嗅ぎだした。

 「な、何だよ?」

 『お主ら、我のいないところで何か美味いものを食わなかったか?』

 ギクッ。

 チョコレートのことだよな。

 そんなチョコの甘い匂いするか?

 「い、いや、別に」

 そういうと、フェルがジトーっとこっちを見てくる。

 『我の鼻は誤魔化されんぞ』

 ぐっ……。

 くそう、バレてるか。

 やっぱり犬だか狼だかそっち系統のフェンリルの嗅覚は鋭いな。

 「俺とスイでチョコレートっていうお菓子を食ってたんだよ。魔法の練習して疲れてたからな。疲れたときには甘い物がいいんだ」

 『我も走って少し疲れたから、そのチョコレートやらがほしい』

 何が疲れただ。

 お前みたいなステータスの数値がほとんどカンストに近い輩がちょっと走ってきただけで疲れるわけないだろうが。

 『お主とスイだけが食い、我だけ食えないというのはズルイぞ』

 うっ、それを言われると……。

 あーもう、わかりましたよ。

 フェルのジト目に負けて、ネットスーパーで板チョコを買った。

 スイも欲しそうにこっちを見てたから(実際に目はないのだがそんな感じなのだ)スイの分も買ってやる。

 「ほら、これがチョコレートだ」

 包装を剥いた板チョコを差し出すと、フェルがバリバリ食べだした。

 『むっ、これは初めて食べる味だな。嫌いではないぞ』

 はぁ、そうですかって、こいつ板チョコ10枚ペロッと食っちまった。

 そんなに食って虫歯にって、ああ、状態異常無効があるから虫歯にもならないんだったな。

 いいよなぁって、そう言えば俺も(小)ではあるけど神の加護があるから虫歯にならないんだよな?

 まぁ、甘い物食うって言ったってフェルみたいな量食うわけじゃないけど。

 ちなみにスイも喜んで板チョコを食っていた。

 『そなた、妾は風の女神ニンリルじゃ。今すぐチョコレートとやらを供え祈るのじゃ。あ、どら焼きも一緒に供えるようにするのじゃ』

 頭の中に女性の声が響いた。

 フェルとの念話に似ているけど、それよりもはっきりと声が聞こえた。

 ニンリル様だって言ってるけど…………。

 これって甘味のおねだりだよな?

 これが神託なのか?

 『そうじゃ。神託なのじゃ。早くするのじゃ』

 何その催促。

 女神様、お菓子のおねだりに神託って…………神様としてそれいいのか?

 言っちゃ悪いけど、ダメダメな女神様だなぁ。

 威厳もへったくれもないよ、これ。

 『うるさいのじゃ。神だって楽しみが必要なのじゃ』

 うわっ、本音炸裂だよ。

 まったくしょうがない女神様だな。

 フェルから「甘味を供えろ」って神託があったって聞いたときから、ちょっと残念な女神様かもとは思ってたけどさ。

 てか神様特権で異世界からお取り寄せとかできないのかな?

 そうすれば俺にお供えしろとか言わなくて済むじゃんな。

 まぁ加護をもらった手前お供えはするけどさぁ。

 俺は女神様のためにネットスーパーで板チョコとどら焼きを買った。

 『ん、何だ? もっとくれるのか?』

 「違う違う、これはフェルのためじゃないよ。今、ニンリル様から神託がくだったんだ。チョコレートお供えして祈れってさ」

 『ぬ、そうなのか。ニンリル様の神託とあらばしっかり祈れ』

 俺は段ボールの祭壇にチョコとどら焼きを供えて祈った。

 目を開けるとチョコとどら焼きは消えていた。

 『ぐっじょぶじゃ』

 何がグッジョブだよ。

 そんな言葉どこで覚えて来るんだよ。

 ホント残念女神だな。

 『よし、祈りは終わったな。では、行くぞ。早く乗れ』

 フェルが何でか急かしてくる。

 「わかったけど、何か急ぐ用でもあるのか?」

 『い、いや別にないぞ。それより、お主の土魔法はどうなんだ?』

 あれ?今何か誤魔化された?

 「相変わらず小石1個飛ぶだけだけど、ニンリル様の加護のおかげか威力は強くなったんだぜ」

 『ストーンバレットとは石礫をいくつも飛ばす魔法のはずだろう。それが相変わらず1つしか飛ばせないとは……』

 ぐぬぬ、しょうがねぇじゃねぇか飛ばないんだから。

 『これは、やはりあそこへ連れて行くしかあるまいな』(フェル小声)

 「ん?何か言ったか?」

 『何でもない。それより早く乗れ』

 「はいはい。スイも鞄に入ってるな。おし、いいぞ」

 『では、行くぞ』






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