第二十三話 フェルと念話ができることが発覚した
「なぁフェル、俺たち特に目的地を決めないでこうして旅してるわけだけど、どっか行きたいところあるか?」
俺としては、とりあえずあのキナ臭いレイセヘル王国を出られたから、あとは旅をしながらある程度あの国から離れた国に行ければそれでいいんだけど。
『それならば西はどうだ?西にある深遠の森には美味い魔物が多い』
「西?西には何ていう国があるんだ?」
『ぬ、そんなことは知らん』
知らんって、あんた……。
「何ていう国でどんな国かっていうのは大事だぞ。戦争でもやらかしてたら危険だろうが」
『む、国の名前など知らん。人が争っていようがいまいが我には関係のない話だ。それに人はどこかしらで争い事を起こしているからな』
国の名前など知らんって、フェルに聞いたのが間違いだったよ。
まぁ、フェルみたいに強ければ戦争してる最中に突っ込んでいっても無傷だろうから、人の国の名前とか情勢を知る必要性もないのかもしれないけど。
でも、俺の場合はそういうわけにもいかないからな。
人はどこかしらで争いを起こしているってことは、この世界でも国同士の争いごとは絶えないってことか。
あのレイセヘル王国も隣のマルベール王国と戦争になりそうだって言ってたもんな。
やっぱり旅してる以上は、一度この世界の国のことやそれぞれの情勢を知る必要がありそうだ。
そうなるとやっぱ地図欲しいよな。
今までは、旅の途中にあった村にはフェルのこともあって中には入らず迂回していた。
だけど、地図が欲しいから次は入ってみよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『この先に村があるぞ』
フェルは気配察知ができるようで魔物がいる場所や人がいる場所がある程度分かるのかこうして教えてくれる。
『また迂回するのか?』
「いや、今回は入る。地図が欲しいからな」
村の入り口が見えてくると、門番らしき人に「止まれッ」と槍を向けられた。
「冒険者のムコーダと言います。これは私の従魔ですっ」
門番に向かって大声で話すと「証拠は?」と言うから「ギルドカードを見ていただければ」と返した。
商人ギルドのギルドカードを提示したいところなのだが、フェルがいるため、従魔がいることが証明できる冒険者ギルドのギルドカード(名前とランクのほか従魔がいればそれが記載されている)を提示して入るしかないのだ。
俺の返事に2人いた門番のうち1人が恐る恐るこちらに近づいてくる。
「これがギルドカードです」
「う、うむ、確かに従魔のようだな。そ、そ、そいつは、グレートウルフか?」
門番はグレートウルフと勘違いしてくれたようで、フェンリルだと言うよりはマシだろうと思い、否定せずに「はい」と答えておく。
『おい「シッ」……』
フェルがしゃべりそうなのを黙らせる。
グレートウルフでもビビってるのにフェンリルだって言ったら、この門番どうなるかわからんぞ。
それに村人の多くも遠巻きにしてこっち見てるし。
『我はグレートウルフではない』
突然、フェルの声が頭に響いた。
「うおっ」
「ん、何だ?」
「い、いやいや何でもないです、はい……」
「そうか。それにしてもAランクのグレートウルフを従魔にするとは、あんた、すごい冒険者なんだな」
門番のその言葉に曖昧に笑っておく。
『だから我はグレートウルフではない』
またフェルの声が頭に響き、俺はフェルを凝視した。
『ぬ、これか?これは念話だ。従魔契約を結んだ者同士は念話ができる』
へ、そんなの初耳なんですけど。
『うむ、我も従魔契約をしたのは初めてのことだったから、すっかり忘れていたのだ』
フェルさんや、そういう大事なことは忘れたらダメでしょ。
でも、従魔契約を結んだ者同士は念話ができるってことは、俺からもフェルに念話で話しかけることができるってことか?
『あー、あー、あー、フェル聞こえるか?』
『うむ、聞こえるぞ』
『グレートウルフって言ったのはな、そう言っておいた方がいいからだ。考えてもみろ、グレートウルフって聞いただけであんなにビビッてるのに伝説の魔獣フェンリルだって言ったらどうなると思う?』
『むむむ、しかしだな……』
『しかしもへったくれもないんだよ。いらぬ諍いを起こすよりよっぽどいいだろ。これから人の村や街に入るときには、フェルのことはグレートウルフって設定でいくから』
『ぬ、何故だ?』
『フェンリルだって知られたら国やら貴族やらが動き出すだろ。そうなったら面倒じゃないか』
『それはそうだが、国やら貴族やらが来たら我が討ち滅ぼしてやればいいだけではないか』
我が討ち滅ぼしてやればいいって……前からちょっと思ってたけど、フェルって脳筋だよな。
『討ち滅ぼしてやればいいってさ、来るヤツ来るヤツそうしてたら俺たちの居場所はなくなるぞ。それに、そんなことばっかりしてたら人の国々が団結して「フェンリルを滅ぼせーっ、フェンリルに死をーっ」ってなことになるかもしれないぞ。それはそれで厄介だろ』
『ぐっ、確かにそれはあり得るな』
『だろ?だからここは便宜上グレートウルフだっていうことにしておくんだよ』
『お主がそう言うのならば仕方がないか』
『あ、あと村や街なんかの人がいるところでは基本念話で話すこと。フェルが話し出したらフェンリルだってバレるからな』
『む、あい分かった』
俺たちのこんな念話のあとに、無事村に入ることを許可されて村に入ったのだが……。
村人の視線が痛いです。
終には村長まで出てきた。
「レーデン村へようこそ。冒険者さんらしいが、何用でこんな何もない村に来なさった?」
「実は地図が欲しくて、この村に寄ってみたのですが……」
「こんな小さい村に地図なんて高価なもんはありませんよ。あるとしたら、この村から4日ほど行ったところにあるラウテルの街ですかね。あそこなら本屋もありますし、公立図書館もありますから」
この世界では紙は貴重なうえに本は全部手書きだから高価らしい、地図も紙製で手書きなので本屋に売っていると思うが当然これも高価だということだ。
そういう高価な品はある程度大きな街にしか売っていないのだが、ラウテルの街は王都に次いで大きな街だからたいていの物は揃うとのことだった。
村長さんから聞きたいことは聞けたので、すぐに村を出ることにした。
村人たちはフェルみたいな大きな魔獣がいると落ち着かないみたいで、村長さんも早く出て行ってほしいという感じだ。
よそ者にやさしくない村だなぁ。
まぁ次の目的地が決まったからいいけど。
ラウテルの街はレーデン村を出てこの道をまっすぐ4日ほど進んだところにあるということだった。
「んじゃ、ラウテルの街に行きますか。でも、4日かぁ早く地図欲しい」
『ん?早く行きたいなら我の背に乗っていくか?』
「乗せてくれるんならありがたいけど、でも、この前みたいにスピード出さないでくれよ」
『あの速度で行けば1日もかからずに着けるぞ。それとも、もっと早く着いた方がいいか?』
「いやいやいや、あのスピードでも振り落とされそうだったのに、それ以上って死ぬってば。4日かかるところを2日で行くくらいのペースでいいからな。絶対にスピード出さないでくれよ」
『ちと遅い気もするが、お主の言うとおりにしよう』
こうして俺たちは一路ラウテルの街へと向かった。