第三十三話 風の女神ニンリルの加護(小)
今日は33話、34話更新です。
「ふぁ~あ」
布団から這い出すと、スイも一緒に起き出した。
スイは俺の布団で一緒に寝ているのだ。
初日に俺の布団の中に入り込んできてから気に入ったのか、俺が布団に入るとスイもすぐに入り込んでくる。
いつもは俺と同じくらいに起きるフェルが、既に起きていた。
ん?何かいつもと様子が違うな。
「おい、腹でも壊したか?」
『腹など壊しとらん。そもそも我が病気になることはない。まったくそんなことはどうでもいいのだ。お主に大事な話がある』
フェルが改まってというか神妙な声でそう言うから、俺も居住まいを正した。
『昨夜、風の女神ニンリル様から神託が下った』
は?神の加護があると、そういうこともあるのか?
フェルに聞いてみると、神の加護があると時々そういうことがあるらしい。
フェルの場合は寝ているとき夢にニンリル様が出てくると言っていた。
『ニンリル様の神託なのだが、お主に関係があるのだ』
ほえ?俺にか?
『ニンリル様の寛大なご配慮により、お主に加護を与えてもいいということだった。ただし、週に一度異世界の甘味を祭壇に供え祈りをささげよとのことだ』
…………何故に異世界の甘味?
まさか、女神俺たちの旅を見てて菓子パンやらどら焼き食ってたの見て食いたくなったとか?
いやいや、いくら何でもそれはないか。
『此度のことは、お主の神の加護がほしいという思いを汲んでのニンリル様の慈悲なのだが、さすがに我のような加護は与えられないとのこと。だが、神の加護(小)ならば、週に一度異世界の甘味を祭壇に供え祈りをささげることにより与えることは可能とのことだった』
……これってやっぱ甘味食いたいだけか?
女神様、何やってるんですか?
『神の加護(小)とは言っても、即死効果のあるものや余程強い呪術でもない限り状態異常無効化の力は発揮されるし、魔法の発動が良くなるそうだ』
へ、そうなん?
即死効果や強い呪術には効かないにしても、状態異常無効化と魔法の発動が良くなるって、いい事尽くめじゃないか。
加護をもらう俺が言うことじゃないけど、こんなんで加護もらっちゃって本当にいいんですかい?
『これはニンリル様のお慈悲だ。心して受けよ』
ははー。
神の加護(小)がもらえるならば、甘味でも祈りでもささげるぜ。
状態異常無効化と魔法の発動が良くなるなんて、俺としちゃありがたいとしか言いようがないもんね。
「もちろん神の加護がもらえるなら、お供えもお祈りもするよ。でも、祭壇に供えてって祭壇なんてないけどどうするんだ?」
だって俺たちは旅の途中だぞ。
週一でお供えとお祈りしなきゃならんのに、神殿なんていつでも近場にあるわけじゃないだろう。
『祭壇などは何でもかまわん。極端な話、そこにある石を祭壇に見立ててもよいのだ。一番大事なのは気持ちを込め祈ることなのだ。目を閉じてニンリル様に感謝の気持ちを込めて祈れ。さすればニンリル様に祈りが通じる』
ほうほう、なるほど。
では早速ニンリル様にお供えものとお祈りをしてみますか。
えーと、祭壇は何にするかな……。
あ、段ボールでいいや。
これならアイテムボックスにいつでも入ってるし。
畳む前の段ボール箱の底を上にして、これを祭壇にしよう。
『言い忘れてたことがある。最初の供物としてあんぱんとジャムぱんとクリームパンをニンリル様はご所望されている』
女神様、神託でリクエストまでするとは……やりおるな。
女神様、菓子パン食ってた頃から見てたのか。
女は甘い物に目がないからなぁ。
会社の女性たちも甘い物は別腹だって公言してたもんな。(遠い目)
おそらく俺らが菓子パン食ってるの見てどうしようと思いつつも我慢したけど、昨日のどら焼きで我慢できなくなったんだろうなぁ。
ネットスーパーであんぱんとジャムパンとクリームパン、これのお供についでにコーヒー牛乳も購入した。
段ボールの祭壇にあんぱんとジャムパンとクリームパンとお供のコーヒー牛乳をお供えしていく。
お供えというよりこりゃ貢物だな。
それから目を閉じて手を合わせてお祈りする。
「風の女神ニンリル様、ご希望のものをお供えしました。これに合うコーヒー牛乳もどうぞ。どうか私に神の加護をお与えください。よろしくお願いいたします」
目を開けると、段ボールの祭壇にあったあんぱんとジャムパンとクリームパンとお供のコーヒー牛乳は姿を消していた。
おわっ、消えとるよ。
異世界の神様がどんな仕様なのかわからんけど、どうやら受け取ってもらえたようだ。
これで俺にも神の加護がついてるか?
ステータスの確認をしてみると……
【 加 護 】 風の女神ニンリルの加護(小)
最後に加護が増えて風の女神ニンリルの加護(小)が付いていた。
神の加護ありがたや。
ニンリル様ありがとう。
今度はどら焼きを貢ぎます。
神の加護(小)ゲットしたぜ。