第二十九話 魚を獲ったどー
今日は29話、30話更新です。
あれからフラフラと宿に戻って寝たよ。
まさかボッタクリに遭うとは思わなかったぜ。
フェルのこともあったから街を避けてたし、冒険者ギルドにも商人ギルドにも顔出してなかった俺が悪いんだけどさ。
冒険者っていうと、前に護衛依頼をしたアイアン・ウィルの印象が強くて騙すとかそういうことをするってこと想像すらしなかった。
この世界は王家とか貴族とか上流階級の奴等が権力を使って好き勝手してる印象が強かったけど、考えてみりゃ商人や冒険者にだって良い奴もいれば悪い奴もいるだろう。
前の世界にだって良い奴もいれば悪い奴もいたんだから当然なんだよな。
とにかくあれだな、この街から出よう。
そしてさっさとエルマン王国かレオンハルト王国に行こう。
入手方法はあれだけども、目的の地図も手に入ったわけだしさ。
うん、それがいい。
フェルと一緒に朝食をとった後、そそくさと街を去る準備をする。
「さて、行くか」
『もういいのか?』
「ああ、さっさと行こう」
俺たちはラウテルの街を出るとてくてくと道なりに進んでいた。
「フェル、この後なんだけどな、エルマン王国かレオンハルト王国に行こうと思うんだ」
『国の名前を言われてもわからん。どっちの方角なのだ?』
「エルマン王国もレオンハルト王国も東の方だ。東の海に面している国だよ」
『おお、東の海か。あそこにはシーサーペントやらクラーケンがいるな。あれはあれでなかなか美味いのだ』
…………な、なんか不吉な名前が。
シーサーペントって海に棲む竜っぽいのだし、クラーケンって超巨大なイカだよな。
どっちもボスキャラ級だと思うんだが。
いやいやいや、聞かなかったことにしよう、うん。
というか、フェルは魚介類も大丈夫だったんだな。
『もちろん肉が一番好きだが、たまには魚も食うぞ』
そうなんだ。
考えてみたら、菓子パンも美味いって言って食うぐらいだから何でも食うか。
『ふむ、魚の話をしていたら食いたくなった。森を突っ切って行った方が東への近道にもなるし、その途中に湖もある。おい、行くぞ』
え、それ決定なの?
「お、おい、森の中突っ切って行くって大丈夫なのか?ほら、魔物とか、ヤバいのいそうじゃん」
『フン、我を誰だと思っている? そのような心配は無用だ』
ああ、そう。
でもさ、フェルは強いからいいかもしんないけど、俺はそうはいかない訳よ。
『弱小なお主には常に結界を張っておくから、そう心配するな』
弱小て……。
いや、そうなんだけどさ、事実なんだけど、はっきり言われると俺でもヘコむぞ。
『早く我の背に乗れ』
へいへい。
俺がフェルの背に乗ると『行くぞ』と言って森の中に駆けて行く。
「は、速い、速い、速いッ! もっとゆっくりぃぃぃぃぃぃっ」
飛ぶように駆けるフェルの背中にしがみつきながら叫んだ。
『振り落とされないようにしっかりつかまっておれ。湖まではこの速さで行くぞっ』
食欲の勝利。
クソっ、ここで食いしん坊キャラ炸裂かよっ。
「ギャァァァァーーーーッ」
「アーーー…………アー……ァー……」
俺の叫びが森の中にこだました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
フェルが無茶したおかげですぐに湖に着いた。
ハァ、ハァ、ハァ、死ぬかと思った。
森の中をあのスピードで駆け抜けていくんだぜ、思い出しただけでも……ブルブル。
必死にフェルにしがみついてるのがやっとだった。
大の字に寝転んで安定した地面ってなんて安心できるんだろうとしみじみ思っていると真上にフェルの顔が。
『おい、魚を食うぞ』
…………フェルさんや、少しは休ませくださいよ。
まったくフェルの食欲はとどまることを知らずですな。
でも、魚を食うって、どうやって獲るんだよ?
釣り竿もないし、まさかお前湖の中入って獲ってくるつもりなのか?
『魚を獲るときはこれが一番効くのだ』
フェルがそう言うと……。
バリバリバリバリィィィッ。
湖面に電撃が走った。
すると、プッカーっと魚が次々と浮かんできた。
すぐに湖面は浮かんできた魚でいっぱいになった。
…………フェルさん、やり過ぎ。
雷魔法なんだろうけど、こんなにいっぱいの魚どうすんだよ?
『風魔法で岸まで寄せるから、好きなのを獲れ』
「好きなの獲れって、これって全部死んでるのか?」
『電撃を食らわせて仮死状態にしているだけだから、そのうち生き返る』
ああ、そうなの。
魚さんえらい災難だったな。
では、獲っていきますか。
お、何か紫色の魚がいっぱいいるな。
鑑定してみるとバイオレットトラウトと出た。
30センチくらいの大きさだから塩焼きがいいかもしれんな。
アイテムボックスの中にバイオレットトラウトを入れていく。
さすがに湖面に浮いたのを全部持っていく気はしないが、多めに獲って行っても後で食えるしいいだろう。
俺も最近は肉ばかりだったから魚食べたいし、アイテムボックスに入れておいていつでも魚が食べられるっていうのは悪くない。
お、結構デカいけどこれは何だ?
80センチくらいある銀色の魚で鑑定してみるとキングトラウトと出た。
これくらいの大きさだったら俺でも何とか三枚におろせそうだな。
これも多めに獲っておこう。
おい、ありゃ何だ?
バイオレットトラウトとキングトラウトの中に3メートルくらいありそうな巨大な魚が浮いていた。
『おお、あれはレイクシャークではないか。珍しいな』
聞いてみると、長生きしてるフェルでも見かけることが少ない鮫らしい。
肉は食うのには適さないらしいが。
まぁ、肉は食えなくてもあれだけ大きな魔物だし、フェルでも珍しいって言うくらいの魔物なんだから買取はしてくれるだろう。
とりあえずアイテムボックスにしまっておくことにする。
『これも獲っておいてくれ。舌先にピリッときて美味いのだ』
フェルがそう言って風魔法で俺の目の前の水際まで魚を寄せてきた。
うわっ、なんじゃこれは。
ショッキングピンクに青のストライプ模様の50センチくらいの大きさの魚だった。
なんかいかにも毒持ってそうなヤバい色合いなんだが……。
とりあえず鑑定してみて判明した名前はポイズンレイクフィッシュ。
ダメじゃん。
ってか、これ明らかに毒持ちなんだけど、フェル食って大丈夫だったのか?
「フェル、この魚食ったんだよな?」
『ああ、何度か食ったことがあるぞ。舌先にピリッとして美味かった』
「その舌先にピリッとしてっての毒だと思うぞ。この魚、ポイズンレイクフィッシュっていうみたいだ。フェルは食う前に鑑定しないのか?」
『食う前に鑑定などそんな面倒なことはしない。神の加護がある我には毒など効かぬからな』
あー神の加護ね。
あらゆる状態異常無効化だっけ、いいよな~。
羨ましいぜ。
「神の加護があるフェルには効かないかもしれないけど、俺には毒だからな。こんなのは持ってかないぞ。それにわざわざこんな毒のある魚食わなくたってちゃんとした飯作ってやってるだろうが」
『む、それはそうだがこれはこれで……』
「毒がある魚なんて、他の食材と一緒に入れておけないの。今獲ったバイオレットトラウトとキングトラウトで美味い飯作ってやるから我慢しろ」
『むむむ、仕方がない』